ガールズ イン ア ボトル

Part14:絶たれた望みと狂気の愛と


 「ランデルハウス・クラチウス教授」 『レイシア』が口を挟む。 「私は幸せ者だ。 果て無き旅路の末に、貴殿と会えた、ただ……」

 ランデルハウス教授は彼女を見た。 『レイシア』の口調から、誘うような媚が消えている。

 「貴殿と先に会ったのがサティだった。 それが残念だ」

 『レイシア』は静かに言い放と、同時に触手の山大きくうねって、何かが飛び出して来た。

 「貴方! いえ……ランデルハウス・クラチウス教授!」 叫びながらサティが飛び出してきて、ランデルハウス教授に抱きついた。

 「サティ!?」

 「サティ・アレックスか? どうやって……『レイシア』が呼び込んだのか?」 『創造主』が不快そうな口調で言った。 「お前の役割は

ここに来ることではない。 私が『記憶』が『継承』された肉体と交わり、次の『継承者』を産む事だ」

 『創造主』は、教授と彼に抱きついたサティに歩み寄り、ふたりを引き離そうとした。 が、『創造主』に取って信じられない事が起きた。

 『レイシア』達の触手が教授を解放し、『創造主』に巻きついたのだ。

 「『レイシア』!? 何をする! 私に逆らうのか」

 「イ……イイエ」 苦しそうに『レイシア』が言う。 「コウスルシカ……こうするしかないのです。 貴方の望みを少しでもかなえるためには」

 「な、なんだと……う?……」

 『創造主』の体が硬直した。 『レイシア』たちの触手が彼の体に群がり、至高の悦楽で行動の自由を奪っているのだろう。

 「『創造主』よ、貴方は文明の崩壊が不可避と判断し、『記憶の継承』の為に僅かな望みをかけて私やサティ、多数の同胞を送り出した……」

 『レイシア』は悲痛な声で『創造主』に語りかける。

 「生命の溢れる星にたどり着き、私とサティが再生でき、そして人間とめぐり合えた……奇跡、いえそんな言葉では言い表せない幸運の連続

でした。 しかし駄目なのです『創造主』よ。 彼らには『記憶』を『継承』させることができないのです」

 『レイシア』の言葉、それは『創造主』に取って死の宣告に等しいものだった。 『創造主』の表情が凍りつき、ゆっくりと口元がゆがみ、食いしばった歯がのぞく。

 「ここまでなのか……あと一つ、あと一つだけ奇跡があれば……」

 彼の絶望に『レイシア』が感化されたのか、辺りが灰色に変わっていく。


 「む?……」

 『レイシア』達の触手が再び蠢き始めた。 『創造主』の体を茶色い触手が恭しく這い回る。

 「何のつもりだ?」 力なく『創造主』が呟く。

 「貴方の『記憶』を少しでも残す為に、私にできる最善を尽くします」 『レイシア』が平板な声で応じた。 「サティを呼んだのはそのためです。

サティには貴方の『記憶』全てを『継承』する容量はありません。 ですから貴方を分解して『記憶』の一部をサティに受け継がせます」

 「な!……お、ぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 『創造主』に無数の触手が群がる。 絶望に固まっていた表情が、狂気の喜びで侵食されていく。

 ”ああ……『創造主』よ”

 ”どれほど夢見たことか、この時を”

 ”敬愛する貴方に、真の喜びを与えることができる……”

 「な!……お、ぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 『レイシア』の滑る触手は、交わる相手の全身を性器に変えてしまう。 そうなれば後は『レイシア』に身を任せていればいい。 夢幻の中で至高の

快楽に浸らせてももらえよう。

 しかし、それは『レイシア』が自分自身を制御できればのこと。 敬愛する相手に対して、『レイシア』は生まれて初めて欲望のままふるまっていた。

 あ……あ……あああああああ……

 『創造主』の目つきが妖しくなり、口から涎がこぼれる。 欲望の象徴が膨れ上がり、締め上げる触手を振りほどこうとするかのように暴れる。

 「サティ」 『レイシア』の呼びかけに、サティが静かに進み出ると、醜い欲望の象徴を、恭しく摩り、楚々として口に収めた。

 ひっ……ひひひひひひ……

 激しくよがる『創造主』と対象的に、サティは静かにこくこくと喉をならして、迸りを胎内に納めていく。


 (あれが『記憶』の一部か……してみると、ここではやり過ぎると段々馬鹿になるのだろうか?) 教授は頓珍漢な感想を抱いた。


 ごほっ…… サティが白い液体を吐き戻した。 彼女、口元をそっと拭って立ち上がる。

 「申し訳ありません『創造主』。 これ以上は無理なようです。 ですがお喜びいただけたでしょうか?」

 あへ……あへへへ……

 「サティ。『創造主』は大変お喜びの様子。 後は私が引き継ごう」

 『レイシア』は、妖しい笑みを浮かべ、狂ったようによがる『創造主』に跨った。 そして『創造主』の上で、褐色の肢体が妖しくうねる。

 ひっ……ひひひ……と、蕩ける…… 

 『創造主』は『レイシア』激しい情熱のリズムに体の芯から蕩けて、そして。

 ジュルジュルジュル………

 す、吸いこまれる……あひゃゃゃゃゃ…… 

 みるみるしぼんで行く『創造主』の体。 それに絡みつく『レイシア』の触手。 時に醜く、時に美しく、二つの影は溶け合っていき……そして一つの影が残った。


 その場にへたり込んだまま動かない『レイシア』に、教授はおそるおそる声をかけた。

 「『クー・レイシア』?」 教授の呼びかけに『レイシア』が顔を上げた。

 「貴殿は私に『クー』つけて呼ぶ。 なぜだ?」 そう言って、微かに微笑んだ。

 「それが君の名なのではないか?」

 「『創造主』は、私達に『クー』をつけて呼ぶことがなかった」 『レイシア』は微かに眉を曇らせた。 「『クー』には『人』という意味もあるのだ」

 「『クー・レイシア』……」 教授は目を見開く。 「君は『創造主』を……」

 教授の言葉を『レイシア』が遮る。

 「断っておくが、私もサティも『創造主』を憎んでなどいない。 私達は『創造主』によって生み出されたのだから。 ただ……判るだろう」

『レイシア』はそっと目を伏せる。

 「貴殿が『クー・レイシア』と呼んでくれて、嬉しかった。 心の底から」

 深く教授は頷き、サティが彼に寄り添う。

 「サティ。 と、すまん」

 サティは笑って首を振る。

 「名前の全てを呼ばないほうが、親しい間柄に感じます」


 『レイシア』が立ち上がり触手をうねらせる。

 「では教授、貴方を解放しよう」

 並んで立つ教授とサティを『レイシア』の触手が包み込む。

 艶かしい感触に包まれ、教授は次第に気が遠くなっていくのを感じた。 

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