沼の娘

9:婚姻


大『カンツェーラ』がサンチョに声をかける。 「搾リ尽クシタヨウネ…サァ…オイデ…」 
「?…」 全部出してしまい少し思考力の戻ったサンチョの頭に疑問が浮かぶ。(今更?…残りを頭から齧ろうとでも?…)

グニャリ、ヌチャア…
「?」ミイラ寸前のサンチョは妙な感触を腕に感じた…こんなになっても愛液の効果か、皮膚感覚がはっきりしている…
右手の甲から二の腕にかけて、骨と皮だけになった腕に柔らかな淫肉の感触が心地よい…
「あぁ…手が…沈む…」ぼーっとサンチョは呟く…
サンチョの手が柔らかな淫肉の中に潜っていく…『カンツェーラ』の淫肉の中に…
指の先から手のひらも…艶かしいピンク色の膣の柔壁に潜っていく…
気がつけば…足も腹も胸も…多分首まで…男の体が『カンツェーラ』の性器に呑みこまれている…
力なく、自分の最後を見ていたサンチョの頭に、唐突に『カンツェーラ』の感じている快感がおしよせる…
”あ…ぁぁぁ”圧倒的な『カンツェーラ』の快感が男の心を支配する…
”どぉ…いいでしょう…このまま残りを呑み込んであげる…うふふ…” 『カンツェーラ』の声もサンチョの頭に直接聞こえる。
”ああ…ぁぁぁぁ…”理解しているのか…頭の中でも悦楽のうめきをあげることしか出来ない。
”あいで…私の中に…”
柔らかい淫肉に…サンチョの体が肉の底なし沼に飲まれていく、ヒクヒク蠢きながら…
「うぅぅぅ…あぁぁぁぁぁ…ごぼぉ…」 ブズズブ…
断末魔の声とは違う、快楽のうめき声を残して…サンチョの頭が淫肉に呑まれた…

それを目の前で見せられた島の二人は腰を抜かし、失禁している。
だが、まだ終わっていなかった…

『カンツェーラ』の性器…頭に近いほうの付け根がプクンと膨れる…クリトリスが出来た…と想ったら目と鼻と口が…
「サンチョ!…」絶叫するペドロ…パブロは気絶した…
それは変わり果てたサンチョの顔だった…

『サンチョ』には耳がない、だから二人の声は聞こえていない…
「おお…ペドロ…パブロ…なんだどうした?…」 ぼーっとした声で呼びかける『サンチョ』…自分の体に起きた事が理解できていない。
『サンチョ』には聞こえるのは…優しい『カンツェーラ』の声だけ…
”うふふ…もうあなたは苦しむ事も、飢える事もない…考える必要もない…残っているのは頭と性器だけ…”
「何だって?…よく、わからない…」 『サンチョ』の頭に快感の靄がかかり、思考を邪魔する…気分はいい、とてもいい…ただ、体が動かない…
”理解しなくていいの…こうすると…気持ちいいでしょう…”
『カンツェーラ』の巨大な指が、顔だけになった『サンチョ』を優しく撫でる…
ゾクゾクゾク… 「うぉ…」「ハァ…」『サンチョ』と『カンツェーラ』の両方の体にゾクゾクする感じが…深い快感が走る…
「あぁ…初めてだ…顔がいいなんて…」 『サンチョ』が陶然とした声で言う…
”いいでしょ…あなたは私のクリトリスになったの…あなたの性器は私の子宮の中…だからこうすると…”
『カンツェーラ』は指で、『サンチョ』を愛撫する…
「あぁ…あぁ…あぁぁぁぁぁ…いく…いくぅ!…」「ハァァァ…イク…」 『サンチョ』は射精する、同時に『カンツェーラ』も達する…
ドボ…ドボ…ドボボ…チョポ…
外からはわからないが、『カンツェーラ』の子宮に生えた『サンチョ』の男性器が…睾丸は西瓜ほどになっている…大量の精液噴出させていた…

「よ、よかった…何が…」 『サンチョ』は奇妙な快感の酔いながら、とまどいを隠せない。
”こうやって…私の卵に受精させるのがあなたの役目…あなたは私の性器の一部になったの…”
「何だって…あぁ…」 また『カンツェーラ』の指が、『サンチョ』を愛撫する…
”うふふ…いけばいくほど、頭の中は空っぽになっていく…射精する為だけの感覚器になるの…楽しいわよ…”
「あふ…あふぁ…あぁぁぁぁぁ!…」 また『サンチョ』はいった…
(はは…いくらでもいける…考えるのが面倒になってきた…暖かくて、気持ちいい…あは、あはははは…)
『サンチョ』は至福の表情で目を閉じた…
『カンツェーラ』の性器が閉じて、『サンチョ』を優しく包み隠す…

カチカチカチカチ…ペドロの歯が鳴る…震えが止まらない…
それを見ていた、大『カンツェーラ』の何人かが、仰向けになり、性器を露出させる…
「いっ!?…」 ペドロが絶句する。
彼女達にはクリトリスがあった…最初に消えた男、見張り、沼の辺で逃げた二人、沼で消えた三人…みんなそこにいた…次々目を覚ます…
「ペドロ…」「何してる…」「はやく選んでもらえよ…」「あは…あははは…」
みな、トロンとした酔っているような目つきでペドロを誘う…最初に消えた男は虚ろに笑うだけ…心もなくしたらしい…

