ライム物語

第三話 日曜日にはお買い物(3)


さて時間は少し前、アクエリアが七人のむにゃむにゃを襲う直前に戻る。


--模型店『ピンク・サブマリン』--


「こんにちわ」

「いらっしゃい、何かお買い求めですか」

「えーと、この子…」金雄は一瞬黙り込み、無難な言い回しを捜す「…あーこの『モデル』に合う服を探しているんですが」

ミー♪(モデルだなんて♪)

「あぁ、なるほど。その(フィギュア)モデルにですね」

若い店長が金雄、ライムと共に店の奥に案内し、既製品のフィギュアからライムと同じサイズのものを選び始めた。

「あーいや…日常タイプの…制服よりは…」

ミーミー♪

「へー猫声付きですか…じゃあ猫耳も」

「いらんいらん」


一方で十文字は、店の奥が狭いので二人から離れ、他の売り場を見て回っていた。

「…あり、こっちはラジコンパーツ?…ロボットの部品!?」

二足、または四足歩行で簡単な自立行動可能なロボットが売り出されたのはかなり昔の事だが、いまでは部品の共通化が進んで大手の

模型店で見かけるまでになっていた。

「まぁ、『フィギュア』の一種にかもしれないけど…」首を捻って部品を眺めていた十文字の耳に聞き覚えのある声が飛び込んできた。

「あーそれそれ。等身大A−18高速モータの膝関節を5人前…そう、出力倍増しの品じゃよ」

嬉々として大きなダンボールを覗き込んでいるのは、白髪白衣の緑川教授だった。

「ふむ、持って帰るのは無理じゃな。大学に届けてくれんか…」顔を上げた教授は十文字に気がついた「お?君は確か」

「あー…十文字です。昨日お会いしました…あのそれは」

「うむ、メイドロンのパーツじゃ。これで運動性がより高まる」胸を張る緑川教授。

「はぁ…」


その時、金雄がライムを肩に乗せて戻ってきた。

ミー♪

「ん?やぁ、素敵じゃないか」

ライムが着ていたのは、白いワンピースに白いつば広の帽子だった。 ライムは金雄の肩の上で嬉しそうにくるくる回ってみせる。

「いゃぁ、フィギュアに着せる服だろう…修正してもらうのが大変で…教授!?」

「おお君か、昨日はすまんかった…それは昨日の?」

教授は眼鏡のつるに手を掛け、ずいと顔を突き出して来た。 思わず後ずさる金雄の肩で身をすくめるライム。

「む…むむむむむむむむむむっ」 唸りながらライムを観察する教授に金雄はまずいものを感じた。

「あー教授、僕らこれから用がありますんで」

「そうそう、じゃぁ失礼します」

ミッミッー

金雄達は慌ててその場を逃げした。


「ふぅ…危なかった」「いや全く」 ミーッ

和やかに会話しながら歩く三人。

ミミミッ?

「あ?いや用は特に無いけど…『マジステール通り』商店街に行こうかと」

「本屋にでもよるか」

ミー


ペタペタペタペタペタ…

「ライムか?変な音を立てているのは…違う?」

「おい、この音…さっきから後ろで…」

十文字と金雄は嫌な予感に襲われた。 歩みを止めずに、前方に見えてきたカーブミラーで背後を伺う。

彼らの背後、10mほどを置いて…海パン一丁の男達と車椅子の黒マントが付いて来ているのが見えた。

「げっ」「アクエリアさん!?」ミーッ…(お姉ちゃん…)

一瞬立ち止まる三人…すぐに再び歩き出す、早足で。

テッテッテッテッ…

ペタペタペタペタ…

「つ、ついて来る」

「うーむどうするつもりだろう」

ミミ…ミミッ(きっとライムを連れ戻しに着たのよ。あの男達はアクエリアお姉ちゃんが『洗脳』したんだと思う)

