ライム物語

第四話 月曜日に妹が我侭を言う(6)


「とにかく関節をはめないと…」ストレッチの柾はぽいぽいっ雪駄を脱ぎ捨て、悶絶した鶴元組長の手首を掴みながら地べたに座った。

「よっ…と」 足袋を履いた足を鶴元組長の脇の下に宛がい、ぐっと腕を引く。

ゴギッ ぐえっ!? 鈍い音がして鶴元組長の悲鳴が上がった。 鶴元組長は目を剥いてがばっと起き上がり…すぐにばたりと倒れる。

「だ、大丈夫なのかっ?」

「なーに、声が出るなら生きてますって」 と気にした様子も無く、反対の腕をはめにかかる柾。


『ライム・スター』と、プロティーナはその様子を興味津々で眺めていた。

「関節…ってなんなの〜?」と赤いワンピースの女の子姿に戻ったプロティーナ。

「人間は私達と違って体の中に硬いところが有るでしょう?その継ぎ目のところの事を指しているのですよ」とアクエリアが教える。

「へー…そう言えば金雄の体にも『かたい』ところがいろいろあったような…」と得心した様子の『ライム・スター』。

この後関節に興味を持ったプロティーナが、関節技の研究の為に『鶴組員ズ』を実験台にして彼らが迷惑する事になる…が、それはずっ

と後の話である。


三人のスライム娘達が話している間に、柾は手早く応急処置を終えて立ち上がると、今度は元『鶴組員ズ』が鶴元組長に駆け寄って

介抱する。

「柾さん」「ほい?」尻の汚れを払っている柾に商店街の顔役達が近寄ってなにやら話し掛ける。

柾が頷くと、彼らはなんとアクエリアの所に行って何やら話し始めた。

「?」 『ライム・スター』とプロティーナは訳がわからず、首をかしげて彼らの話し合いが終わるのを待つ。


たいした時間もかからず話し合いが終わり、町内会長が進み出て十文字を手招きした。

十文字がいぶかしみつつ近寄ると、彼のマイクを借りて喋りだした。

『あー、ただいまの協議について説明いたします。瓦割りの枚数はミス『プロティーナ』が勝っていますが、競技者が無事であるとは言い

難い為、『プロティーナ』ダウンにより瓦割りは『ライム・スター』の勝ちと決定いたしました!』

おおー!! この発表に見物人がどよめいた。


「えっ!ほんと!」 喜ぶ『ライム・スター』

「ぶー!!違うもん!!プロティーナの勝ちだもん!!陰謀だもん!!」 地面にひっくり返って手足をばたばたさせて抗議するプロティーナ

しかし、誰もプロティーナに賛同してくれない。

「プロティーナおやめなさい」とアクエリア「たとえ瓦割りをお前の勝ちとしても、この後別の競技を行ったらどうなります?全て不戦敗ですよ」

プロティーナは暴れるをやめると、地面に蹲ったまま帽子のつばを両手でぐいっと引っ張り、子供の仕草で不満の意を示す。

「むー…プロティーナが負けたわけじゃないもん!中身が悪かったんだもん!」

プロティーナの責任転嫁丸出しのセリフに元『鶴組員ズ』は…

「むりやり仕事を押し付けられて、(関節を)外されて…最後は責任を取らされるのか」「やっぱり請負ってひどい扱いだよなぁ」

己たちの立場を嘆く一同だった。


プロティーナはくいっと『ライム・スター』を見た。

「条件が同じならプロティーナの勝ちだもん…それ、ちょーだい」

「それ?…」『ライム・スター』は首をかしげ、そして気が付く。

「それって…金雄!?」

「姉は妹を大事にするものだもん」勝手なことを言いながら立ち上がって『ライム・スター』に近づくプロティーナ。

「嫌っ!『これ』はライムの!」『ライム・スター』は手を胸に当てて後ずさる。

「ライム姉ちゃんのものなら、プロティーナのものでもあるもん!」

「嫌ーっ!」とうとう『ライム・スター』が逃げ出した。

「待つもん!」 その後を帽子を飛ばしながらプロティーナが追いかける。

二人はしばらくその場をぐるぐる回っていたが、やがて『ライム・スター』通りの向こうに一直線に逃げ出した。

それを追うプロティーナ。 二人はあっという間に見えなくなった。


「…はっ!」呆然と妹達の追いかけっこを見ていたアクエリアが我に返った。「大変!これ皆さん、すぐに後を追うのです!」

「えー…すみません。うちら請負契約なもので…へえ上司から指示を受けないといけない事になっていまして」へこへこと英一郎。(冗談

じゃないぞ、次は俺かよ)

