ライム物語

第六話 水曜日に月の姉が…?(3)


ライムとアルテミスがじっと聞き入る中、金雄の言葉が続く。

「小雨の中…箱に…子猫が…」

「可哀想だったから…連れて帰って…でも蚤が…」

「翌日洗ってやるつもりで外に…そうしたら…もう動かなくなってた…」

「だから…二度と…あんなことは…絶対に…」

金雄の涙はポタポタとアルテミスの体を通り抜けて床に落ち、その度に何故かアルテミスの体が揺らめく。

”だから貴方はライムを…死なせたくないと…”金雄の頬を撫でるアルテミス。

ミー…ミミミッ…ミミミッ (猫扱い…そう言えば最初はネコミルクで…うー)


”さあ…目を覚まして…”

アルテミスがゆっくりと腰を動かす。

「あっ?…」 金雄が瞬きをする「何だか、悲しいことを思い出した様な…」

金雄の下でアルテミスが微笑んだ。

”貴方の真意、見せてもらいました。これは…私からのお礼…”

アルテミスの腰がうねる。

「うっ…」

男根を包んでいた冷たさは、いつのまにか暖かさに変わっていた。

柔らか…いや、意外にしっかりとした何かが股間を捕らえている。

いぶかしむ間もなく、なめらかに滑る感触が金雄のモノを前後する。

「あの…真意を見たって?」途惑う金雄。 

”子猫を拾った事…死なせてしまった事”

「それ…僕が…話したんですか?」 途惑う金雄

”ええ…優しいのですね”

「それは…違うと思います…ただ後悔したくなかっただけで…」

”貴方にとってはそうなのでしょう…でもそれでライムを助けてくれたのは事実でしょう?”

「…」


黙ってしまった金雄に構わず、アルテミスは『お礼』を始めてしまう。

ビリッ

「ん…」金雄は弱い電気の様なものを感じ、すぐにそれは電気ではなくアルテミスの中が震えているのだと悟る。

反射的に腰を引こうとしたが、アルテミスの『お礼』の言葉を信じて動きを止めた。

ヴ…ン…、ル…ン…

強く…弱く…優しく…激しく… 複雑に振動するアルテミス。

アルテミスの中が、滑らかに震え、すっかり出来上がっている男根を微細な振動で芯から震えさせる。

金雄のモノは、その振動を快感に変調し、喘ぎの歌を奏でさせる。

「あっ…いっ…だめ…や…」

地を這うような重低音から、甲高い高周波、複雑な快感のうねりが金雄を翻弄し、彼の腹が激しく波打つ。

「だめ…いく…あぁぁぁぁぁぁ」

抑えた声と共に、金雄はアルテミスに熱いものを放つ。

そして精魂尽き果てたように、アルテミスに倒れこんだ。

が、彼の体はアルテミスに受け止められることなく床の上に伸びてしまった。

「れ?」 彼の下に居たはずのアルテミスの光る肢体が消えている。

ミー? 

きょろきょろと辺りを見回すライムと金雄。 アルテミスがどこにもいない。

”服を着て、お友達に入っていただいてくださいまし”

涼やかな声だけが暗い部屋に響いた。


「さて…」ベッドに腰掛た十文字が金雄を見た。「どうなったんだ?」

「よく判らないけど…真意は見たとかなんとか…」

ミミミミミミミッ… (捨て猫と一緒…) ライムはまだ拘っていた。

”では改めてご挨拶を…”

アルテミスの声と共に、床の色が鮮やかな銀色に変わった。

「わっ!?」 

ミミッ!?

驚く金雄とライム。

銀色のそれが流れるように動き、部屋の中央で一塊になり、それにつれてギシギシと床が不気味に軋む。

「…」目を見張る金雄達の前で、銀色の塊は床に寝そべる美しい女性の形になった。

「この様な格好で失礼します。私がアルテミスです」

「映画のなにかみたいだ…」

アルテミスはライムに視線を移す。

「ライム。貴方にもこの姿を見せた事はありませんでしたね」

ミー… (うん…)

「あ…まあどうぞ何処かに座って…」

「すみません、私は立つことが出来ないのです…」 床の上でからアルテミスが言った。

「…そうだったのですか…では『最も重き定め』というのはその事…ん?」呟く金雄に十文字が耳打ちする。

「え?…600kg!…じゃあ『物理的に重い』と…」言いかけて口をつぐむ金雄。

床の上でアルテミスが物凄い殺気を放っている。


こほん… 十文字は咳払いをすると、マイクを手に抑えた調子で喋りだした。

『月のアルテミス。彼女はあえて分類するならメタル・スライムになるだろう』

「メタル・スライム?」 金雄は昔のTVゲームにそういうキャラクターが居た事を知っていた。

(「メタル・スライムのお姉さん…『うふふ…おいで…坊やの経験値を上げてあげる…たっぷりと』…なんて)

ミー! (金雄、へんなこと考えてる!)

