ライム物語

第五話 火曜日に赤い姉が攻めてくる(3)


十文字は迷った。 絶体絶命の事態ではないが、彼の評判が人質にとられ貞操が危機にさらされている。

(金雄に助けを!…でも、どうやって?)

金雄に助けを求め、彼が十文字を引っ張りだせば彼の貞操は守られるが評判は地に落ちる。

では、金雄に事情を説明し、適切な対処を求めれば? だめだ、説明が終わるまでアクエリアとスカーレットが黙っているとは思えない。

十文字は進退窮まり、彼の顔色が悪くなる。


”スカーレット姉様!お早く” アクエリアがスカーレットに触れて警告の意思を伝えてきた。

彼女達は人間の様に言葉を話す以外に、体の一部を触れ合わせるだけで意思を伝達できた。

”わかっている、半洗脳して連れて行くぞ” スカーレットが応じた。

十文字自身の陰嚢を捕らえていた固く赤い手が、形を崩して袋を包み込んだ。

「ぬっ!」 パンツの中の冷たい感触に声を漏らす十文字。

彼自身が大きく振るえて硬度が増す。

机の下でスカーレットの目が獲物を狙う野獣の様に細められた。

その口から赤く細い舌が蛇の様に飛び出し、震える男根の先端に巻きつく。

「おう!」

赤い蛇が器用に亀頭を剥いていく。

細く固いピックのようなスカーレットの舌が裏筋を弦のように弾き、十文字の男根を固くしていく。

そして冷やされた陰嚢の中で、甘い快感がじわじわと満ちてくる感触…

「くぅぅ…(ここでいかされるのか!?)」悶える十文字、震える亀頭。

(ふふっ…まぁだ…だめよ)スカーレットは微かに笑うと、亀頭の先端に舌を滑らした。

「にぃ!?…」十文字が硬直する。

鈴口から滑り込んだスカーレットの舌は、絶妙な形と柔らかさで十文字の中に滑り込んでいき、その中を満たしてしまう。

そして内側から十文字を直接愛撫する。

「ほっ…」熱い快感と同時に十文字の目がうつろになり、彼は動かなくなった。 

彼の頭の中では、心を撫でる赤い手が確かに見えていた。

固いのに柔らかいその手に撫でられると、甘い痺れが心の底から沸いて来る。

”どうだ…気持ちよいか…” 頭の中で声がする。

「はい…」応えてしまうとすうっと心が軽くなる。

”一緒に来い…”

「はい…」十文字は唐突に立ち上がる。 チャックは…しまっていた。


「…これは運というより悪縁じゃな…わが母ならば祓えましょうぞ…」謎の老婆(アクエリア)は怪しげな事を呟いた。

「私とおいでなさい…悪縁を祓ってしんぜましょうぞ、格安料金で…」

十文字はのろのろと頷いた。

「祓う…お払い?これから!?おい、講義はどうするんだ?」金雄が驚いて聞いた。

「自主休講…」

十文字はぼそっと呟くと、老婆の背後に回り車椅子を押して何処かに行こうとする。

「おい!」金雄が声を掛けたが、彼らはは振り向かなかった。 後には妙なテントと穴の開いた机だけが残っていた。

「ライム、あれはアクエリアさんじゃなかったのか?」

ミッ?… (そうかなぁ?…)

首を振りながら金雄とライムは大学に向かう。


「うむむむ…見たかね、爺君」電柱の影から一部始終を見ていたのは、かの緑川教授と爺七郎だった。

「は、はぁ」

「あのマント女は昨日のマント女の変装かも知れん!」

「どっちもマント…それって変装ですかね?」

「わしは後をつけるぞ、かの学生がどうなったのか突き止めねば!」

「ああ、教授…これから講義じゃなかったんですかぁ」

緑川教授は十文字と老婆を追いかけていってしまい、爺七郎は置いてきぼりにされてしまった。


「…う?…」唐突に十文字は我に返った。 天井が見えると言うことは、自分は何処かの屋内で横になっているらしい。

どこにいるのか確かめようと、辺りを見回す。

古ぼけた畳、汚れた壁、すすけた天井…古い家のようだ。

もう一度辺りを見回し…ようやく部屋にいた者たちに気が付く。

(占い師と…赤いワンピースの女の子…あ…)

