ライム物語
第七話 木曜日に少女は戦う(3)
「教授」顔はライム、しかし声は金雄…一瞬、空気が白くなったのは気のせいではあるまい。
「…あー…須他君かね」
「教授、マダム…いえ、その黒いスライムと透明なスライムを、ライム達のお母さんと姉妹を自由にして上げてください」
「…しかしな、須他君。わしが自由にしても、彼女達が今までのような騒ぎを続ければ…いずれは…」
「それは仮定の話です。教授が彼女達を捕獲する根拠にはなりません」
「ふむ…」
「教授、ライムは初めて僕を見たとき、手を差し出してくれました」金雄は心の中で真相を呟く(お手をさせようとしたんですけど…)
「ん?」
「その手を振り払うにはまだ早い、僕はそう思います」
”金雄…” じーんと感動するライム。
「なるほど。では君が…いや君達が」教授は金雄と十文字を交互に見やる「彼女達の友人として今後トラブルを起こさないように色々と
世話を焼く…と言うことじゃな」
「いっ!?」「ちょ、ちょっと」 思いもよらぬ教授の発言に目を剥く金雄と十文字。『なんでそうなるんですか!!』
「ほう…では君達は彼女達を見捨てると…」
「そんな事は言ってません!…ただ友人としてなら」
「見捨てられないから助けに来たと」意地悪そうな笑顔で教授「だから、今後こういうことが起こらないように、しっかりと世話を焼くと…筋
が通っておろうが」
問題が起きてから助けるのと、問題が起きないように世話を焼くのは全然別の話だ。
教授の言うとおりにしていたら、スライム達のお目付け役をやる羽目になる。
「そこまでやる義理はないと言うのかね…まあそこまでの付き合いだったいうなら仕方がないがのう…」
「きょ…教授!」慌てる金雄。 その言い方では、彼が彼女達を見捨てるかのように取られてしまう。
”金雄…”
”少年…”
”お兄ちゃん…”
”金雄さん…”
心細げな呟くスライム姉妹達。 肩にかかる重さが一気に倍になったような気がした。
もちろん金雄には彼女達の行動に対して責任があろうはずはない。
しかし、彼はこの状況でそう言ってしまえるほど冷たい人間ではない。
何よりここまでやって来たことで、充分にお人よしである事を証明した様なものだ。
(はめられた!)
「判りましたよ…今後、彼女達が問題を起こさないように尽力します。これで宜しいですか」
「ふむ、不安は残るが、まあよかろう…おっと、念の為メイドロン達に停止コマンドをと」
教授はしれっと言ってのけて、ハンディターミナルを取り出し、コマンドを打ち込もうとして手を止めた。
「教授?」
「ん…」教授はぽちぽちとキーを叩き、次に人差し指の背でこんこんと叩く。
「あのー」
「そう…不安は残るのう」 ハンディターミナルを握り締め、ぶんぶんと振ってみる。
「ひょっとして…」
「…じゃから…もう一つぐらい『試練』を課してみる必要が…」 拳骨でハンディターミナルを叩く。
「それ、壊れたんですか?」
「…」教授は無言で顔を上げた。 引きつった顔に一筋汗が流れる。
ズシッ…ズシッ… 重々しい足音が奥から響いて来る。
ヴィー…スリャー!
「き、教授…」
「うむ…『試練』がやって来たようじゃ」
『あのなぁー!!』 金雄と十文字、ついでに爺七郎が突っ込む。
ズシン!! 床を震わせて研究室の奥からやって来たのは、『ザ・ライム・スター』よりもさら一周り大きい、女子プロレスラーのようなロボ
ットだった。
両腕にえらくごついノズルが装着されている。
メガホン形のノズルは消火器の先端と見まごう程で、その付け根から螺旋状のフレキシブルホースが背中まで伸びている。
ちなみに、何故か胸が金属のドームとなってせり出していて、金属製のブラジャーを着けているように見える。
「うむ!これぞ廃棄物分別回収用に開発したメイドロンVer3!略称『V3』!」
ヴィー…スリャー!
両手をVの字に掲げ、雄たけびを上げるV3。 もはや『メイド』の名を冠する意味が全くない。
「これのどこがメイドですか!第一分別回収ってなんですか!」
「良くぞきいてくれた!てきとうな廃棄物は…」
ハンディターミナルを片手に辺りに視線を走らす教授。
と、V3が教授のハンディターミナルを取り上げ、両手で挟み込んだ。
ブンベツ…カイシュー!!
破壊音が響き、ハンディータミナルがV3の手の中で粉々になる。
「げっ!」
V3は破砕したハンディータミナルをを床に落として、両手をクロスさせ、次にVの字ポーズを取った。
ヴィー…スリャー!
ガコンと音がして、胸の金属ドームが上に開くと、その下は透明なアクリルのドームがあり、その中でタービン・ブレードのような羽根車が
回転している。
ダブル・タイフーン!!
羽根車が高速回転を始め、V3の体がビリビリと唸る。
V3はノズル・ホーンをハンディの残骸に向けた。
破片は渦を巻いてノズル・ホーンに吸い込まれていく。
「どうじゃ!複雑な廃棄物もたちどころに粉砕して、粉体加工する腕力!遠心分離によって素材別に吸引、分離しながら廃棄物を片付け
るこの威力を!!」
「教授…これのどこが家庭用メイドロボなんですか!」
「…やっぱり業務用にしかならんかのう?」
『違うって』再び突っ込む金雄と十文字、爺七郎だった。
ヴィー…スリャー!
V3が雄たけびを上げた。 ハンディーターミナルを分別回収し、次の獲物を探している…とその視線が『ザ・ライム・スター』で止まる。
「わっ!こっち見た!」
…「!!」 両目のディスプレイが点滅する。
ブンベツ…カイシュー!!
「まずい!このままでは分別されて回収されてしまう!」
バイザーが下がり、『ザ・ライム・スター』の主導権がライムに戻る。
「うむ…試練じゃ」
腕組みをして呟く教授の後頭部を十文字がはたく。
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