「うわぁぁぁぁぁぁ…」 ペドロが絶叫する。
正気で耐えられる世界ではなかった…
「ネェ…オイデ…ワタシト一ツニナロウ…」
一人の大『カンツェーラ』…まだクリトリスがない…がペドロに『求婚』する…

洞窟の出口の教授達も同じ思いだった…こちらでは、歯のカスタネットが五重奏を…もとい不協和音を奏でていた…
五人からは、『サンチョ』の役割まではわからないが、『カンツェーラ』の性器に組み込まれてしまった事はわかった。

無理やり恐怖を押さえ込み、冷静になろうとする五人。
「く、く、喰われるんじゃ…な、な、なかった…」残った部下が言う。
「チョウチンアンコウ…」教授がぼそりと呟く…
「な、何だ?…じいさん、狂ったか…」ボスがうめく。
コットンは一瞬きょとんとして、教授の言わんとする事を理解する。
「そんなことが…ある訳が…」
「どういう事です?…」青年が聞く。
「チョウチンアンコウの一種に、雄が雌に比べてとても小さく、雄が雌の下腹に食いついた後、癒着して、雌の一部になるものがいます。 血液すら共有してしまうらしいんです」
「な!…しかし、そりゃ魚だろう!…あそこにいるのは…あ、魚か…」と部下。
「納得する奴があるか…に、に、逃げるんだ…」ボスが言う。
初めて一行の意見が一致した…

その時、大『カンツェーラ』が目を上げ、教授達に声を掛ける。
「しまった、気づいかれたか!…」
「サァ…貴方達モ…オイデ…オイデ…ココニオイデ…私達ト一ツニナリマショウ…」優しく、妖しく誘う…
円形の窪地、固い崖が声を反響させ、声の威力が倍加する…

教授達は必死で耳を押さえる…
「だめだ…聞いちゃいかん…」
「やめろ…頼む…助けて…」
「ああ…行きたい…一つになりたい…」
「も、戻って逃げ…ああっ!…」
彼らの後ろ、洞窟の中からも、ビチビチと『カンツェーラ』達が出てくる。
退路は絶たれた。

「ワーイ…」「遊ソボ…」洞窟から出てきた幼『カンツェーラ』が、次々に飛びついてくる。
「どわわ!」「逃げろ!」一気にガレ場を駆け下りる教授とコットン…青年が続く。
「このままじゃ…はっはっ…すぐに捕まります…」「コットン!…あれじゃ!…」「おおボートが!」
先ほどの『婚姻の宴』の騒ぎで、小島の端に置いてあったボートが、沼の中に漂い出ていた…それがちょうどガレ場の坂の下近くに来ている。
全力で坂を駆け下りる三人。 目指すはゴムボート。

「うわっ…」ボスと残った山賊は、幼『カンツェーラ』達の抱擁に捕まっている。
「ネェ…まま達ト結婚シテ!」「遊ンデェ!」
「やめろぉ!」「ガキども!なつくんじゃねぇ!」
ボス達は、幼『カンツェーラ』達を振り払おうと激しく暴れ、バランスを崩してガレ場を転がり落ちた。
ガラガラガラ…ゴロゴロゴロ…「うわぁ」「いててててぇ」
幼『カンツェーラ』は、二人から素早く離れ、ピョンピョン飛びながら後を追う…
ドッポーン…途中でガレ場の坂の端から沼に落ちた…
派手な水音で、娘『カンツェーラ』達が集まっていく…

教授達は坂の下からバシャバシャ沼に入り、ボートに乗り込む…
「急げ!」「それ、掴まれ!」教授、コットン、青年がボートに乗り込む。
オールを取り出し、沼の出口に迎う。
「教授!来ました!」力の限りオールを漕ぎながらコットンが叫ぶ。
娘『カンツェーラ』達がスイスイ泳いで後を追ってくる。

コットンと青年がオールを漕ぎ、教授は逃走手段を探す。
「何か無いか、武器は…無い…」ボートに残っているのは、大きなリュックが2つ。 教授とコットンの物だ。 武器は無い。
「教授、ザックの中身は、食料と調査用の小物だけです」コットンが指摘する。
「エサで気を引くか…君らは漕げ、漕ぎまくれ!…」二人に指示する教授。
バッシャバッシャ、スイスイ…娘『カンツェーラ』達が距離を詰めてくる。
「それ、干し魚!」教授が投げる…見向きもしない…
「チョコレート!」ポコ…「イタッ」当たった…
「…おい、何が欲しい!…」 やけをおこして聞く教授。
「アナタ達…オイデ…オイデ…」 律儀に答える、娘『カンツェーラ』。

「何か…くそ…えい!…」 投げ損ねた、ぱっと白い物が散る。「しまった…え?…」
「痛イ!…」「痛イ!…」 バシャバシャ…娘『カンツェーラ』がもがく。
ボートから少し離れ…また追ってくる。
「これは…塩?…これか!」 教授は岩塩の塊を取り出し、砕く。
再び娘『カンツェーラ』達が迫る…「それ!」 教授がばっと塩をかける。
「ギャン!…」「痛イ!…」「痛イ!…」
バチャバチャ逃げ出す娘『カンツェーラ』達。
ボートは外の沼への水路に入る。 ゴムボートのレースがあれば金メダルが取れる…それほどの速さであった。

「教授!」「なんじゃ!」「待ち伏せの可能性は!」「ある…が選択の余地がない…一気に沼を突っ切る!」
バッシャ、バッシャ、バッシャ…
教授達を乗せたゴムボートは、塩を撒きながら、凄い勢いで『バージンロード』を逃げていく…

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