金雄はライムの考えどおりだろうと思った。しかしどう対応すべきか判断が付かない。

「逃げよう」十文字が提案する。

「追っかけてきたらどうする?俺は海パン一丁の男達に追い回されるのは嫌だぞ」

「後をつけられるのはいいのか?」

「歩いていればアクエリアさん達が俺達をつけているとは思わないはずだ、回りは」

言われて十文字は気がつく、辺りの人達は顔を背けながらこっそりと視線を海パン男達に注いでいる。 

「走り出せばこっちにも注目が集まるぞ」言いながら金雄は歩を緩めた「まいてしまうか、あるいはやり過ごして反対方向に逃げよう」

通り抜けできるスーパーでも有れば良かったのだが『マジステール通り』商店街にあるのは小さな個人商店ばかり。 やむを得ず金雄と

十文字は本屋の店先で立ち読みを始めた。

「尾行の基本どおりに行き過ぎてくれよ」真剣に願う二人に裸足の足音が迫ってくる。


「むむむむ…うむむむむ…」唸りながら緑川教授も『マジステール通り』商店街にやって来た。

二人をつけていた訳ではなく、ただマジステール大学に戻ろうとしていたのだ。

「あれがフィギュア…まるで生き物だが…いやあれは生きている!」大きな声で断言し、辺りの注目を集める教授、しかし当人はいたって

気にしない「しかし…いったい何なのだ…あれは…お?」

進行方向に人だかりがしてなにやら騒がしい。 教授は思考を中断し騒ぎの正体を確かめようと人ごみに割って入る。


「だっ…」「げっ…」

足音は二人のすぐ傍で途切れ、続いて両側に人の気配。

金雄と十文字は雑誌に伏せるようにしていた顔を挙げ、正面のショウウインドゥに映ったものに絶句する。

二人の両脇に海パン男達がずらりと並び、雑誌を両手で開いたまま視線は正面に向けている…水中眼鏡をかけた無表情な顔で。

やむを得ず振り返り、車椅子のアクエリアに声を掛ける。

「アクエリアさん…この人達は嫌がらせですか?」

「嫌がらせ?」きょとんとするアクエリア「は?…いやそうではありませんが…それより!よくぞ私の手の者と気がつきましたね。褒めて

あげましょう!」

「わからいでか」小声で金雄はつぶやいた「…ライムの事なら少し待ってください。まず僕がライムと話し合いますから…」

金雄の話をアクエリアは聞いていなかった。

「ばれたからには仕方ありません!それ、戦闘員の皆さん、ライムを連れ帰るのです!」

ヌラー!!

アクエリアの号令に従い、一斉に金雄の肩のライムに掴みかかる鶴元組長以下名七名。 しかし、鶴元組長がつまずいて倒れ、そこに

英一郎が重なった。 残りの者は二人をめちゃくちゃに踏みつけながら金雄とライムを追い回す。

ミーッ!(いやー!)

「乱暴にしてはいけません!やさしく捕まえなさい!」アクエリアが命じる。人数が多すぎて制御しきれないようだ。

多勢に無勢、金雄はすぐに進退窮まってライムを十文字に託す。「ライム!跳べ!」

金雄の手のひらから勢いよく跳んだライムは十文字に受け止められ、今度は十文字が追い掛け回される。

「パスパス!」フリーになった金雄が声を掛け、今度は十文字から金雄に跳ぶライム。 しかし金雄が受け止め損ね、金雄の頭に墜落する

ライム。

ベチャ! ぶつかった弾みで形が崩れ、金雄の頭を包み込むように広がってしまった。

「うわっ!?」 ミャー!!

思わぬ事態に、形を崩しながら金雄にしがみつこうとするライム。 しかし焦っている為か、ライムの体は金雄の体を流れ落ちるように

包み込んでしまう。

「ラ、ライム…」 しゃがみこんだ金雄がライムに包まれ、緑色の塊となってしまった。 

あまりのことに呆然とする一同。

と、ゆっくりと『金雄』が立ち上がる…がその姿は…

「え…これは…」

ブーツに皮のズボン、羽根車のついたバックル、筋肉を模した胸部(膨らみつき)とそこに下がるマフラー…

「体は…仮○ライダー(女性体形)だけど…でも顔は…」

バッタの顔を模したマスクがなく、素顔がむき出しになっている…ライムの顔が。

「ライムが大きくなった!?」これはアクエリア

言われて『ライム』はショウウィンドゥを見て自分の体を確認し驚く。

「えー!これなに?金雄は?私はどうなったの!?」

はっとする十文字。 マイクを取り出し叫ぶ。

『きたきたきたきたきた!ついにライムの秘められた力が発現したぁ!!』

そして群衆の中に居た町内会長を務める寝具店の親父が呟いた。「だれか人集めのアトラクションを企画したっけか?」

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