ライム物語

第三話 日曜日にはお買い物(4)


アトラクションのナレーター…もとい、超能力者の十文字は立て板に水のごとく『ライム』の機能をまくし立てる。

『ライムは金雄を包み込み、彼の衣服の繊維に巻きついて一種のバイオ・パワードスーツとなった。そして金雄の意識を

半覚醒状態にし、その体を制御下に置いている!アクエリアが骨格標本を骨組みにして人形(ひとがた)を作っているの

と同様に、ライムは金雄を骨組みとして等身大のボディを作り出したのだぁぁ!!』

「…なに?…あの中に巣他君が?…とんでもない事が起きているのではないか?」野次馬の中に混じっている緑川

教授が険しい顔で呟いたが、十文字は教授の存在に気がつかない。

『骨組みに金雄を使用することで、ライムはライム自身と金雄の二人分の力を使うことができるのだ!』

”おおーっ” 十文字の迫力に押され、訳もわからず感心する見物人達。

「質問があるのじゃが」

『はいっ!そこの…』質問者が誰だか認識したとたんトーンダウンする十文字「緑川教授…」

「あの緑色の女の子は本当にフィギュアなのかな?」ずいと顔を突き出す。

「ええ、まぁ…」十文字は声をひそめ、冷や汗を流す「あれは『マジステール大学祭』のアトラクション用に考えている

SFXで…」

「ほぅ?」わざとらしく驚いてみせる教授「それは凄い、大手の映画会社なみじゃのう…しかし、あの娘なかなか『ないす・

ばでぃ』じゃが、須他君が中にいるにしては体が細いし足も長くなっておらんか?」

言われてみれば、ライムが金雄を包んでいるのだから、どう考えても金雄より一回り大きくなるはずだ。 しかし今の

『ライム』は背こそ金雄より少し高いものの、腰周りや手足は明らかに金雄より細い。

「あ…」十文字は、ハンカチを出して顔を拭う「それはその…企業秘密と言うやつで…はっはっはっ」

ふむ… 緑川教授は十文字をじろりと睨み、セルフレームの眼鏡を持ち上げて『ライム』をじっくりと観察する。


「ライム…」アクエリアは呆然と呟き、彼女の支配下にある5人の男達も呆然と立ち尽くしている、倒れている2人を除いて。

「あいててて…誰だ!わしを蹴飛ばした奴は!」ドスのきいた濁声を上げて鶴元組長が立ち上がり、辺りを睨みまわす

「ん…てめえら何をぼけっとしてやがる!英!起きんか!」

鶴元組長に蹴飛ばされて英一郎が頭を振りつつ立ち上がる。

「あてて…み、水か襲ってくる!…れ?」英一郎の記憶はシャワー室で途切れていた。 目の前に鶴元組長の怖い顔が

ずいと迫ってくる。

「お、親分…何があったんですか?」

「馬鹿野郎!俺が知りたいわ!」そう言って、体のあちこちを痛そうにさする鶴元組長。「なんか蹴飛ばされ、踏んづけ

られたような気がするぞ。お前か!」

「ち、違います」英一郎は慌てた。「それより、俺達どこにいるんですか?」

2人は辺りを見渡し、ようやく自分たちが妙な格好で商店街の真ん中にいることに気がついた。

「げっ…」「むっ…手前ら、見世物じゃねぇぞ!…おいそこの変な格好の姉ちゃん」鶴元組長が自分の事を棚に上げて

言った「お前か?俺達に何かしたのは」

「えっ?なに?」『ライム』が鶴元組長を振り返り、英一郎が声を上げた。

「ああっ!こいつは昔俺達を警察に突き出した化け物そっくり…色が」(注:英一郎の記憶は事実と少し違っています

本当は何があったのかは『VS』をお読みください)

