ライム物語

第五話 火曜日に赤い姉が攻めてくる(8)


「お願いもうやめて」ライムは辛そうな口調で言った。

「なに?」

「お姉ちゃん達と喧嘩はしたくない」

「ならば帰って来い」『ジャーマネン』は言った「お前はそうやって人間を操る術を身に着けた。立派にお母様の役に立てるではないか」

態度を軟化させたのは、『ジャーマネン』が自分の不利を悟っているからだろう。

「違うよお姉ちゃん、金雄を操っているんじゃない。二人の力を合わせているの…」

「ライムがこんなに聞き訳が無いとは…そうかやはり中の人間のせいだな。こうなれば手段は選ばぬ」

のろりと前に出る『ジャーマネン』…がそこで足が止まった。

「む…駄目か」

『ジャーマネン』の形が崩れ、十文字の体形に変わる。

『ジャーマネン』が維持できなくなったスカーレットは、十文字の体から一度離れその肩に腰掛けた。

「やった、二人が分離した!」

(十文字は…解放されたのか?)金雄の疑問を『ライム・スター』が口にする。

「十文字さん、大丈夫?」

しかし十文字は応えない。 『ジャーマネン』ではなくなったが、まだスカーレットの支配化にあるようだ。

「む、まだ言うことをきくか?」スカーレットは顎に手を当て、何か考えている。


「よし!」

スカーレットは十文字の右手に巻きつきながら形を変える…赤く鋭い刃に。 

「お姉ちゃん!?」一歩下がる『ライム・スター』

”ふ…これでどうだ?”

スカーレットは真紅の刀に姿を変えたのだ。 それをうつろな目の十文字が握っている。

”これならば自由に動ける上に精力も消耗しない。おまけに痛くない…私はな”

十文字はのろのろと『妖刀スカーレット』を構え、刃を返して峰を『ライム・スター』に向けた。

「…」ライムの顔に怯えの色が浮かぶ。

(大丈夫…)

「金雄…だって…」

(相手をよく見て…避けるんだ)


”行け!”

「とぉぉぉぉぉ…」

間の抜けた気合と共に十文字が刀の峰で『ライム・スター』に打ちかかる…

スカッ

しかし『ライム・スター』は余裕で避ける。

”ありゃ…何をしとるか!”スカーレットの怒声がとぶ。

「そうかぁ。これだと十文字さんの剣術の技量がそのまま出るんだ」

(それに外から操られているんだ…どうしたって動きが鈍くなる)

”くぅぅぅぅ…”刀になったまま器用に歯軋りするスカーレット。

”ええい、攻めまくれ!”

「はい…面…胴…突き…」 スカッ…スカッ…スカッ…

十文字の剣は空を切るどころか、そよ風すら起こらない。 おまけに足裁きがもつれている。

とうとう十文字は床のタイルに躓いて前のめりに倒れて、『妖刀スカーレット』を床に突き立てしまう。

ズブゥゥゥゥゥ 

”わわっ!?”

さすがは『妖刀スカーレット』。 浴槽の床のタイルを貫き、つばの辺りまで一気に突き刺ささる。

そしてスカーレットは身動きできなくなってしまった。

”超能力者!何をしている!?”スカーレットが怒鳴るが、十文字はうつぶせに倒れたまま寝息を立てている。

精根使い果たしたようだ。

「あらら…大丈夫お姉ちゃん?引っ張り出してあげようか?」からかうような口調で『ライム・スター』が言う。

”やかましい!硬化を解けば自力で出られる!”

そう言ってプルプルと震えだす『妖刀スカーレット』 しかし体の大部分が浴槽の床に突き刺さっている為か、うまく変形できないようだ。

「やれやれ…」『ライム・スター』は肩をすくめる

(勝負あったな…)

「うん」

『ライム・スター』は変身を解いてライムと金雄に戻る。

「さて、十文字を連れて帰るか」金雄は十文字歩み寄る。

ミミミッ(お姉ちゃん、後でアクエリアお姉ちゃんに連絡するからね)


”こら、勝負はまだ…うぬぬ…ぬっ?”

スカーレットは切っ先(彼女の感覚では足の先)に『何か』が触れたのを感じた。 

次の瞬間、燃えるように力がスカーレットの中に沸き起こる

”これは…おおおっ!?”

赤い火柱が浴槽の真ん中に立ち上る。

「わわっ!爆発!?」 金雄は思わず腕で顔とライムを庇った。


…………?

光と熱風が吹き抜けた…ただそれだけだった。

恐る恐る火柱の立ったところを見やる金雄とライム。

ミミミッ!?

「わわっまたっ!?」

真紅の人影が『妖刀スカーレット』の突き刺さっていた辺りに立っている…そう、また彼女が『ジャーマネン』に変わったらしいのだが…

ミッ?ミミミミミミミッ?(あれ?十文字さんそこにいるよ?)

ライムの言うとおり、『ジャーマネン』の足元に十文字が倒れている。 と言うことは、スカーレットは単体で『ジャーマネン』をやっている事

になる。

「さては水道管を破って『水増し』したのか?」金雄はプロティーナの事を思い出した。

「何を言うか!炎の属性を持つこのスカーレット、『水増し』など出来るか」

妙なことを自慢して、『ジャーマネン』は胸を張る。

ブルン… 赤い双丘が重々しく揺れる。

「うわっ!さっきはAだったのに…今度はDにボリュームアップしてる」つい赤い胸元に目が行く金雄

ミーッ (むぅー) 当然の様にむくれるライム。


「しかし…私に何が起こったのだ?」首を捻る『ジャーマネン』

と、十文字ががばりと起き上がり、『ジャーマネン』の足に触れた。

「きたきたきたきたきた…きたぞぉぉぉ!」一声叫んでマイクを取り出す

『かってこの地で戦いがあった!炎の妖(あやかし)と化した少女が欲望のままに男達の精を貪り、己が糧に変えてこの地で淫らな宴に

耽っていたのだ!』

「そ、そうなのか?」勢いに呑まれる『ジャーマネン』

『戦いが終わり、炎の妖(あやかし)が消えうせたとき、糧と変えられた精気も大部分は無益に散りうせた!』

「まぁそういうもんだよな」と金雄。

『だが、その一部は浴槽の下に流れ、地の下に蓄えられていたのだ!炎の属性を持つスカーレットがそれに触れた事で、それはスカー

レットの糧となり彼女を一気に成長させたのだぁぁぁぁ!』

そこまで叫ぶと十文字はばったり倒れ、再び寝てしまった。

「なんというか…つくづく変な奴だ」『ジャーマネン』は呆れたように言う。

「まぁ、そうですけどね」何の気なしに相槌を打つ金雄。 しかし…

シュン!

音も無く赤い疾風が駆け抜けて、油断していた金雄を捕まえた。

「わっ…!」

ミミッ!?ミミミミッ!(金雄!?お姉ちゃん!)

「少年、ライムを大事にしてくれているようだから痛い目にあわせることはしない…」

下半身を液化させた『ジャーマネン』が金雄に襲い掛かったり押し倒していた。

既に金雄の下半身は『ジャーマネン』の中にあり、じたばた暴れる上半身を豊かな胸に掻き抱いている。

「が、ライムにお前をあきらめさせなければな…」

ゼリーのように柔らかい赤い魔乳が金雄の顔を挟み込み、シャツの下に赤い手が滑り込んでヌラヌラした感触を塗りつける。

「やめ…やめて…」

「安心しろ…すぐに良くしてやるから…」

金雄の耳を赤い口が咥え、グチャグチャという卑猥な音が金雄を呼ぶライムの声を掻き消していく。

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