十文字は体を起こし、占い師に声を掛けた「アクエリアさん?」

アクエリアは老婆のマスクを取り、皺のよった手の手袋を外す。

「ようこそ『超能力者』殿」 艶のある女の声が響く。

十文字はそちらを向いたが、暗くなっていてよく見えない。 と、闇が動いた。

「あ…ひょっとして貴方が?」

闇の一部が黒い女の形を取った。

「私はマダム・ブラック、ライムの母です。娘が…いえ娘達が随分とお世話になったようですね」

「いえ、お世話だなんて…」呑気に挨拶を返しかけて、十文字はやっと自分がここに拉致されてきたことに気が付いた。

部屋に緊張感に満ちた沈黙が落ちる。


「あの…」十文字が口を開きかける。

「まずは礼を言いましょう。貴方の友達のおかげで前々から計画していた事が実現しそうです」

「計画?」

「ふふ…」マダム・ブラックは含み笑いを漏らしとゆっくりと手を上げる。「娘達よ、基本パターンを!」

マダム・ブラックが言葉を発すると同時に、その闇が一気に広がる。

「わっ!?」十文字は思わず手で頭をかばい目をつぶった…しかし何かが起こった様子は無い。 そっと目を開ける。

「こ、これは!?」

部屋の様子が一変していた、さっきまで安アパートの一室だったところが、漆黒の内装のホテルと思ったらベッドの脇には洗い場、その

向こうに浴槽…そして壁一面を覆う巨大な鏡。

「こ、これは特殊浴場!?」

”ほう、判るか”壁から声がして、黒い女体がレリーフの様に現れた。

”これこそ私が前々から計画していた、ソープランド…いやスライムランド!”

「はぁ?…」あっけに取られる十文字

「自分の体で部屋の内装を作ってソープランドの一室を出現させと…あ、湯船が空…」

するりとアクエリアが湯船に歩み寄り中に入る…たちまち湯船はアクエリアで一杯になった。

「…あ…エアマットがない…」

赤いスカーレットが流れ出てきて、洗い場で四角くまとまる。 空気を吸い込む音がしたと思ったら真紅のエアマットに変わった。

「コンパニオンが…」

「お待たせしましたなのー!」 グラマラスに体に舌ったらずな喋り方のプロティーナが入って来た。

「おおっ」

”プロティーナが『コンパニオン』を勤められるようになり、ついにこの技が完成した礼を言おう”

「ありがとさんなのー」柔らかな女体が十文字を抱きすくめ、豊満な乳房の間に頭を挟む。

思わぬ歓待に十文字は目を白黒させる。

(はて?こんな事をされるために連れてこられたのかな?)


思わぬ展開に十文字の心に辺りを観察するほどの余裕が生まれた。

(なにか…足りない…あっ!)

十文字はあるものが欠けているものに気が付いた。

「肝心な物が…スケベイスがない!」

”気がつきましたか…”マダム・ブラックの声が憂いを帯びる”…それはライムの役割だったのですが…”

「えっ」十文字か目を剥いた「なんでまた」

”この技は、家族全員が協力してこそ意味があります…しかしライムにはできる事が限られていました…”

「エアマットとか毛布とか…」

”ライムの体積が問題でした…”

「あの…それが家出の原因だったのでは…」おそるおそる十文字が尋ねた。

”おそらくそうでしょう”マダム・ブラックが頷いた”ライムは『イス』を嫌がっていました”

”お母様?”涼やかな声が響く、十文字が初めて耳にする声だった。”知っていらしたのですか”

”娘の気持ちが判らずに母が務まりますか…でもライムは本当は『自分は役に立てないのでは』と…それが辛かったのですよ…”

マダム・ブラックの声に悲痛な響きが加わり、スライム娘達がその思いに同調しているのがわかる。

「あー、そういうことならば…僕がライムちゃんを説得しましょう、お母さんと話し合うように」と十文字。 しかし…

”『超能力者』判っていませんね…私達は人間を信用していません”マダム・ブラックの声が冷たい響きを帯びた。

「え?」

”貴方が私達の為にライムを説得する?何の為に?貴方にどんな利益があると?”

「いえ…あの利益と言われても…」

”貴方にこの技を見せたのは、これを見た若い人間の反応が知りたかったからです…どうやら有望そうですね”

「…」

”ご苦労様でした、次は貴方の体に役立ってもらいましょう”

マダム・ブラックがそういった途端床が競りあがり、十文字を巻き込みながら変形する。

「どわわわっ!?」

”スライム・イメクラ『魔界の人体改造室』、堪能してくださいませ”


そのころ、マジステール大学、緑川教授の講義。

『自主休講…』

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