『その体は銀色の流動体を基本とし、自在に反射率を変え、幻像、催眠術など月光を使った技を駆使できる。しかし、強すぎる光では

その威力を発揮できず、昼間の屋外で力を発揮することは出来ない。また、体の構成上の制約…あー…から、人型になっても立つ事は

できない』

「…」

『一方、流動性の高い体は時速60kmで移動できる。スライム5姉妹の中でも特異な存在なのだ』

と、ここまでしゃべってから、今の話がアルテミスの気に障っていないか、様子を伺う十文字だった。


ミー…ミミミミミミミッ? (お姉ちゃん…何故今までライム達にその姿を見せなかったの?)

アルテミスは躊躇いがちに答える。

「この姿になれば…こほん…『私』が一箇所に集中して…あのアパートの床が抜けるからです」

「あー…でしょうね…っと」十文字は相槌を打ってアルテミスに睨まれた。

金雄達のあずかり知らぬことではあるが、アルテミスは、普段はコーポコポの床一面に薄く広がって重量を分散させているのだ。

訪問者や侵入者があった場合、アパートの中が薄暗いのを利用して幻像を出して応対したり、侵入者を表に放り出すのがアルテミスの

役割だった。


「あーっと、それでライムの事ですが」話題を変えようとする金雄。

「カ…金雄さんと言われましたね。貴方がライムに二心なく接してくれたことは感謝しています」

「あ、どうも」金雄は、ライム以外にはじめて名前を呼んでもらえたなと思いながら頷く。

「ですが…やはりライムを連れ帰らせてください」

ミー!…ミミミミッ…ミミミミミミミッ… (や!…今帰ったら…ライムはまた役立たずに逆戻りだもん…)

ライムの様子を見ながら金雄が言い添える。

「あー…前にアクエリアさんにも言いましたけど…ライムが帰りたくなるまで、ここで預かりますよ…無理に帰してまた家出したら…」

「そうですね…」 アルテミスは金雄の意見に考え込んだ。


しばしの沈黙の後、アルテミスが口を開く

「金雄さん、十文字さん…私たちの気持ちが判りますか?この世に同族が…自分と同じ生き物が6人しかいないという事が…」

「え…まぁ」「そう…ですね」 とまどう金雄と十文字

「貴方達は人間で、この世界は貴方達の世界です。どこにでも同胞はいます」

「…」

「私達はたった6人…大事な…とても大事な家族なのです」

「…」

「逆の立場なら…貴方に妹がいたとして…異種族の中に一人預けられますか?」

「そこまでは考えなかった…でも…」

「貴方達は『いい人』なのでしょう…でも、大事な妹を預けられるほど私は貴方達を知らない」

今度は金雄と十文字が考え込む。


「ライムを連れ帰って…その後は?」

「ライムとお母様と、皆と話し合います、どうするのが良いのかを」

「そうですね…」

ミー!? (金雄!?)

「ライム、僕も家族に心配をかけ続けるのは良くないと思うし…」

ミー!ミミミミミミミッ! (でも!でもでもでも!)


ライムが抗議の声を上げたその時だった。

「お姉様!」「少年いるか!」「お兄ちゃん!」

「わっなんだなんだ!」

開いた窓を乗り越えて、プロティーナと『ジャーマネン』が入って来た。

続いて入ってこようとするアクエリアをプロティーナが車椅子ごと引っ張り上げる。

「貴方達…何をしに来たのですか」 アルテミスが咎める様に言う。

「わー…これがアルテミスお姉様?…とっても綺麗だったの!」

プロティーナが感嘆の声を上げるのを押しのけ、アクエリアが慌てた様子で告げる。

「大変です、お母様が人間に拉致されました!!」

「お母様が!…拉致!?」愕然とするアルテミス「一体どんな人間に…『警察官』とか『軍隊』とかがやってきたの?」

「判りません…」泣きそうな声でアクエリアが言った。「二体の人型ロボットを連れた年寄りの人間がやってきて…お母様は私たちに逃げ

ろと…」

「ロボットですか?」 金雄が合いの手を入れる。

「ええ…確か…『オオソージ!』とか『ソダイゴミー!』とか叫んでいました」

『メイドロンだ!?』 ミミミミミミッ!? 金雄と十文字とライムが叫んだ。

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