ガールズ イン ア ボトル

Part9:サティとレイシア


 ひぃぃぃぃぃぃっ……

 「むむむむっ!あれはコットン君の悲鳴!」 洞窟の奥から響いてきた悲鳴に、ランデルハウス教授の顔が引き締まる。

 「貴方の同族の方ですか」サティが尋ねた。

 「うむ、ヌルヌルした蛇か長虫の群れに巻きつかれ、貞操を奪われかけておるような悲鳴だ……」

 「離れているのによく判りますね」 サティが驚いた様子で聞く。

 「うむ。 悲鳴が『ひ』で始まっているから蛇か長虫の様な物に出会い、悲鳴が長く伸ばされるのは巻きつかれた証拠。 そして、最後が半音上がったから

性的危機が迫っていると言うことだ」

 コットン助手の悲鳴を解説すると、教授は天秤棒を小脇に抱えて走り出した。

 「あ、お待ちください」 サティが後を追う。


 あうっ、あうっ、あうっ

 オットセイのような声を上げ、コットンは褐色の触手の中で悶えていた。

 ”もっとよくしてあげる……” ねっとりと触手が囁き、彼の全身を優しく愛撫する。 ”愛しい……素敵な体……”

 「あぅ……いく……いきそう」 こみ上げてくる絶頂感が、脳天を突き破りそうだ。

 「いいのよ……好きなだけいって」

 コットンは歯を食いしばって耐える。 もし囁きのままにいってしまえば……コットンはコットンでなくなってしまう。

 苦闘するコットンが堕ちようとしていたその時、ランデルハウス教授が駆けつけた。

 「コットン君!大丈夫かぁ!……おおおおおお!?」

 コットン助手の声を頼りに走ってきたランデルハウス教授は、眼前の光景に驚愕した。

 「これはいったい……」

 コットン助手が茶色い触手の様な物に巻きつかれ、もがいている。 その触手は、コットン助手の向こう側に立っている褐色の女の頭から生えているようだった。

 「髪の毛の代わりに触手が生えているのか?……それ以外は人間の女性のようだが」

 「き、教授……」 コットン助手が苦しげな声で助けを求めた。

 「いかん、観察している場合ではなかった。暴力を振るうのは不本意だが……」 教授は天秤棒を構え、褐色の女に話しかける 「こら、そこの君、コットン君を自由

にしたまえ」

 褐色の女が顔を上げ、教授を見た。

 「サティに似ておる?……」

 その時、遅れていたサティが、ようやくその場に現れた。


 「クー・レイシア?」 サティが教授の背後で呟いた。

 「なに?あれが君の同族……うっ!?」

 教授の背後から、サティが抱きついてきて、教授の首に口付けして来たのだ。 途端に教授は身動きができなくなった。

 (こ、これは?……そうか!粘膜の接触で脊髄の神経に割り込みを掛けて……ははぁ、洞窟を出たときもこうやって私をコントロールしていたのか)

 教授が状況を分析している間に、褐色の触手女ことクー・レイシアが触手を一本伸ばしてきた。

 サティはその触手を右手で捕まえ、口の端に触れさせた。

 (!)

 二人が『有線通信』で交わす内容の断片が、教授に伝わって来る。 幸い、事前にサティと『交信』していた教授は、その会話の大意を汲み取ることができた。


 ”サティ、無事だったか”

 ’はい、再生の為の水を探していました。 レイシア、水があったのですか’

 ”お前がここを離れた後、かなりの量の水が流れて来て私は再生できた”


 (ふむ、ダム工事のせいで地下水の流れが変わったか?)


 ’レイシア……他の者達は’

 ”残念だが……再生できなかった”


 二人が落胆し、ひどく悲しんでいるのが教授にもわかった。


 ”だがお前と私が再生できた。 これで創造主の願いはかなえられる”

 ’レイシア、成功したのですか? この星の男性体に、創造主の記憶を書き込んで、創造主をこの星の人間として再生する事に’

 ”いや、まだだ。 そこに倒れている三体の男性体は、『記憶消去』は受け入れたが、『記憶書込』に失敗した。 この若い男性体にいたっては『記憶消去』を拒んで

いる”

 (な、なんだとぉ!?『記憶消去』だと!!)


 教授が考えた途端、サティとレイシアがこちらを見た。


 ”この男性体、我らと『交信』できるのか!?”

 ’水を入手する為に、私と『交信』しました……彼は他の男性体に比較して、知的順応性が高いようです’

 ”そうか……では男性体ならば、創造主の記憶を受け入れるかも知れぬ……”


 レイシアの考えに、サティの顔がわずかに歪んだ。

 ’レイシア……’

 ”案ずるなサティ。 私は創造主に与えられた使命を全うする。 創造主の記憶をこの星の男性体に伝えるという使命を”

 ’そして私は彼と婚姻し、『クー』の文化をこの星の上で再生する’


 レイシアは頷き、そして首をかしげた。


 ”サティ。 その男性体で創造主の再生を行うことに賛成していないな。 何故だ”

 ’レイシア……私は彼に救われました。 彼を使って創造主を再生するには、彼を消去せねばなりません’

 ”サティ、時間がない。 この男性体はもっとも可能性が高い”


 サティは項垂れ、悲しそうに手で顔を覆った。た。


 『き、教授!』 レイシアの責めが中断し、ようやく自分を取り戻したコットンが交信に参加してきた。

 『こいつら、地球を侵略しに来た宇宙人だったんですよ! 人間の体に宇宙人の魂を植えつけて、仲間を増やしていくつもりなんです!』 

 ”む?……これは驚いた。 この若い男性体も順応性が高いようだ。 サティ、若い体の方が良くはないか?”

 『じょ、冗談じゃない! 人の記憶を勝手に消すなんて! 絶対に拒絶するぞ!』


 ランデルハウス教授は目だけを動かして、様子を伺った。

 睨みあうコットンとレイシア、目の端に映る悲しげなサティ、倒れて動かない吉貝教授達。

 (ふむ……) 何かを考えている様子であった。


 ”サティ、創造主の花嫁となるのはお前だ。 どちらの体で創造主を再生するか、お前が決めてくれ”


 レイシアに言われてサティは顔を上げ、ランデルハウス教授とコットン助手を交互に見た。 そして悲しげなため息をついて、何かを伝えようとした。

 その時、教授がサティ達に、『交信』を通じて語りかけてきた。


 (待ちたまえ。 レイシア君と言ったな、その役目私が引き受けよう)

 『教授!?』

 (但し、条件がある)

 ”若くない男性体よ、条件が出せるような立場だと思っているのか?” 

 (若くないは余計だ。 我々に対して、強制的に『記憶消去』をかけても成功するのかね?)

 ”方法は一つではない。 私はその為の手段を、複数持ち合わせている” 

 (時間がないのだろう? 最後には成功するかもしれんが、障害は少ないほうが良いのではないか?)

 ”……条件と言うのを聞かせてくれ”

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