ガールズ イン ア ボトル

Part2:遭遇


 「ところで『アマゾンの奥地でナマズ娘を見つけた』ランデル君。 『蜘蛛の女王』の探索に来たのはなぜかね? 彼女の足が八本、いや六本だっ

たことを確認しに来たとでも?」

 吉貝教授のあからさまに馬鹿にした態度に、コットン助手が顔色を変えた。 しかし、ランデルハウスは気にした様子もない。

 「おお、この間の報告を読んでくれたのかね。 わしが調査しようとしているのは『蜘蛛の女王』が使役していたと言う数々の魔物の事なのだよ」

 「魔物だと?……」

 「うむ……これだ!」ランデルハウス教授は数枚のレポート用紙を取り出し、吉貝教授にしめす。

 「『女王は、黒い翼と角の娘達を臣下としていた』『女王を守るのは言葉を話す獅子であった』……」

 「くだらん!」 吉貝教授は切って捨てる。 「比喩表現というのを知らんのか! 『翼がある』とあれば『飛ぶように足が速い』という意味にもなるだろう。

いや、伝説自体の信憑性自体が……」

 「だから調べに来るのだろうが」

 「む……」 吉貝教授は反論を止めた。 判らないから調べる、確かでないから証拠を探す、学者として至極当然の態度であり、それを否定するようなら

学者の資格はない。

 「……まあいい、気の済むまで調べたまえ」

 「そうしよう」

 
 ランデルハウス教授とコットン助手は、洞窟に入って遺跡の内部を詳しく調べ始めた。

 と言っても中は本当に空っぽで、二人にできるのは、床や壁を調査する事ぐらいだ。

 「しかし、ものの見事に何もありませんねぇ」

 『玄室』と思われる最深部の空間には、棺のあった後が残るだけで装飾もなく、左右の壁面に残るノミの跡がなければ自然の洞窟としか思えないだろう。

 「うーむ、これほどまでに何もないとは。 よほど徹底的に荒らされたのか」

 「そして、とどめを吉貝教授がさしたと……」

 「とどめを刺すのはこの国の政府だよ」 いつの間にか吉貝教授が二人のそばにやって来ていた。 「遺跡をダムに沈めるんだからな」

 「そうかも知れんが……む?」

 洞窟の床が微かに震え、ランデルハウス教授とコットン助手は怪訝な表情をする。

 一方、吉貝教授は行動が早かった。 地震の多い国に生まれた人間との経験の差だ。 彼は、二人の襟首を掴んで立たせ、出口へ引っ張りながら怒鳴る。

 「地震だ!中は危険だ!!」

 だが少し遅かった。


 ゴゴゴゴゴゴゴ…… ガッ、ガッガッ

 重々しい響きに洞窟が震え、上から次々に石が降ってくる。

 「頭をかばえ!外へ出ないと生き埋めになるぞ」 吉貝教授は叫びながら出口を目指し、二人が続く。

 頭をかばいつつも、石や岩を避けながら三人は出口に達した。

 「コットン君危ない!」

 大きな石が落ちてくるのを見て、ランデルハウス教授が彼を出口に向けて突き飛ばした。 弾みでひっくり返るランデルハウス教授

 「教授!」

 振り返ったコットン助手の目の前に、再び大きな石が落ちてきた。 慌てて下がるコットン助手。

 「教授!教授!」

 無上にも降り注ぐ岩が出口をふさいで行く。

 「やめろ!今戻るのは無理だ!」 誰かが叫ぶ。

 「教授……」

 一分もたたず揺れは収まった。 しかし、そのわずかの間に、ランデルハウス教授は洞窟の中に閉じ込められてしまった。


 「……あたたた、はて夜か?」

 ランデルハウス教授は真っ暗な中で目を開け、しばし自分がどこに居るのか考えた。

 「……そうか、閉じ込められたな」

 手探りでライトを探し、スイッチを付けた。

 「うーむ……」

 出口が多数の岩で塞がっていて、中にまで岩が転がり込んでいる。

 「中から掘り起こすのは無理だな……おーい、誰かいるかぁ!?」

 ”教授!!ご無事でしたか!!”

 「おおコットン君。 無事だ何よりだ。 わしは無事じゃよ」

 ”よかった、すぐに掘り出し……え?重機の輸送に時間がかかる……教授”

 「聞こえとるよ。 幸い大きな洞窟だし、掘り出される前に空気が尽きることはあるまい。 まぁ、ミイラになる前に助けてくれると有難いな」

 ”全力をつくします!”


 「さて、しばらくする事がないな……」

 ハンドライト以外明かりがない状況で、生き埋めになっていると言うのに、教授は落ち着いていた。 

 岩に腰掛て、しばし物思いにふける。

 「明かりが持たんだろうな……そうだ、奥の『玄室』にはライトが設置してあったな、戻ってみるか」 

 地震があったばかりの洞窟だ。 そこをうろうろするのは褒められた話ではない。 しかし、真っ暗な中で何日も助けを待つのもぞっとしない。

教授は迷ったが、結局『玄室』に戻った。


 「なんと……」

 玄室に戻ってみると、奥の壁が崩れ落ち、ぽっかりと空間が開いている。 近寄ってみると、人間の手で塞がれ、表面を細工された跡がある。

 「ふむ、『壁が崩れ落ちた、隠し通路が見つかった』じゃな」 にんまりと笑った教授だが、すぐに笑みを消した。

 「ずっと塞がれていたとなると、危険なガスが溜まっておるかもしれん」

 玄室に設置されていたライトのポールには、ガス検知器が取り付けてあった。 それを外して穴に差し入れる……反応はない。

 「ふむふむ……ん?」

 穴に入れた手を引っ込め、指をこすってみた。 湿り気を感じる。

 「水があるのか?……」

 教授は迷った挙句、穴の中に入っていった。


 「地球の中には穴がある〜♪」

 妙な歌を口ずさみつつ、教授は慎重に歩を進めていった。 さして進まないうちにY字路に差し掛かる。

 「いかんな、ここまでか」

 この状況でこれ以上進むのは危険が大きすぎると判断し、引き返そうとする。

 その時、片方の穴の中に何かが見えた。

 ライトを向けると、地面に人影がある。

 「なに!」

 慌てて駆け寄る教授。 しかしそれは……

 「これは………ミイラか?」

 ミイラと言うより、『人間の干物』とでも言うべきものが転がっていた。

 教授はおそるおそる、『干物』に手を伸ばす……

 「わっ!?」

 その手をミイラが突然掴んだ。 洞窟の中に教授の悲鳴がこだまする。

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