ライム物語

第四話 月曜日に妹が我侭を言う(8)


「むむっ…これは」 金雄は背後に妙な気配を感じた。

「殺気…いや、妖気…じゃなくて色気…いや微妙に食い気が混じって…」

そんなに詳しく気配が判れば苦労は無い。 

振り向いて視線を下に向ければ、プロティーナがにこにこ笑って金雄を見上げている。

「お兄ちゃん…プロティーナとするもん」そう言うと金雄の足に抱きつこうとする。

「え?…わわっ、駄目ッ!」取り合えず拒絶しておいて、携帯を手にする金雄「言うこと聞かないと…ライム姉ちゃんを呼ぶよ!」

「むぅー」頬っぺたを膨らませて不満の意を示すプロティーナ。 

幸いそれ以上の行動に出る様子は無く、無理やりコトに及ぶ気はないようだ。

しかしプロティーナが実力行使に出れば…金雄には対抗手段が無いではないか。

(ふぅ…ライムを行かせたのはまずかったか?)今更ながら後悔する金雄だった。

「むぅー…どうしてぇ。プロティーナはライム姉様より魅力が無いのぉ」プロティーナが口を尖らす。

「え?…いや十分に魅力的だよプロティーナちゃんは」(何を言い出すんだ?この子は)

「…嘘だもん。男は魅力的な女を前にしたらケダモノになるもん、裸になるもん。お兄ちゃんは裸にならないし、ケダモノにもならないもん」

「そんな事誰が言ったんだ!?」目を丸くする金雄。

「お母様だもん」

「こんな小さな子に何を教えてるんだ!?」
「小さい?…プロティーナ小さくないもん!ライム姉様よりおっきいもん!なのにお兄ちゃんはライム姉様としてもプロティーナとしないもん!

馬鹿にしているもん!!」

怒って大声を出すプロティーナ。

金雄は彼女を宥めながら、誰かにプロティーナの存在がばれたらと気が気ではなかった。


「さてと…ライムちゃん。どっちに行こうか?」 十文字が肩の上のライムに声を掛ける。

ミー(あっちかな) 

ライムは何か言った様だが十文字には判らない。

「…判んないな…指差してくれる?」

ミミッ(もうっ) 

ライムが指差した方向に十文字が歩き始めた。 

二人がアクエリアと巡り合うのはまだ先の事になりそうだ。 


「そうか…プロティーナちゃんは早くおっきくなってお母さんの役に立ちたかったんだ」

「そうなの…ライム姉さまはとっても小さかったから、プロティーナは大きくならないと駄目だと思ったの…それで『ぷろていん』をいっぱい、

いっぱい食べたの」

「そうか…そうなのか…」金雄はプロティーナの話を聞きながら、ライムの事を考ていた。

(まてよライムの立場に立ってみれば…体が小さい、『洗脳』力も弱い…だから自分が一番役に立てないような気がするのでは?…

ひょっとして家出の理由はそれなのか?)

突然腕組みをして考え込んだ金雄を見て、プロティーナが首をかしげる 「お兄ちゃん?」

(でも家出をしたからってどうなる?武者修行?大きくなる方法を探して?いや…)

