ガールズ イン ア ボトル

Part3:悪夢の胎動


 「教授!」 コットン助手は飛び起き、額の汗を拭う。

 「どうした!」 テントを空けて吉貝教授が入ってきた。

 「すみません、教授の……ランデルハウス教授の声がしたような気がしたので……」

 「なんだそうか。 もう夜明けだぞ」

 吉貝教授の背中を見送りながら、コットン助手は寝袋から這い出し、身支度を整える。


 「重機がこないだと!」

 9時ごろになって、ようやく外部との連絡がとれた。 しかし地震のためか、遺跡に通じる道の数箇所で土砂崩等で寸断されていると言うのだ。

 「近くにダムの工事現場があるだろうが!」

 『遺跡の調査の為にダム工事は中断して、今は機械しか残っていませんよ…… ええ、町からの道は人間ぐらいならなんとか通れますが、車はちょっと無理です』

 「では人手を……」

 『一週間ほど待って下さい』 そう言って電話が切れた。

 「こうなったら、我々の力でやるしか」 コットン助手が悲痛な声で訴える。

 「よく見たまえ、岩が大きすぎる」

 洞窟を塞いでいるのは、吉貝教授の指摘どおり7〜8mはありそうな大岩だ。 重量は数十tはあるだろうか。

 「人がもてるほどの大きさなら何とかなるが、これでは大きすぎる。 爆破するか、ブルドーザで引っ張るかしないと」

 「学者さん、心配、よく判ります。 けど、これは無理。 シャベルとツルハシしかない」 たどたどしい言葉で、雇い入れた現地スタッフが肯定する。

 コットン助手は、絶望的な表情で地面を蹴った。 その時、彼の頭に一つのアイデアが浮かんだ。 

 「そうだ! 穴を掘りましょう」

 「何?」

 「ここの地面は土で、あの岩は落ちてきたばかりで不安定です。 手前に穴を掘れば、バランスを崩して転がります。 そうすれば人一人ぐらい通れる隙間が開くでしょう!」

 「なるほど……多少危険だが、それなら手持ちの道具で何とかなるやもしれん」

 コットン助手達は、早速岩の様子を調べ、どこに穴を掘るかを検討し始めた


 ”水……水……”

 (水……水……水はどこだ……)

 洞窟に閉じ込められたはずのランデル教授は、どことも知れぬ荒地を彷徨っていた。

 容赦なく照りつける太陽が、彼の影を地面に描き出している。 その割には頭に日が当たっていない様だが。

 (水……む?) 

 遠くに人影が見えた。

 「おおい……おおい……」

 手を振りながら、よろめく足取りで人影を目指して歩く。 

 ふいに人影がこちらを見た。 と、奇妙な声を上げて走り去ってしまう。

 「おおい……怪しい者では……いってしまった」

 教授は首を振って歩き出す。

 しかし、人影が逃げ出したのは無理もなかった。 なにしろ、教授はミイラを肩車して歩いていたのだから。

 「水……水はどこだ」

 しかし、教授は自分がミイラを肩車している事に気がついていないようであった。

 奇妙な格好のまま、教授は歩き続ける。


 「よしこれでいい」

 「みんな離れろ!」 

 吉貝教授の号令で、岩の近くに穴を掘っていたスタッフが穴から這い出す。

 続いてコットン助手達が、岩の下に打ち込んだ楔のに結んだロープを引っ張った。

 ガリッ!! 勢いよく楔が抜け、次の瞬間、岩がゴロリと転がって洞窟の入り口が現れた。

 「やったぞ!」

 「教授!ランデルハウス教授!」 コットン助手がライトを手に飛び込んだ。「いない?」

 「『玄室』にいるのだろう、 あそこにはライトがある」

 一行はさして長くない洞窟の中を進んだ。


 「教授!どこです!?」

 「おかしい……他にいける場所があるはずが」

 「学者さん。 壁に穴が」

 「なんだって!?」

 現地スタッフが壁の穴を見つけ、皆がその前に集まった。

 「教授はこの中でしょうか」

 「わしはここ……えいややこしい」 吉貝教授はいらだたしげに振り向く 「ランデルハウス君は何を考えとるんだ、地震があったばかりの未調査の洞窟だというのに」

 「とにかく探しに行きましょう」

 「待ちたまえ、コットン君。 誰か細いロープをとって来たまえ。 命綱代わりだ」


 数分後、コットン助手と吉貝教授、現地スタッフのパパーウとデルの四人が、『玄室』の奥の道の洞窟に入っていった。

 「うーむ、こんな隠し通路があったとは」 吉貝教授の声が弾んでいる。

 「吉貝教授、そんな事より……」

 「判っておるとも……む? 分かれ道か」

 四人は、ランデルハウス教授がミイラを見つけた辺りに差し掛かっていた。

 「どちらに行ったのか……」

 首をひねり、ライトで奥を照らす四人。 と、右の洞窟の奥で何かが動いた。

 「旦那。 何か動いたような」

 「そちらですか!」

 「まて、ランデル君なのか?」

 「行けば判ります!」

 コットン助手が小走りに歩き出し、仕方なく三人も続く。

 数分ほど進むと、突然広い空間に出た。

 チョチョロチョロ…… どこかで水音がする。

 「教授! ランデルハウス教授!」 コットン助手が叫ぶ。

 「ランデル君!いるのか?」

 叫ぶのは二人に任せ、パパーウとデルは明かりを照らして辺りを調べる。

 ヒュン…… 何かが風を切る様な音がした。

 「何だ。 いまのは……デル? おいデル!?」 パパーウが叫んでライトをデルの居た辺りに向けた。

 その光の輪の中に、なにか得体の知れない物が映し出された。

 「ひっ!」

 叫んだパパーウの首に、濡れた紐のようなものが巻きついた。

 「なん……だ……」

 意識が暗黒に閉ざされていく。 パパーウは、外国の学者達が自分を呼ぶ声を聞きながら、意識を失った。

 やがて、コットン助手と吉貝教授の声も聞こえなくなり、ライトが消され、洞窟は闇の静寂を取り戻した。

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