Part17:実習(3)愛撫の効果


 『天の使者』全員の下敷きにされた教授は、羽毛の塊の下からやっとの思いで這い出た。 振り返ると、皆教授そっちのけでギャアギャアと騒いでいる。

 「公園のハトにパンクズを上げるとこんな感じになるな……これ、みんな! 落ち着きなさい」

 教授は、パンパンと手を叩いて注意を集める。

 「こういう事で争うのは宜しくない。 みな、これまでは仲良くやって来たではないか。 ん?」

 教授が言うと、年長のキキとココ、クィーがばつが悪そうに下を向いた。

 「でも教授、私は真っ先に教授に『愛情』を教わりたいのです」 「私も」「私だって」

 三人が口をそろえ、また雲行きが怪しくなる。

 「ああーこれこれ。 そう言ってもらえると、私も男冥利に尽きるというものだが……」

 教授は、ちょっと考える風になった。

 「三人一度では物理的に無理がある。 順番に……わっ!」

 教授が順番にと言ったところで、三人が一斉に前に出て、教授がのけ反ってしまった。

 「慌てないで。 ここで争ったらさっきの繰り返しではないか」

 教授は三人の顔を眺めながらため息を吐いた。

 「ここは個人指導を順番に行うという事で納得してくれ」

 教授の説得に、三人は不承不承ながらうなずき、順番はくじ引きで決めることになった。

 「キキが一番、ココが二番目、クィーが最後だな」

 「えー」「お姉ちゃんたちだけぇ!?」

 今度は年少の『天の使者』達が文句を言う。

 「気持ちはわかるがな。 愛を教わるには体の準備が重要なのだよ」

 教授は必至で年少の『天の使者』達をなだめた。


 「さて……」

 教授はキキと一緒に彼女の住まいに入り、彼女の前に腰を下ろした。 そして額を抑え、入り口から覗き込んでいる『天の使者』達に声をかける。

 「こういう事は『秘め事』と言ってな、他人が見ている所で行うものではない」

 「そーなんですか?」

 「でも、教授が最初に来た時のアレは? シュージンカンシの中でいろいろと……」

 「へー、難しい言葉を覚えたんだ」

 入り口でわいわいと皆が騒いでいる。 そもそも、彼女たちの住まいには扉がなく、『部屋に籠る』という意識がないようだ。 教授は、雨除けに使うらしい

葉っぱで編んだカーテンを入り口に下げて目隠しとして、皆に離れるように告げた。

 「これでいいかな……」

 一仕事終えると、辛抱強く待っていたキキの前に再度腰を下ろした。

 ミシッ……

 住まいが軋んだ。 どうも壁の向こうや、屋根の上に皆が群がり、聞き耳を立てているらしい。

 「……」

 「教授。 私なら気にしませんが」

 キキの言葉に、教授はあきらめて『愛の講義』を始めることにした。

  
 「さて、『愛情』を感じるという事だが……む?」

 教授が花は始めると、キキが教授の傍に寄り添い方にもたれかかった。

 「傍にいて互いを感じる。 これが第一歩でしたね」

 「うむ、覚えがいいな君は。 まぁ、きまった形はないのだがな」

 「決まっていない……のですか?」

 キキが面食らった様子で聞き返してきた。

 「要は、傍にいるだけでも良いし、話をするだけでも良い。 互いを感じ、確かめ合う事が肝要だな。 そうしてお互いを必要と思うかどうかを確かめるのだ」

 言いながら教授はキキの顔をじっと見つめ、キキが顔を赤くする。

 「何か私の顔についていますか?」

 「こうして見つめ合うのも、愛情を確かめ合う方法の一つだ」

 (うーむ、我ながら歯の浮くようなくさいセリフ……まてよ、『天の使者』達の口には歯があったかな? ここはクチバシが浮くようなセリフが正しいだろうか?)

 やや脱線気味の事を考えながら、教授はキキの顔を見つめたまま、そっと彼女の頬に触れる。 キキの体がはっきりわかるほどにビクリと震えた。

 「なぜ触れるのですか?」

 「いやかね?」

 「いいえ……」

 キキは手を教授の手に重ねてきた。 細い手が、かすかに震えている。

 「不思議です。 初めて触れた訳ではないのに、特別な何かを感じます」

 「触り返してみたまえ」

 教授が促すと、キキは頷いて勢いよく……教授自身を握ってきた。

 「これこれこれ! いきなりすぎる」

 「そうですか? でもここが『愛情』を感じる器官なのでは?」

 「その通りだが……『愛情』を確かめることが出来る場所は他にもあるのだよ……例えば」

 教授は優しくキキのに触れ、なぞる様に触れていく。

 「他にここ……」

 キキの首筋に指を這わせる。 一瞬体をこわばらせたキキだったが、教授の指が往復するにつれ、体から力が抜け、教授に体を預けていく。

 「どうかね」

 「は、はい……」

 キキの声が微かに震える。

 「なんだかドキドキします……」

 「そうか……では舐めてもよいかね?」

 「え? 舐める?」

 キキの丸い目が、一層丸くなる。

 「私を……食べるのですか!?」

 「違う違う。 舌は食べ物を味わう機関だが、濡れていてよく動く敏感な器官だ。 『愛情』を確かめる時には、相手を舐めるのも一つの方法だよ」

 そう言うと、教授はキキの首筋に軽く口づけした。 そしてついばむように吸いながら、舌先でキキの首筋を刺激する。

 「あ……」

 舌先が触れるたびに、キキの体に力が入り、口から呼気が漏れる。 教授はキキの反応を確かめながら、首筋を舐め指先で片口から鎖骨、そして胸へ

と愛撫の位置をずらしていく。

 「あ……ああ……」

 キキの瞳が、トロンと幕が掛かった様に潤んできた。 彼女の腕が教授の背中に回り、その体を引き寄せる。

 「ああ、私は何故こんなことを……」

 「それが自然なのだよ。 こうやって『愛情』が高まっていくと、体が反応していくのだ」

 教授はキキの耳元でささやきながら、手と指の愛撫を胸から腰、そして下腹部へと移していく。 

 「教授……」

 熱っぽい口調から、キキ自身が熱く濡れ始めているのが判った。 教授は慎重な手つきで愛撫をキキ自身の周りに進めていった。

 「あ、ああっ、アアーッ!!」

 「む?」

 まだキキ自身を責めていないのに、キキが身を震わせて歓喜の声を上げてしまった。

 「あ……はぁ」

 「キキ。 大丈夫かね?」

 教授の問いかけに、キキはすぐには応えず、ただ荒い息をつくのみだった。 しばし呼吸を整えてから、ようやく教授の問に応じる。 

 「は、はい……教授の『愛情』があまりに凄くて……」

 「そ、そうか。 それはよかった」

 予想外の結果に教授が困惑していると、入り口のカーテンをまくり上げてココが飛び込んでくる。

 「今度は私よ!」

 「なに?」

 今度は教授が面食らう番だった。 キキに目をやると、キキはぐったりした様子で、ココと教授に頷いて見せた。 どうも本格的な絶頂を感じたのは初めて

だったようで、消耗しきっているらしかった。

 (……まぁよいか。 三人を相手にするとなると、こちらの体力も温存しないと……)

 などとジゴロの様な事を考えながら、教授はココに手を掴まれ、ココの住まいへと引っ張って行かれた。

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