ライム物語

第五話 火曜日に赤い姉が攻めてくる(6)


正午前に衣装が届けられ、自分達の仮装の詳細を知った鶴元組長&『鶴組員ズ』は呆然となり、次いで恵布六郎に猛然と噛み付いた。

無理も無い。 届けられたのはセーラームーン(セーラームーン、マーキュリー、マーズ、ジュピター、ビーナス、ちびムーン)とタキシード

仮面(何故かモーニングが入っていた)のコスプレセットだったのだから。

曰く、こんな恥ずかしい物が着れるか。 曰く、手前何を考えてやがる、等々。

だがスカーレットの虜になっている十文字の精力が枯渇する前に全てを終える必要があり、今更別の変装を用意している時間は無い。

皆、不本意ながら用意された衣装に袖を通し、再び驚く事になる。

衣装のサイズがピッタリだったのだ。 恐るべき恵布六郎の眼力であった。


「よし、それではこれから私を『ジャーマネン』と呼ぶのだ」そう宣言し、スカーレット…もとい『ジャーマネン』は一同の先頭に立って歩き出

した。

『へーい…』「はい!」一名以外は力ない返答を返って来た。

「やれやれ…ん?おい、アクエリア様はどうした?」モーニング姿の鶴元組長が聞いた。

「仕事が溜まっているとかで今日はパスすると…そうそう、これを配れとか」

セーラーマーズのコスプレ姿の椎三郎が紙の束を鶴元組長に渡し、皆がそれを覗き込む。

「ん…『神秘と魅惑の洗脳体験をされてみませんか。スライムランド近日オープン』…」

「…チンドン屋ですな、我々は」


一方、ライムと金雄は大学のベンチでお昼を食べていた。

金雄はマジステール大学名物のランチボックスセットのパスタパン(ボロネーズ風味)、ライムはデザートに付いていたオレンジゼリーと

格闘している。

「午後の講義も『学祭の準備で休講』か…」

ミミミミッ?

「え?『学祭』て何かって?…そうだな、うちの大学の場合だと…学部毎に模擬店を出したり、コスプレしたり、大騒ぎをしたり…」

ミッ?ミミミミミミミッ

「いつもやっている事と変わらない?…うーん、そう言えばライムが来てからは毎日お祭り騒ぎだったよな」

金雄はランチボックスからミルクボトルを取り出し、ちびちびやりながら考え、携帯を取り出すと大学の学祭プログラム予定を呼び出した。

「確か一般展示をやるから夕方から準備の手伝いに行かないと…えーと緑川教授のデモ展示…『メイドロン一号、二号』による清掃実験

…それに『分別回収用Ver.3』『腕交換式多機能4号』『防水試作X号機』…」

ミギーッ!!