理屈を捏ねているが、本当のところはプロティーナの『犠牲者』になるのが嫌なだけなのだ。

「えぇ?…では『上司』さん…ぁぁ」顔を覆うアクエリア、鶴元組長はまだ悶絶したままだ。

「仕方ありませんね…皆さん、上司の人を職場に運んで介抱してください」

「それなら…まぁ仕事の指示にはならないかな?」と英一郎が同意を求めると、皆が頷く。

『鶴組員ズ』は即席の担架を作って鶴元組長を担ぎ上げると、アクエリアと共に去って行った。

「今日の催しは…終わりかな?」誰かがそう言うと、皆は三々五々と散っていった。

そして町内会長からマイクを返してもらった十文字は『ライム・スター』の後を追う。


「待つもん!中の人!待つもん!」とたとたとたとたっ、と走りながらプロティーナ。

「待てない!」逃げる『ライム・スター』の足はそれほど早くは無いが、コンパスの差が大きいので追いつかれる心配はなさそうだ。

「むー!!!」プロティーナは追いつけそうも無いと見ると、 ぽんっ と空中に飛び上がった。

そのまま空中で球形に変わりながら服と靴を脱ぎ捨てる。

プロッ! プロプロプロプロプロプロプロッ!!(待ってぇ!待って待って中の人…お兄ちゃんぁぁぁぁん!!)

ピンクの玉に変わったプロティーナがすごい勢いで転がってくる。

「きゃっー!!」迫ってくるプロティーナの迫力に『ライム・スター』が思わず悲鳴をあげ、ライムが自分の中の金雄に呼びかける。

”大変よ!妖怪『関節外し幼筋肉スライム』が追っかけてくるわよ!”(センスのかけらもないネーミング)

’はえっ?…ああ…こりゃいかんなぁ…’ ずれた反応が返ってくる。

”しっかりしてぇ!捕まったら全身脱臼よ!!”

’それは…大変…大変だぁぁ!’ 危機感が高まり、金雄の意識は急速に覚醒に向かっていく。その結果…


ポン! 軽快な音と共に『ライム・スター』がライムと金雄に分離した。

「ありゃ?」 ミミッ!(しまったぁ!)

前回と違って一気に分離したのは走っていたためであろうか。 思わぬ結果に立ち止まってしまう二人。

プローッ♪プロッ♪ (お兄ちゃん♪捕まえたぁ♪)

金雄の背中に飛びつくプロティーナ。 慌てるライム。

シュルシュルシュル… ピンクの固まりから4本の触手上のものが伸びて、金雄の手足に絡みついた。 そして金雄の…を狙う。

「のわわわっ」慌てて振り払おうとする金雄。

ミミミッ!!(させない!!) 金雄の…に張り付いてガードするライム。

プロッ!プロロロロッ!(むっ!ならこうだもん!) ライムに『洗脳』を邪魔されているので、金雄の手足をむりやり動かそうとするプロティ

ーナ。


プロッ!プロッ!ププププッ!(えい!やぁ!てゃぁぁぁ!)

ふんぬ! やっ! とっ! プロティーナの力に対抗し、ヨガと太極拳とラジオ体操を足した様な動きで踊る金雄。

プッ!プッ!プッ!…ピッ?(やっ!やっ!やっ!…いっ?)

急にプロティーナの力が抜け、地面に落ちた。

「おおっ?どうしたんだ?」解放された金雄が振り返ると、ピンク色の塊となったプロティーナが地面の上で痙攣している。

ポポポポポポポッ!ピピピピピッッ! さっきまでとは声の調子が違う…しかし金雄にはプロティーナが何を言っているか判らない。

「ライム?この子はどうしたんだ?」

ミミッ…ミミミミミミッ…

「え?…足がつった…」 金雄は目を丸くしてプロティーナを観察する。  ピクピク蠢くピンク色の塊には5つのこぶがあり人型に見えなく

も無いが…

「えーと…どれが足なんだろう…」

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正解:ファンタスティック・フォー

(1)寝具店『ザ・シング』   → ザ・シング

(2)電気店「火の玉」     → ヒューマン・トーチ

(3)『東名建材』のお数さん → インヴィジブル・ウーマン「東名→透明」「数→すう→スー」

(4)ストレッチの柾      → ミスター・ファンタスティック(ザ・シングが彼を呼ぶときの愛称「ストレッチョ」)

鶴元組長曰く「わかるか!」

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