ライム物語
第一話 金曜日に拾われて(1)
−居酒屋:じゃがたらいも2−
水神町のとある居酒屋。 そこで数人の大学生が短期留学から帰ってきた同級生の帰国祝いコンパを開いていた。
「では、十文字君の無事帰国を祝って!乾杯!」 「乾杯!」
最初の一杯を飲み干し。 その後、若さに任せ、酒、酒、酒、つまみっ、酒、酒、酒…
途中で十文字の留学報告が会ったようだが誰も聞いちゃいない。
お開き何なる頃には、皆へべれけになっていた。
店から出ると、殆ど本能だけで帰路に着く大学生達。
「おい十文字。寮まで送ってやるぞ…ヒック」「おお金雄か。ばか言うな俺がお前を送ってやるんだ…ヒック」
主役だったはずの十文字は、同じ寮の須他金雄と共に、互いの肩を押し合い引っ張りしながら歩いていく。
繁華街から裏通りに入り、近道しようと公園を抜けていく。
フギャァァ!! 二人の正面を凄まじい勢いで一匹の猫が横切った。
「おお三毛猫が横切るとは…こいつは春から縁起がいい…ヒック」と十文字。
「三毛だったか?おれにはピンク色に見えたぞ…ヒック」
「顔は三毛だったぞ…きっと着替えの途中で慌てて出てきたんだろう…ヒック」
「おお!なるほろ…おっ…また猫がいる」
二人は地面に横たわる毛玉を見つけ、立ち止まった。
金雄は地面に落ちた毛玉を摘み上げようとする。
しかし、毛玉はもちか何かのように、下に向かって伸びてしまうので、その下に手を入れて掬い上げた。
「小さいな…子猫だな…ヒック」と十文字。
しかし、実際に持っている金雄は不振そうに首を捻る。
「やけに柔らかいな?」「子猫だからだろう」
「目は何処だ?」 「子猫だからな、まだ空いていないんだろう」
「何処が頭だ?」 「子猫だからな、はっきりしていないんだろう」
「足が無いぞ?」 「子猫だからな、そのうち生えてくるだろう…」
「そうかぁ」さすがに首を捻る金雄。
「ほれ歌にあるだろう。やが〜て手が出る、足が出る〜」手を打って歌いだす十文字。
「おお、そうだったな」と納得する金雄。 どうにも始末に終えない酔っ払い達だった。
ミー 毛玉が小さく鳴いて震えた。
「おおいかん、寒いのか。 暖めてやろう」金雄は襟元を空けて、毛玉を中に入れた。
「おい、猫はノミがいるぞ」
「おおそうか、ではノミも暖めてやるか」金雄は気にする様子もない。
そして二人は毛玉を連れて公園を出る。
「もし」二人の背後から女の声がした。
振り向く二人…フード付きのマントを被った怪しい人物が車椅子に座っている。
「はい?」
「このくらいの」とマント姿は手袋をした手で夏みかん程の大きさを示す。「緑色でミーミー鳴く生き物を見かけなかった
でしょうか」
「はぁ…」酔いの回った頭で考え込む十文字。「ピンク色の猫なら見かけましたが…」
「そうですが」マント女はペコリと頭を下げ。二人の脇を抜けて行った。 ”ライムーッ…どこーっ”
「なんだったんだ…今のは」と十文字。 どうやら酔いが醒めて来たらしい。
「…ペットのクラゲでも捜しているのかな?」とこちらは酔いが残っているらしい金雄。
二人は肩をすくめ、家路に着いた。
ふぅ… 金雄は自室に帰ってくると、ポケットから包みを取り出す。 途中のコンビニで買った子猫用のミルクだ。
「ふむふむ…『スポイト容器の詰め替え用…このままでも授乳可』と…」説明書を見ながらスティック状容器の端を
切る。
胸元からぐったりしている毛玉を取り出し、口を捜す…見つからない。
「?…」首を捻りながら猫ミルクの端で毛玉をつんつんとつつくと、パクッと言う感じで、毛玉が猫ミルクを咥えた。
「んー…まあいいか」金雄が毛玉を摩ってやると、ちゅうちゅうとミルクを啜っている様である。
金雄はしばらく毛玉にミルクをやっていたが、段々眠くなってきた。
「ふむ…これなら明日は少し元気になるだろう…」
金雄は、毛玉がミルクを全部飲んでしまうと、再び襟元に毛玉を入れた。
そして電気を消すとそのままベッドに潜り込んだ。
部屋に金雄の寝息が響く頃、その胸元が柔らかく動き始めた。
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