Part16:実習(2)演技の検証


 「ふむ、そうだな」

 教授は呟くと、キキとココとクィーを手招きした。

 「?」

 「君たちは、私に対してどういう感情を持っているかね?」

 「はい?」

 唐突な教授の問に、三人は戸惑った様子を見せる。

 「えーと……」

 「尊敬して……そう感謝しています。 教授のおかげで私たちは自分達の事を知る事かせできましたから」

 「それはありがとう。 私もいろいろと知識を深める体験をさせてもらえて、君たちには感謝している。 それはそれとしてだ」

 教授は咳払いをした。

 「君たちは、一種の義務感から私と交尾を試すつもりになったように見受けられる。 しかし、それでは交尾に感情が……そう『愛情』がこもらない」

 『愛情?』

 教授は頷いて見せた。

 「例えばさっきの『求愛のダンス』 あれは本来、交尾したいと思った相手に見せるものだ」

 キキとココがキョトンとした顔になる。

 「私たちは……」

 「貴方と交尾したいからあのダンスを踊ったのですよ?」

 教授は腕を組む。

 「いや、君たちは誤解している。 今、交尾の相手は私しかいない。 それでは選ぶ余地がないから『しょうがないからこれで間に合わせよう』という気持

ちになる」

 『はぁ』

 「大勢の中から、気に入った相手を見出し、その相手と真剣に結ばれたいと思うから『求愛のダンス』にも心がこもる。 そうやって選んだ相手と、交尾し

てこそ『愛情』のこもった交尾になるというものだ」

 「はぁ……」

 三人は首をかしげている。 キキが教授に問い返してきた。

 「今の交尾には愛情が欠けているという事は判りましたが……どうすれば愛情が込められるのでしょうか?」

 「相手が足りないというのならば、もっと大勢の人を連れて来れば良いのでは?」

 危うい方向に話が傾き、教授は慌てて止めた。

 「待て待て。 そんなことをしたら、君たちは悪しき者とみなされてしまう。 それでは良くない」

 「ではどうしろと?」

 教授は唸って考え込んでしまった。 義務感だけの交尾では、性的満足が得られるはずのないのは自明の理と思ったのだが、ではどうすればよいかと

あらためて聞かれると具体的なアイデアを持っていたわけではなかった。 気まずい沈黙が流れる。


 しばしの沈黙の後、キキが口を開いた。

 「教授、愛情とはどのような感情でしょうか? 教えていただけますか?」

 「なに? 愛情を説明せよとな?」

 教授は少し考える。

 「そうよな、明快に説明するのは難しいが……例えば、君らは仲間がいなく……そう死んでしまったらどう思う?」

 「死んだら……」

 「嫌です、とても嫌です」

 教授は頷いた。

 「それだ。 いなくなったら嫌になる相手がいる、それは相手に対して情を感じているという事だ」

 「それは『仲間意識』というのでは?」

 「単なる『仲間意識』なら、いなくなっても『ああいなくなったか』で終わってしまうだろう。 いなくなるのが嫌、ずっといて欲しい、そう思える相手は特別な

存在ということだ」

 「ずっといて欲しい……」

 「それが進むと、ずっと傍にいて欲しいという気持ちになる」

 「傍に……」

 キキは教授の言葉を繰り返した後、何を思ったのか教授の傍らに座り込んだ。

 「?」

 「傍に来てみました」

 教授は苦笑する。

 「物理的な距離ではないのだがな……とは言えこうやって温もりを感じ合うのも、愛情を学ぶ一つの手段だな」

 教授がそう言うと、ココとクィーも教授の周りに座り込み、教授は三人に囲まれる格好になる。

 「こうしていれば、愛情が判ってくるのですね?」

 「う、うむ」

 そういうものではないと言いかけたが、三人が思ったより真剣なので、教授はそのまま話を進めることにした。

 「我々人間の場合は、こうして寄り添って生活してみて、相手に愛情があるかどうかを確かめたりするな」

 「このままで生活するのですか?」

 「少々動きにくい気もしますが」

 もぞもぞと動きながらキキとココが尋ねた。

 「うむ、まぁずっとこういう姿勢で生活するわけではないが……同じ家、いや一つの巣に住むようなことはするな」

 ああ、という感じで三人が頷いた。

 「なるほど」

 「それならしょっちゅう傍にいることが出来ますね」

 頷きながら、三人はもぞもぞと動いて教授ぐいぐいと体を押し付ける。 どうも、傍によれば寄るほど愛情が判ってくると思っているらしい。 当人たちは

真剣なのだが、はたから見ると『おしくらまんじゅう』をしているように見えるだろう。

 「おや?」

 教授の前から体を押し当てていたキキが、下の方に視線を向けた。 クィーと交尾してからそのままの格好だったので、教授も素っ裸だったのだが、三人

の体がぎゅうぎゅうと押し当てられ、アレが元気を取り戻し始めていた。

 「ははぁ、教授。 これは教授が私に愛情を感じ始めているという事ですね?」

 キキがにこりと笑った。 

 「う、うん……まぁそうかな」

 男としては少々恥ずかしい。 教授は多少赤くなりながら頷いた。 と、それを見たココとクィーが眉を寄せる。

 「……教授」

 「……私にも愛情を感じてください」

 二人がキキを押しのけるようにして教授の前に回り、ぐいぐいと体を押し付けて来た。 刺激を受けたアレはさらに元気を増す。

 「ちょっと!」

 キキがやや声を荒げて二人と教授の間に割って入る。

 「今教授が私に対して愛情を感じているところだから、邪魔しないで!」

 「何言ってるの、私が先!」

 「クィーはさっき交尾したでしょう!」

 「さっきのは愛情がなかったからノーカウント!」

 騒ぐ三人に教授は押し倒されてしまった。

 「うーむ、愛情より先に嫉妬を覚えてしまったか……わわわ」

 倒れた教授に三人が覆いかぶさり、ぐいぐいと体を押し付けてくる。

 「さぁ教授、愛情を感じてください」

 「いーえ、私に感じて」

 「私だってば!」

 ギャアギャアと騒ぐ三人の『天の使者』達を見て、他の若い『天の使者』達はあっけにとられている。

 「お姉ちゃんたちどうしたの?」

 「急に喧嘩をはじめちゃったけど……」

 「でも、なんか楽しそう……」

 一同は顔を見合わせ頷き合うと、一斉に教授たちに群がった。

 『私たちも混ぜて♪』

 「うひー!!」

 教授は『天の使者』たちの下で悲鳴を上げた。

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