ライム物語

第四話 月曜日に妹が我侭を言う(7)


ガチャッ 

金雄はプロティーナを抱えて寮の部屋に戻ってきた。

「よいしょっ…他の連中に見つからなかったのは幸運だったな」

ミミッ?(見つかるとまずいの?)

「ん…でもないか?」

金雄の意識の中では、プロティーナは女の子(それも幼い)なのだが、今金雄が抱えているプロティーナはピンク色の柔らかそうな不定形の

塊で、一見すると粘土かパテの塊にしか見えない。

「学祭の準備だとでも言えば幾らでもごまかせたな」

ピピピピッ!ププププッ! プロティーナが甲高い声いで抗議する。

「おっといけない」金雄はプロティーナをベッドに横たえた。


「さて…足はどれだ?」ピクピクと悶えるプロティーナを前にし、改めて考え込む金雄。

今のプロティーナはピンク色の大きな塊に小さなこぶが五つくっついている姿で、どれが手でどれが足か全く見当がつかない。

(まぁ、適当に揉み解すか)

金雄は一番小さいこぶをそっと握り、揉んでみる。

ピピピピッ!(それは右手よ!)

ミミミミッ!(何やってるの!)

「そうは言うがな…これか?」中ぐらいの塊をむにむにする。

ピーッ、ピーッ!(お兄ちゃんがいじめるぅ!)

ミミミミミミミッ!(頬っぺたをひっぱってどうするのよ!)

「ご、ごめん…こりゃ困った」


ピーッ!(ああっもうじれったい!) プロティーナは一声叫んで飛び上がった。

ポン! くるくるくるっ… とん! 空中で一回転して女の子の姿になり、ベッドに着地する。

「足はこれだもん!」と右足を指す。

ミーッ?

「…本当に足がつったのか?」 

二人の疑惑の眼差しに、プロティーナは慌てて足を押さえるとベッドに倒れこむ。

「痛いもん!足がつったもん!」痛がってじたばたとベッドの上で暴れる。

(幼い女の子がベッドの上で暴れている…裸で…はっ!俺は何を考えているんだ!)

金雄はちょっと顔を赤らめ、プロティーナの足首を掴んで、親指を回したり、足首を捻ったりする。

「あん…そこ…そこぉ…太いとこも」

「ここ?」ふくらはぎを揉む金雄。

もみもみもみもみ… (ゴムみたいで…いい揉み心地だなぁ…)

「あん…そう…もっと…もっとぉぉぉ…」 心なしか艶の混じった声でプロティーナ。

ミー… (むー…) なんとなく面白くないライム。

「あーライム…手当てだよ、手当て」金雄は後ろめたくなり、思わず言い訳をした。


ガチャ 唐突にドアが開き十文字が入って来た。

「携帯切ってるのか?…何をしている?」 

十文字は部屋の光景に目を丸くする。 ベッドの上に裸の幼女が寝そべり、金雄が小さな足を掴んで…

「おい…何やってるんだ?」

「ば、ばか!誤解だ!」慌てる金雄「足がつったと言うからだなぁ…ライムも何とか言ってくれ」

ミミミミッ…(知らないっ…) プイッと横を向くライム

「うーむ…」今度は十文字の疑惑の眼差しが金雄を刺す。

「おいおい…」金雄は不本意ながら、十文字に対して釈明する羽目になった。


「…まぁライムちゃんが一緒だったんだしなぁ…」話を聞き終えて、一応頷く十文字。

「それで?足はもういいの…プロティーナ…ちゃん」

「うん…もう大丈夫なの」立ち上がって足を動かすプロティーナ。

「ありがとさんなの」ペコンと金雄に頭を下げる「…それで、改めてプロティーナの中の人をお願いするの」

ミミッ!(駄目ッ!) 即座に断るライム。

「むー、ライム姉ちゃんじゃなくてお兄ちゃんに頼んでいるの」唇を尖らせるプロティーナ。

「…あー…悪いけど…やっぱり」と金雄(関節を外されるのは嫌だし…)

「むぅぅぅぅ…」思いっきり不満そうなプロティーナ。

ライムはプロティーナから金雄を守るように、二人の間に割って入り。プロティーナを睨む。

プロティーナはライムと金雄を交互に見ていたが、やがてがっくりとうな垂れた。

「仕方が無いの…」元気のない様子で狭い部屋をとぼとぼと歩いてドアの所に行く。

「お世話になりましたの…」ペコンと頭を下げて出て行こうとする。

「ちょっとまてぇぇぇ!」慌てる金雄。

「…どした?」 ミミッ?