「お兄ちゃん!」

「わっ!びっくりした」

「むぅー…プロティーナの話を聞いていないもん」

「い、いや、聞いてますよ、ちゃんと…あーそれでだねぇプロティーナちゃん」居住まいを正す金雄。「そのね…要するに僕から見れば

プロティーナちゃんはまだ小さいんだ」

「ふみっ!」驚き、そして落ち込むプロティーナ「まだ…小さいの…」

金雄は大きく頷いて続ける「大丈夫。プロティーナちゃんもすぐに大きくなってアクエリアさんみたいに魅力的になれるから」

なぜ金雄がライムでななくアクエリアを引き合いに出したかと言えば、ライムでは『大きく』と言う条件に当てはまらないので説得力に欠ける

様な気がしたからだった。

(許せライム)金雄は心の中で謝った。

「アクエリア姉様みたいに…」プロティーナは呟くと、はっとした様子で金雄を見た「それなの!水!水は無いの!?」

「み、水?…ああ、この部屋はユニットバス付だからそこに…」金雄は訳がわからないままユニットバスの扉を指差した。

プロティーナは金雄の指差した扉に向かって突進し、中に飛び込む。 すぐに中で水音がし出した。

「な…何を始めたんだ?」


ルルルルル…金雄の携帯が鳴った、十文字からだ。 急いで電話に出る。

『説明しよう!プロティーナちゃんは、アクエリアさんの様に体に水を含んで体を大きくすることが出来る!ただしアクエリアさん程ではなく、

子供から大人程度に体積を増やすのが精一杯である!以上!』

電話が切れた。

「…」手に持った携帯をじっと眺める金雄。 彼がどう反応するか決める前にユニットバスの扉が開いた。

「精一杯大きくなったの!魅力的になったぁ?」期待を込めたプロティーナの問いに、額を押さえて首を振る金雄。

「あのー…そうじゃなくて…」

プロティーナは確かに大きくなっていた…幼児体形のままで。 あえてこれに近い物をあげるなら…

「…『子なきじじい』かなぁ」力なく呟く金雄。

「むー?なんで?どこが違うの?」

どすどすと音を立てて、縦横厚みが増えたプロティーナがやって来た。

「プロティーナちゃん…そのね…『頭身』って知っている?」

「とーしん…なんなの?」

「…いや…まてよ」金雄は説明しかけてやめると、机の上に飾ってあったフィギュアを幾つか手に取った。

「ほら、大きくなるとこんな風に手足や頭の比率が変わるんだ。例えば八頭身だと…」金雄の説明をプロティーナが遮った。

「難しいのはよく判らないの」そう言いながら、金雄の手からフィギュアを取り上げてきゅっと握る。

「…こうなのー」ニッコリ笑ったプロティーナの形がみるみる変わる。

「おお!これは『懐かしの食玩:仮面のヒーロー 第一期 七人衆』の一人『電気の七号』!…の等身大フィギュア…無彩色版…」

「かっこいいのー!」『電気の七号』に姿を変えたプロティーナは喜んでいる…が、当然のことながら色気は無い。

「そう言えば『ライム・スター』のボディは『技の一号』だったな。なるほど、触った形を覚えられるのか…」

「今度はこれなの…うわぁ…いやらしいの、スケベなの…」プロティーナが手に取ったのは、全裸のアダルト・フィギュアだった。 

それを手の中でむにむにと触って形を覚えると、プロティーナは再び姿を変える。

すらりと伸びた手足に不自然なほど大きい胸とお尻、そして童顔…見事にプロティーナはフィギュアの形を写し取っていた。 但し髪の毛

まで肌色なので、着色前の等身大のフイギュアにしか見えない。

「おお、これは凄い!…しかし拡大してみると細部の不自然なところが目立つな…あ、パーティングライン(金型の合わせ目で生じる段差)

まである」

じろじろと無遠慮にプロティーナの体の隅々まで眺める金雄。

と、プロティーナがよろけてベッドに座り込んだ。

「どうしたんだ?」

「お水を飲んで体が重くなったの…ねぇお兄ちゃん、プロティーナどこか変なの?」

「ん?ああ、プロティーナちゃんのせいじゃなくて、元のフィギュアの方が変なんだよ」

「んー…でもプロティーナは変なのは嫌なの。ちゃんとして欲しいの」

そう言って、プロティーナはすいと片足を差し出す。

少し人形じみたプロティーナの足にくっきりとパーティングラインが走っている。

「むむこれは…モデラーの血が騒ぐぞ」

金雄は机からクラフトナイフや耐水ペーパーを取り出す。 

すると、プロティーナが恐怖の叫びを上げた。

「いやー!プロティーナを切り刻むのー!?」

「あっ…ごめん!つい癖で…でもどうすればいいんだ?」

「お兄ちゃんの手で形を整えてくれればいいの」

金雄は頷くと、プロティーナの足に手を添えた。

とても柔らかい粘土細工を扱うように、優しく手を滑らせてプロティーナの足の形を変えていく。

金雄のセンスは確かなようだ。 

人形のようだったプロティーナの足が、なまめかしく、男の感性に訴える微妙な曲線に変わっていく。

「うむ、我ながら良い出来…あれ?」金雄は首を傾げた「何でこんな事になったんだろう?」

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