「なに?」鶴元組長の太い眉がぎゅっと寄せられる「そういうことか…また俺達をコケにしてくれたと、そういうことかぁ!」

鶴元組長は『ライム』を睨みつけ、ずいと一歩前に出た。「このアマ…何者だ!名を名乗れ!」

無礼な物言いに『ライム』がむっとする。

「貴方なんかに名乗る名前はありません!」澄んだ『ライム』の声が響いた。


「おお、『過去の因縁』に『親玉』が怒っていますぞ」

「凄い迫力ですな『ヒロイン』の名乗り上げは次回…いや次の話ですかな」


「抜かしたな、を生意気な小娘が。それ手前ら、やってしまえ!!」鶴元組長が命じると、唖然としていた5人が動き出した。

「え?だめ、ライムに乱暴してはいけません」自分が支配していたはずの人間達が勝手に動き出し慌てるアクエリア。

「ああっだめ!…どうしたらいいの」

パニックに陥ったアクエリアの支配が弱まり、怒りの鶴元組長の命令の強制力がそれを上回った。 結果5人は鶴元組長の

命令通り『ライム』襲い掛かる。


ヌラー!! 水中眼鏡、スイミングキャップ、海水パンツといういでたちの無表情な男達が、緑色の仮○ライダーもどきの

『ライム』に殴りかかる。

悲鳴を上げる観客、海水パンツのもっこりに注視する近所のおばさん達。

「怖くないもん」『ライム』が拳を握り締めた。「猛獣や巨大ロボットの方が怖かったもん」(猫とメイドロボットである)

唸る…というより突き出されただけの恵布六郎パンチを軽くよけ、『ライム』の拳がカウンターで恵布六郎の顎をとらえた。

ドスッ 鈍い音がして恵布六郎が1mほど飛ばされた。

「うそっ!?」

『ライムと金雄、二人の力が合わさって『ライム』の2人力…いや、1.5人力ぐらいある。 屈強な男とはいえ、魂が

抜けたチンピラのなど敵ではない!!』

十文字か解説している間に、5人は全員ノックアウトされてしまった。


「小娘…やるな」じりっと前に出る鶴元組長。 ちなみに英一郎はその背後から「がんばれー」とか「かっこいいよ親分」

とかヨイショしているだけである。

「…」『ライム』もさっきまでの有象無象とは違うと感じ拳を構えなおす、しかし。

ドドドッ 猪のように突っ込んでくる鶴元組長は『ライム』の拳をかいくぐり、そのお腹に拳を打ち込む。

ドーン 太鼓を叩いたような音があたりに響いた。

「なんだ!?」異様な手ごたえに驚いた鶴元組長は、『ライム』の攻撃をかわしつつながら次々と拳を打ち込んだ。

ドンドンドン、ドーン… 再び場違いに景気のいい音があたりに響く。

「くそっ」『ライム』に自分の攻撃が効いていない感じ、一度離れる鶴元組長。「どういうこった?」

『ライムは中の人間と自分の間に瞬間的に空気を入れ、エアバッグの原理でダメージを分散して自分と中の人間を守る。

これはライムが意識せずに行っているのだ』

十文字の『解説』を聞きつけた鶴元組長が尋ねた。

「ほう…中身にダメージが行くとどうなるんでぇ」

『それは半覚醒状態の金雄が覚醒すればライムが体を自由に使えなくなって…あばばまずい』そこまで言って慌てて

口を閉ざす。

「ふん、そうけぇ。ありがとよ」そう言うと、鶴元組長は再びライムに突っ込んで行き、平手で顔をはたこうとした。

『ライム』は手を上げて顔をガードし、がら空きになったお腹に鶴元組長の蹴りが食い込んだ。

ズムッ ごく浅く、金雄のお腹につま先が食い込む。 それで十分だった。

”うぐっ” 『ライム』にだけ金雄の声が聞こえ、同時に『ライム』の動きがおかしくなった。

苦悶するように両手で空を掴み、意味もなく注を睨み、体を折り曲げる。


「おお、ヒロインがピンチですぞ」

「いや、力を貯めているのでは」


真相は…

”ライム右、右、”

’みぎってどっち!’

”お箸を持つほう!”

’お箸てなに!’

金雄が覚醒した結果、外のライムと中の金雄の動きが合わなくなってしまい、ライムと金雄が息を合わせないと戦う

どころか歩くことすら出来なくなった。

『今、二人に最大のピンチが訪れた!!』十文字のナレーションが入る。

『お前のせいだろうが』一同が突っ込む。

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