ライム物語

第二話 土曜日に追いかけられて(2)


「ライムッ!?」 『メイドロン二号』を追い掛けていた金雄はライムの声に振り返り、その背中に十文字がぶつかった。

「わたっ?急に立ち止まるなよ」

文句を言う十文字に構わず、踵を返して大教室に駆け戻っていく金雄。 十文字は金雄と他の連中を交互に見やり、

首を振って金雄に続く。


ソージッ!ソージッ!ソージッジッジッジッ!!

ミミミミミミッ! ミーッ! (いやっ!助けてえっ!)

転がって逃げるライムを一直線に追いかける『メイドロン一号』は、ついにライムを部屋の隅に追い詰めた。

一分の隙も無い構えで掃除器の吸い込み口を怯えるライムに向け…突き出す! 思わず目(?)をつぶるライム。

ゴスッ! 頭の上で鈍い音がし、目を開けると金雄の痛そうな顔が見えた。

ミミッ?(金雄?) 

「あててっ…」呻きながら金雄はライムを懐に抱え込む。

ニーチャン!ジャマヤガネッ! 『一号』は警告音声を発しながら、掃除機の先端で金雄をゴチゴチとどつきまわす。

「こら、止まれ!やめろ!」十文字が『一号』の背後から抱きつき、金雄から引き剥がした。

その隙に金雄はライムを抱えて『一号』の正面から逃げ出した。

ソージイッ! 「うわあっ!」 十文字が『一号』に振りほどかれて尻餅をつく。 『一号』は掃除機を構え直して、さっき

ライムを追い詰めた部屋の隅をセンシングする…がライムはもういない。

ソー…ビッピッピッ… 『一号』は電子音を発して首を傾げて辺りを見回す。 何か探しているように見える。

ヒピッ! 『一号』は、金雄と十文字に視線を据え、つかつかとそばによって来る。 思わず引く二人。

ミミッ!ミッ (いやーっ!こっち来るぅ) 金雄の背中にしがみ付き、彼の肩越しに様子を伺っていたライムが、慌てて

顔を引っ込める。

「掃除を中止!…止まらないぞ!?」 と金雄。

「教授の持っていたハンディ・ターミナルがないと駄目か」十文字か渋い顔をする「しかしなんだってライムちゃんを

追っかけるんだ?」

「ライムの色じゃないのか」

床にはまだ葉っぱが散らばっているのだが、『一号』は目もくれない。 どうやら、ライムを最優先目標として認識してし

まったらしい。

ピッ! 『一号』が金雄の背後に回る。 すかさずライムは金雄の背中から脇を通って腹側に移動する

ピピッ!? 今度は前に回る『一号』。 ならばとライムは反対側の脇の下から金雄の背中に回る。 

こうしてライムと『一号』は金雄を中心にして、数回ぐるぐると回りあった。

ピー… ピッ ソージ… ソージ… 諦めたのか目標消失と判断したのか、『一号』は掃除機を持ち直し、ライムの事など

忘れたように床の掃除を再開した。

『ふぅ…』 ミゥ… ほっと息を吐く金雄、十文字、ライム。

「そろそろ教授も戻ってくるんじゃないか?」

「そうだな…取りあえず教室の外に出よう」 そう言うと出口に向かおうとする金雄達…

ビー!! ビビビッ!! しかしその背後で、『一号』の警報音が響いた。

びくっとして振り向く金雄達。 

『一号』が金雄の背中を、そこにしがみ付いているライムを凝視し、目の位置で「!!」マークが点滅しているではないか。

「やばい!」 逃げ出す二人の前に、掃除機を引きずった『一号』が回り込み、掃除機を正眼に構える。

ニーチャン、セナカノ、ゴミ、オイテケ!!

ミグッ ミミミミミッミッ!!(むかっー ライムはごみじゃないもん!)

金雄と十文字は顔を見合わせた。

「どうする?」「仕方ない強行突破だ!二人で同時に!」 言い交わすと身構える二人。

ビッ! それを見た『一号』の目に「!!!!…」マークが凄い勢いで流れ、姿勢を正し直立不動になった。

「おっ…止まるか?」 希望的観測を持つ金雄。 しかし、少し甘かった。

シュッ… 『一号』はどこからか手ぬぐいを取り出すと、頭から被って顎の下で結ぷ。 次に背中からハタキを抜き取っ

て左手に構えた。

そして右手で掃除機を構えると、金雄達に向き直って一声。

オオソージー!!! そして猛然と突っ込んできた

「あわわわ!」「た、退却ぅー」 逃げ出す二人の後を『一号』が追い、物凄い勢いでハタキを振るって、金雄の背からライムを

払い落とそうとする。


「やれやれ、大変なことになるところじゃった…おおお!?」 ようやく教授と爺、学生達が戻って来て、『一号』に追い

かけられる金雄達を見て愕然とする。

「い、いかん。無差別大掃除モードに入っておる!」

「教授ーっ、早く止めてください!」金雄が息を切らしながら助けを求める。

「駄目じゃ!こうなったら辺り一帯を掃除しつくすまで止まらん!」教授の言葉に一同が驚く。

「と、止まらないって…なんでですか」

「いや、ほれ、大掃除は中途で邪魔が入ったり、懐かしいものを見つけたりして手が止まるじゃろう?だから掃除を

一心不乱に行うようにと…」

「そりゃ人間の場合でしょうが!あたたたっ」悲鳴を上げる金雄。 ライムを前に抱えなおし、『一号』のハタキ攻撃から

庇っているので頭をはたかれっ放しなのだ。

「うーむ、仕方が無い。 それ全員で取り押さえるんじゃ!」

教授の号令に従い、学生達が『一号』に飛び掛るのと同時に、金雄と一緒に逃げていた十文字が振り返って『一号』を

抱きとめる。

ヒ、ヒキョーモノ!! ひたすら掃除を続けようとする『一号』。 それを取り押さえようとする学生達。 その戦いは陽が

西に傾くまで続いた…


傷だらけになった金雄達がとぼとぼと帰っていく。

「ありゃ軍事用じゃないのか…」と十文字。

「そう言ったら教授が怒るぜ。あれは家庭用だって言い張ってたからな…」 むなしい戦いに疲れきった声で金雄が

応じる。

ミゥ… ミッ (まだ痛い?… 金雄…) 心配そうなライム。

肩の上に腰掛け、金雄の頭をあちこち撫でている。

「ああ大丈夫だよ…しかし…」言葉を切る金雄。 騒ぎが収まった後、教授が二人に謝ってくれたのだが…

”いやーすまんすまん…ところでその緑色の人形は?まるで生きているような…”

興味津々でライムを調べようとする教授を誤魔化し、なんとか教室を出てきたのだ。

「やっぱまずかったかな」「そうだな…」

今後の事を相談しながら帰っていく金雄達。 その後をついて来る一台の車椅子。

「ライム…あの人間達は?」 やっとライムを見つけたアクエリアだった。

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