王子とスーチャン

Part4-07


 ドタバタと音を立てて逃げ回るルウ王子、黒姫、スーチャン、ミスティ。 それを追いかけるオニヒトデの魔女。 もっとも、

オニヒトデの魔女はヒトデにしては早いが、二本足のミスティ、スーチャンよりは大分遅い。 二人と三匹の間がやや開く。

 「スーチャン、姫と王子が追いつかれそうよ」

 エミは宙に浮いたまま、スーチャンに声をかける。 スーチャンが振り向くと、手……ではなくハサミを繋いで逃げる二匹に、

オニヒトデの魔手……ではなく魔管足が迫りつつあった。

 ’アブナイ!’

 スーチャンは踵を返す二匹に駆け寄り、両肩に担ぎ上げた。 そこにオニヒトデの魔女が突っ込んでくる。

 ”おのれらぁ!!”

 棘だらけの腕を避けたスーチャンは、バランスを崩してオニヒトデの魔女の上に倒れこんだ。

 『スーチャン!?』

 ミスティとエミの悲鳴が上がる。

 
 ……

 オニヒトデの魔女に倒れこんだスーチャンは、無数の棘で串刺しになっていた。 しかし、黒姫とルウ王子だけは守ろうかと

言う様に、二匹を高々と差し上げている。 予想外だったのか、オニヒトデの魔女も動きを止めてしまっている。

 ”……”

 ’……ウー……ヤラレタ……’

 「スーチャン!? だいじょーぶ!?」

 「動かないで……黒姫、ルウ王子、こちらに」

 エミは羽を器用に動かしてスーチャンの真上に静止し、黒姫とルウ王子を抱きかかえ、針山の様なオニヒトデの魔女から離れる。

 続いてミスティが駆け寄ると、無数の棘に貫かれた緑色の少女の手を握り、そっと起き上がらせた。

 「あああ……大丈夫? どこをやられたの」

 ’ヤラレタ……アッチコッチ……’

 「ちょっと見せて……可愛そうに……えーと……あれ?」

 少し離れたところにエミが降り立ち、咳ばらいをした。

 「ミスティ。 スーチャンが木か何かに化けている時ならともかく、粘体で人型の時に怪我をするものなの?」

 ミスティとスーチャンはエミを見て、次に互いを見る。

 「そーいやそーだった……はっはっはっ」

 ’アーハッハッハッ……’

 照れ笑いをする二人を見ながら、黒姫、ルウ王子、エミとオニヒトデの魔女まで安堵のため息を漏らす。

 ”人騒がせ、いや、ヒトデ騒がせな奴らめ……おおぅ!?”

 笑っていたスーチャンは、下から持ってきたモップをブンブンと振り回したかと思うと、中段に構え、オニヒトデの魔女に対峙した。

 ’棘ガ怖クナケレバコッチノモノ! エイエイエイ!’

 モップでオニヒトデの魔女を叩きまくるスーチャンに、今度はオニヒトデの魔女が逃げ出す羽目になった。

 ”こ、これやめよ! アイタタタタ!”

 ’エイエイエイエイ!!’

 攻守が入れ替わり、ドタバタと追走劇が再開される。

 「いけいけスーチャン!!」

 ’頑張れ、頑張れ!!’

 ミスティとルウ王子が能天気な声でスーチャンに声援を送る。

 「あらあらあら、これはこれは」

 エミも呆れたような声をだし、スーチャンとオニヒトデの魔女のドタバタを見守っている。 その時エミは、金属が軋むような音を

耳にした。 はっとして辺りを見回すと、壁や天井から水が滴り落ち、しかも勢いを増しつつある。

 「いけない、壁が!! 逃げないと施設が崩れる!」

 エミの声に、全員が凍りついた。

 「た、退避!!」

 全員が階段に殺到する。

 「う、上!?」

 ”上はふさがっておる!”

 「じゃあ下よ、Uボートに戻って!」

 一同は、敵味方の区別なく階下に降り、Uボートを目指した。 めり込んだUボートの発射管の所で、ヤシガニ・シークレット

サービスがハサミでおいでおいでをしている。

 ”姫、お早く”

 ”おのれ等! 主より先に逃げてどうする!”

 文句を言いう黒姫、ルウ王子をスーチャンとミスティが抱え、発射管に押し込む。 続いてミスティ、スーチャンが飛び込み、

エミが続くこうとする……が足を引っ張られた。

 ”こ、これ。 我も助けてたもれ” オニヒトデの魔女が、エミの足にしがみついている。

 「あんたヒトデでしょう。 泳いで逃げなさい!」

 ”中で大きくなりすぎて、外に出られないじゃ! 城が崩れれば、我は生き埋めじゃ!”

 エミは困り半分,呆れ半分の表情でオニヒトデの魔女とUボートの発射管を見比べる。 Uボートの発射管は人ひとりがやっとの

大きさで、巨大なオニヒトデの魔女の体は通りそうもない。

 「中に入るの無理ね。 ハッチが閉じたら、ここにへばり付きなさい。 そのままUボートと一緒に外に出るのよ」

 ”ここに?” 

 オニヒトデの魔女は、脚でUボートの舳先を示す。 エミは頷いてみせると、自分は発射管に飛び込む。

 「……またつかえた」

 エミは、発射管からはみ出した足をバタバタさせ、無理やりもぐりこんだ。 オニヒトデの魔女は、後を追って発射管に入れ

ないか試してみたが、やはりつかえて入れない。 しぶしぶUボートの舳先にへばり付く。


 「よいしょっと」

 ’デター!!’

 発射管から出てきたエミを、スーチャンが拍手で迎える。 エミは、スーチャンとルウ王子、黒姫、ヤドカリ、ヤシガニ達が揃っ

ていることを確かめると、発令所に向かった。

 
 「……おお、やっと話のできる奴が来たか」

 発令所では鶴船長が、乗『組員ズ』に指示を飛ばしていた。 エミたちが外に出てている間に正気に戻ってしまったらしい。

 「一体どうなってんでぇ。 あの化け物はどこに行った?」

 どうやら、ナンナンダな襲われた後の記憶が残っていないらしい。

 「覚えないの!? あの後、化け物から逃げ出そうとして、操船を間違えて水中展望台に突っ込んだのよ」 と口から出まか

せで誤魔化す。

 「何だと!?」

 「展望台の浸水がひどいわ、離れた方がいいわ」

 「うむ、全速後進! ゴー・スターン!!」

 「後進いっぱい、ゴー・スターン」

 ゴンゴンゴンゴン……

 Uボートの船体が力強く震え、後退を始めた。 同時に、展望台に食い込んだ舳先が抜け始め、海水が流れ込む。

 「舳先を振られるなよ、まっすぐ下がれ」

 後退するUボートの前方から、金属粋な破壊音が響いて来る。 それは、オニヒトデの魔女の城が崩壊した証だった。

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