「ばか!ここから裸の幼女が出て行くところを誰かに見られたらどうなる!」

大慌てでプロティーナを引き戻し、ドアを開けて外を伺う。

がやがやがや… 寮の玄関のほうが騒がしい。 ちょうど数人の寮生が帰ってきた様だ。

金雄はドアを閉めながら言った。「まずいな、もう夕方だ。これからの時間は誰かに見られずに出て行くのは難しいぞ」

「プロティーナはかまわないもん」

「俺が困る!」金雄の言葉に頷く十文字。


「どうする?袋かトランクにでも詰めて持ち出すか?」と十文字。

「やー!荷物扱いはやー!」じたばたとプロティーナ。

「せめて服を着ていればごまかしようも…お前等身大フィギュアの服は持ってないか?」と金雄。

「等身大の幼女フィギュアの服なんか持ってるか!」と十文字「…そうだ!プロティーナちゃん、裸じゃなくて服を着た形になれない?」

「服?」プロティーナが小首を傾げた「こう?」

もこもことプロティーナの形が変わり、ワンピースを着た格好になった…肌と同じ色の。

「あぁぁぁぁ…」頭を抱える金雄。 これでは少し離れたら裸にしか見えない。

「そうだ!ライムちゃんが服に化ければ」

ミミミミッ…ミミミミッ?(ヒラヒラしたものは無理よ…張り付く形ならなんとかなると思うけど?)

「それじゃ水着だ…」金雄が力なく言った

「そうだ金雄。アクエリアさん達を呼んで連れて帰ってもらうか、彼女の服を借りてこよう」

「何?」一瞬驚いた金雄だったが、考えてみればプロティーナの保護者はアクエリア達だ。 至極全うな意見のようにも思える。

「また騒動にならなければいいがな…よし、プロティーナちゃん。これからお兄ちゃん達がアクエリアお姉ちゃんを連れてくるからね。

おとなしく待っていてね」

しかしプロティーナは首を横に振ると、金雄のズボンの裾を握り締めて離そうとしない。

「やなの!一人でお留守番はやなの!」

「困ったな…十文字、すまないがアクエリアさんを呼んできてくれるか?」

「え?俺がかぁ?」困惑する十文字。

「お前が言い出したんだろう」

「そうだが…俺で話が通じるかな…やっぱライムちゃんが居ないと」

「そうだな…じゃプロティーナちゃんを見ていてくれ。俺とライムが捜してくる」

「やー!解説の人は嫌ー!中のお兄ちゃんがいいの!」

ミミミミミッ!(我侭を言うんじゃありません!)

「いゃーーーー!!」大声でわめくプロティーナ。

慌てて金雄が彼女の口を塞ぎ、宥める。

「大声出さないで…えい仕方ない。ライム、十文字とアクエリアさんを捜しに言ってくれ」

「なに?…」

ミミミミッ?(えー、なんでぇ?)

「仕方ないだろう」


しばらく三人はああだこうだともめたが、プロティーナがどうしても言うことを聞いてくれないので、結局ライムと十文字がアクエリアを捜しに

行く事になってしまった。

「じゃ行ってくる」

ミミミミミミッミミミミミミミミッ(プロティーナ、お兄ちゃんに迷惑をかけちゃだめよ)

「いってらっしゃーい」 にこにこして手を振るプロティーナ。

ガチャン 

音を立ててドアが閉まり、部屋の中には金雄とプロティーナが残された。

「ふぅ」金雄は息を吐いた「取り会えず二人からの連絡待ちだな」

呟いて机の上の携帯を取り上げ、電源が入っていることを確かめる。

その背後でプロティーナが呟く。

「うふっ…これでお兄ちゃんと二人っきり…だもん」

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