ライム物語
プロローグ(2)
とぽとぽとぽ… 人気の絶えた夜の公園に微かに響く奇妙な音。
誰かがその音に気がついたとしても、その主の姿に気がついたかどうか。
とぽっ…とぽっ…
公園の散策路を歩くとも這うともつかない動作でやって来たのは、緑色の奇妙な物体だった。
近いものをあげるなら、ナマコかアメフラシ… しかし良く見れば、短い突起のような足と手とも見えるものがあり、
その仕草は人を真似ているようにも見える。
それがマダムブラックの4番目の娘、ライムだった。
とぽっ… ライムは立ち止まると所在無げな様子で辺りを見回した。 誰も居ない。
突然辺りに影が差し、ライムは天を仰いだ。 月を浮浪雲が遮ろうとしている。
ふわふわとした黒い影に、ライムはマダム・ブラックを連想した。
ミーッ… 寂しげな声をを雲に投げかけるライム。
しかし、彼女はプルプルと体を震わせて、手の位置にある突起で自分をペシペシ叩いた。
弱気になった自分に活を入れているようにも見える動作だ。
フーッ! ライムの背後で獣の声がした。
はっと振り返るライム(どっちが前だか判らないが)
薄れた月光の中で爛々と輝く二つの瞳、鋭い牙が映えた赤い口がライムを威嚇する。
雲が切れ、月の光が獣の姿を露にした。 それは…三毛猫だった。
ミッ!? たじろぐライムに三毛猫はゆっくり歩み寄る。
じりっ、じりっとと後ずさるライムの頭(?)の高さと三毛猫の頭の高さはほぼ同じ、ライムは猫より小さかったのだ。
ミッミッミッミーッ! 恐怖に硬直するライム。 無理も無い、人間に例えればいきなり背後に虎が現われたようなものだ。
フッフッフッフーッ! 猫は、目の前の奇怪な生き物が、自分に怯えていることを感じ、ニタリと笑う。
フルフル震えていたライムは背後(猫と反対側)の茂みに飛び込んだ。
フーッ! 唸り声を上げて猫が続く。
茂みが大きくゆれ、凄まじい猫の叫びとライムの悲鳴が夜の公園に響き渡る。 が、その声を聞くものは他にいない。
そして唐突に茂みが静かになった。
ガサリ 茂みが揺れて…目を光らせた三毛猫が悲鳴を上げて飛び出してきた。 猫はそのまま何処かに走り去っていった。
続いてライムが出てきた…三毛猫の毛をまとった毛玉のような姿となって。
ミッ…ミーッッッ! ライムは勝利の雄たけびを上げ…その場にパタリと倒れた。
家を出てから何も食べていなかかった所に激しい戦闘…ライムは空腹と疲労で動けなくなっていた。
丸まった毛玉のようなスライム少女を、月が静かに照らす。
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