ガールズ イン ア ボトル

Part7:正体と目的と


 「むぐぐぐぐ……」

 『美女』の熱い抱擁に捕まり、情熱的なベーゼの攻撃。 教授は防戦一方であった。

 (学生に見られたら……冷やかされる事は請け合いだな)

 と、『美女』は急に唇を離し、小首をかしげて教授を見た。

 「……ガクセイ?……ダレ?」

 「君は……話ができるのか? まて……心を読んだのか!?」

 『美女』は教授の問いには答えず、無邪気に見える笑みを浮かべつつ、再び唇を重ねようとし、教授はそれを押しと

どめた。

 「待ちたまえ。 事を急いではいかん、ではない。 君は何者だ?」

 「ナニモノ?……who?……誰何?」

 『美女』は、瞬きしながら次々に言葉を並べた。 そしてまだるっこしいとばかりに、教授を押し倒して激しく唇を奪う。

 「むぐぅぅぅぅ」

 口をふさがれた教授の頭の中に、微かなイメージが浮かぶ。

 (つながる……認識……情報を交換)

 「!」

 天啓のごとく教授は閃き、『美女』を引き剥がし、彼女の肩を掴んで叫んだ。

 「口腔内の粘膜を接触させて、互いの情報を交換しているだと!」

 教授の勢いに『美女』が圧倒され、かくかくと首を縦に振った。 

 「なんと素晴らしい! こんな短い間に互いを理解しあえる方法があるとは!……ところで君は何者だ?」

 『美女』は笑みを強張らせながら、教授の問いに答えた。

 「私はクー・サティ・アレックス」 名乗ってにっこり笑う 「『クー』より参りました。 この星の男性を私の夫とするため

に」

 「は?」

 間の抜けた返事をする教授を、彼女は再び組み敷いた。

 「さあ……」

 クー・サティ・アレックスと名乗った女性は、見事な曲線を描く腰を教授に擦り付ける。

 「もっと深く、お互いを理解しあおう……」


 ’うう……いけない……’

 ”どうして?……どうして私を拒むの……?”

 コットン助手は、絡みつく『美女』を無理やり引き剥がし……たつもりだが、実際はその抱擁から逃れられずにいた。

 ”ほら……”

 滑る肢体がぞろりと動き、コットン助手の体に新たな快楽の波を送り込む。

 互いにこすれ合う皮膚の感触は、例えようのない快感で全身が性器と化したかのようだ。 あと少し刺激されれば、

いってしまうかもしれない。

 そしてそうなれば、コットンはもはやコットンでなくなる。 彼はそう直感していた。

 ”ねぇ……いやじゃないでしょう……ほら……”

 彼の体を、蛇のような何かが這いずり、新たな快感をすり込んできた。

 ’ううう……’

 ”心を開いて……”

 ”快楽を受けいれなさい……”

 ”気持ちいいわよ……”

 ”何もかも忘れなさい……”

 ’だ……ダメダァァ’

 叫んだコットンの口が、何かを噛んだ。


 血も凍るような悲鳴が上がり、コットンは地面に放り出された。

 「ウァァァァァァ……オォォォォォォォォ……」

 獣の叫びにも似た声が、洞窟の中で幾重にも反響する。

 コットンは薄れる意識の中で『美女』の正体を見た。

 灰色の皮膚をした、グラマラスな女体が苦しんでいる。

 その頭からは、指程の太さの無数の触手が生えており、コットンはそれに絡みつかれていたらしい。

 彼は、偶然にもそれに噛みついたのだった。

 (まるでメデューサ……いや……シャンプロウ?)

 昔読んだC・L・ムーアの小説に登場する、男を惑わしその生命を啜る宇宙の魔物。 彼女の姿はそれを連想さ

せた。

 辺りには、一緒に居た現地スタッフと吉貝教授が倒れている。

 (ランデルハウス教授が居ない……どこに……)

 そこまで考えて、コットン助手は意識を失った。


 「地球の男性、私がきらいか?」

 「待ちたまえ、こういうことは互いを良く知ってからだなぁ」

 「だから、よく知り合おうと言っている」

 そのころ教授は『クー・サティ・アレックス』、縮めてサティとずれた会話をしまくっていた。

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