ライム物語

第七話 木曜日に少女は戦う(2)


「ん!…」 気合とともに立ち上がる新『ライム・スター』。

どうやら『ライム・スター』の原理で、金雄を中心にして五人が合体してしまったらしい。


大きくなった、というより成長したと言う形容詞がぴったりの『ライム・スター』がそこに居た。

緑一色だったボディがずっとカラフルになっている。

むき出しだった少女の頭に赤いヘルメットが被さり、薄い赤のバイザーが顔面を覆う。

両腕の先から肘までを、ヘルメットと同じ色のロング・グローブが保護し、グローブの付け根からからヘルメットにかけてには赤いラインが

走る。

胸から臍の辺りまではピンクのブレスト・プロテクターが装着され、胸から上腕部にかけてをボリュームアップして、溢れるパワーを見せ付

けるかのようだ。

ついでにバストはAカップからDカップになり、色気も大幅アップ。

ベルトから下はまばゆいメタリックシルバーに変わり、逞しい足が床の上に広がる銀色のサーフボードを踏みしめる。

そして、ヘルメットの右上部に『ジャーマネン』の蝶ネクタイが黄色いリボンの様にのっかり、微妙に可愛らしい。

「おおライム…皆、なんと立派に」感動に震えるマダム・ブラック。「母は…お前達を誇りに思います…」

『ライム・スター』はマダム・ブラックの方を向き、次に教授、メイドロンと視線を移す。

ギン!

バイザーの奥からメイドロン達に鋭い眼光を飛ばす『ライム・スター』に、ロボットのはずのメイドロン達が気後れするように一歩下がった。


では、『ライム・スター』の内情がどうなっているか見てみよう。

”重い…” 金雄が呻く。

”命がいらないようですわね” 下からアルテミスが怒りの声をあげる。

”い、いえ、アルテミスさんじゃなくて…上の二人が…”

”なにぃ!””お兄ちゃん、ひどい!”

これまでの『ライム・スター』では、金雄は半覚醒状態でライムの意識が体を動かしていた。

新『ライム・スター』では四人、金雄も含めれば五人が合体した為か、全員の意識が覚醒状態にあった。 その結果…

”金雄、いつもと違う…うまく動けない…”ライムが困惑する。

”僕も体が動かない…最初に『ライム・スター』になった時と同じだ…”

金雄が目を覚ました時にどうなるかは以前に経験していたが、あの時は二人の動きが合わなかった為だった。 今回は五人、頭はなん

とか回せたが、他はピクリとも動けない。


”それに重い…立っているので精一杯だよ。下手に歩こうとすると倒れてしまいそうだ”

金雄の頭の上には『ジャーマネン』が、肩にはプロティーナの重量が乗っかっている。

彼の心象風景では、『ジャーマネン』が頭の上に座り、プロティーナが背中に負ぶさっていて、足にアルテミスがすがりついている…という

ところか。

ちなみにライムはしっかり胸にしがみついている…ような気がする。

”落ち着きなさいみんな、どうやら金雄さんとライムを中心にして合体してしまったようですね”アルテミスが声をかける。”自分がどうなっ

ているか判りますね”

”プロティーナは腕から胸”

”『ジャーマネン』は手の先と頭だ”

”私は足とその下にいます…では移動は私に任せなさい。『ジャーマネン』は手を使って攻撃を、プロティーナは腕の動きを担当しましょう”

”…ライムは…”

”ライム、貴方が指揮を、皆はライムに従いなさい”

”お姉ちゃん…”ライムの声が震える”ライム、がんばる!”

”あの…僕は…”

”皆を支えてくださいまし”

”お兄ちゃんガンバ!”

”少年、耐えるのだ”

”金雄…ファイト!”

はぁー… 金雄がため息をつく。


コォォォォォー 新『ライム・スター』が大きく息を吐き出す。

唖然としていた教授が我に返り、新『ライム・スター』は拳を握り締め、右手を高々と上げる。

「何者じゃ!」お約束なセリフを吐く教授。


 ”え?”

 ”しまった、何かかっこいい名前を…考えている暇がない〜 そだ、定冠詞をつけよう”

 ”定冠詞?…定冠詞・ライム・スターですか?”

 ”違ーう!『ザ』を付けるの”


「私は…『ザ・ライム・スター』!!」

ババババババ!! 部屋の照明が激しく明滅する。


 部屋の隅で十文字が友の為に一生懸命スイッチをON/OFFしていた。


「うむむむ…知性があるから分離はできんと思っていたが…合体するとは盲点じゃった」 額の汗を拭う教授。

「恐れ入ったか…じゃなかった、教授お母様を返して」

「む…」教授は顎を撫で考えるそぶりをしたが、すぐにハンディ・ターミナルを操作する。「今までと同じ様に力ずくで来たらどうじゃ」

ソージィ… 

ソダイゴミィ… 

メイドロン一号、二号はノズルを構えなおし、『ザ・ライム・スター』と教授の間に割ってはいる。

「仕方ない…」

『ザ・ライム・スター』は拳を固め、ファイティング・ポーズを取る。


 ”お姉ちゃん、手を武器に”

 ”まかせろ”

 ”金雄、名前名前名前”

 ”…手はナックルで…粉砕するとかで…ナックル・ブレイカーはどうだ”


「ナックル・ブレーカー!」赤い拳にスパイクが生えた。

「む!」教授はハンディ・ターミナルにコマンドを打ち込む。

「メイドロン一号は右から、二号は左から、同時に攻めよ!」

ソダイゴミー…

オオソージィ…

両目のLEDを「!!」マークに点灯させながら、二体のメイドロンが左右から『ザ・ライム・スター』に迫る。


 ”来たー!”

 ”回り込みますわよ!”


ヒュン! 唸りを巻いて『ザ・ライム・スター』が消えた。

体に似合わぬすばやい動き、しかし走ったのでも跳んだでもない。 足元のボードに乗って、ミズスマシの様な動きで床を滑っている。


 ”行きますよ!”

 ”プロティーナ、パンチを。お姉ちゃん固まって!”

 ”パンチなのー”

 ”硬化!”


慌てて向きを変えるメイドロン一号、二号の鳩尾に、低い姿勢で滑ってきた『ザ・ライム・スター』のパンチが決まった。

ソダイゴミー!

オオソージィ!

教授の両脇を掠めて、二台のメイドロンは宙を飛んで壁にぶつかる。

Q〜… 

両目に「@@」を表示して、二台のメイドロンは機能を停止した。

『やったー!勝ったー!』 マダム・ブラックとアクエリアはケースの中で日の丸扇子(自分の体で作った)を持って『ザ・ライム・スター』の

勝利を祝う。

無言で腕組みをした教授の前に『ザ・ライム・スター』が滑ってきて、3m程の距離を開けて止まる。


 ”後は悪の張本人を…”

 ”ライム…”

 ”金雄?”

 ”頼む、教授と話を…”

 ”…”

 ”ライム”

 ライムが頷く気配を皆は感じた。


『ザ・ライム・スター』のバイザーが跳ね上がり、ライムの顔がむき出しになる。

彼女は教授の顔を真正面から見据え、口を開いた。

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