「絶対行かないって?そうだなぁこの間の事もあるし…十文字と先に」 携帯をポチポチと操作して十文字を呼び出す…が応答が無い。

金尾は首を捻りながらランチボックスに蓋をし、容器を返却するために学食に向かう。

ポプラ並木の木陰をてれてれと歩いていると、進行方向から一団の人だかりがやって来る。

「気の早い奴がコスプレしているなぁ…」


ざわざわざわ…

『ジャーマネン』一行は恵布六郎の目論見どおり、正面からマジステール大学に入ることに成功した。

しかし、先頭を切って歩く『ジャーマネン』の造形の見事さに比べ、背後に続く『セーラームーン一行』…というより『怪奇百鬼夜行』のミス

マッチが人目を引き、暇で物好きな(つまり大部分の)学生がそのコスプレを論評しながら後を着いて来ると言う図式になっていた。

「後ろのあれは…ちょっとひどくないか?」

「いや、きっと『偽セーラムーン』のコスプレじゃないか?」

「そんな話はなかったろう?笑いを取ろうというのかな?」

「勝手なことを…」ぼそりと呟く鶴元組長「しかし…判らん」

背後に着いて来る連中は自分達のいでたちを笑うでもなく大真面目に論評し合っている。 最初のうち鶴元組長は怒りと屈辱で肩が

震えんばかりであったが、予想と違う反応に戸惑いが大きくなってきた。

「親分…あれあれ」英一郎が向こうの方を指した。 すっかり顔なじみになった金雄がライムを肩に乗せてやってくるではないか。

「おお」ほっとする鶴元組長「スカー…じゃない『ジャーマネン』様!ライム…様がいました」

「む…」『ジャーマネン』は頷くと、金雄達につかつかと歩み寄り、びしっとライムを指差す。

「見つけたぞ!親不孝者め!」

ミッ?ミミミミミーミミミッ!(えっ?スカーレットお姉ちゃん!)

「何、またぁ?ライム、一体何人姉妹がいるんだぁ」うんざりした様子の金雄。

ミミミミミミミミミッ(えと、上からアルテミス、スカーレット、アクエリアお姉ちゃんがいて…プロティーナが唯一の妹)

「ライム!何を呑気に家族構成など話している。さぁこの『ジャーマネン』と一緒に帰るのだ」

ミミッ?ミミミミミミミッ?(あれ?お姉ちゃん名前を変えたの?)

いまいち噛み会わない会話が続く。 

一方『ジャーマネン』一行について来た野次馬一同は、ゲリラ的にコスプレショーが始まったと解釈し会話からショーの設定を勝手に解釈

し出した。

「何だ須他も絡んでたのか?ライムなんてキャラいたかな?」

「いない。『ジャーマネン』の妹で裏切って逃げ出してきたとかいう設定ではないか?」

「ありがちだな」

周りが勝手なことを言っている間に、ライムと『ジャーマネン』の論点がようやくかみ合い出した。

ミミミミミミミッ!(まだ帰れない!)

「我侭がいつまでも通ると思うな!それもその人間の影響か!」

『ジャーマネン』の右手が一陣の赤い風ととなって金雄を襲い、反射的に身を引く金雄。 その手の中でランチボックスが2つに割れた。

「うわわわっ!」 ミギッ!?(お姉ちゃん!?)

『ジャーマネン』は刃と化した右手を斜めに構えなおす。

「今のはわざと外した、しかし…」ゾロリと右手を舐めるて冷たく笑う「次は『うっかり』切ってしまうかも知れんぞ…」

「あ…危な…」金雄は震え上がった。

ライムは金雄の肩の上に仁王立ちになり、金雄に囁く。

ミミッ(いくよ)

「う…うん」金雄はこくんと頷き、右手を斜めに構える。

『ライム・スター!!』 

ライムが金雄を包み込み、貧相な体格の大学生が若さ溢れるスライム少女戦士に一瞬で変わる。

『おおー!!』 辺りからどよめきと歓声が上がった。

「見たかよ、今の!」「うーん、これは凄い」


『ライム・スター』は両手を上げてガードの姿勢を取り『ジャーマネン』と対峙する。

「お姉ちゃん…」唇をぎりっとかむ「こんな時に限ってに十文字さんはいないんだから…」

「『超能力者』ならここに居るぞ」

「えっ?」

「判らないか、ライム。私は『超能力者』を取り込んだのだ」

”なん…だって?” 金雄がライムの中で呻いた。

「金雄、起きちゃ駄目!」ライムは焦る「どうしてそんな事を…」

「ライム、お前は私の全てを知るまい。しかし『超能力者』はお前の全てを知っている。勝ち目は無いぞ」勝ち誇る『ジャーマネン』。

「…」

「お前を傷つけるつもりは無いが我侭を言い続けるなら…」右手を手の形に戻し、高々と掲げながら続ける「母に代わっておしおきする」

じりっと一歩下がる『ライム・スター』


二人を囲む学生達の輪、その背後で鶴元組長&『鶴組員ズ』が暗躍する。

「兄ちゃん、どう?これ」

「え?『魅惑の洗脳体験…』?」

「そうそう、あの赤いお姉さんが全身でベッタリとか、真っ黒い有閑マダムがGカップの間でアソコどころか全身パイずりで…」

「…いくら?」

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