王子とスーチャン
Part4-05
’助けて、いゃー!’
”くくく逃しはせんぞ”
脱皮して、ソフトシェル状態のルウ王子に、オオオニヒトデの魔女が迫る、まさにその時『オニヒトデの魔女の根城』にUボートが
突っ込んできた。 激しい金属音と大きな揺れに魔女が驚く。
”な、何事じゃ? 乱波共、参れ!”
天井から、ボトボトとクモヒトデ忍者が落ちてくる。
”何事ぞ?”
’は、人間どもの船が衝突したようで、下の広間(元展望室)にめり込んでおります’
”うぬ、迷惑な奴らじゃ。 様子を見てまいれ”
クモヒトデ忍者は、長い触手を器用に動かし、群れを成して出て行った。
’うわぉ’
彼らが『広間』と呼んでいる展望室、その鉄の壁を鋼鉄の錐で突き破ったUボートは、舳先の半ばまでめり込んでいた。 クモ
ヒトデ忍者達はUボートの近くに集まると、破損の状態を調べ始めた。 その時、舳先の下の方にあった四角い扉(水雷発射管
扉)が内側に開いた。
’お?……おわっ!?’
ハッチから黒い塊が転がり出てきたのは、ヤシガニの黒姫だった。 手近にいたクモヒトデを鋏でつかみ、名乗りを上げる。
”やぁやぁ『ヒトデ一家』の者ども、よっく聞け! 己らが、我らが縁を結びしヤドカリ一族のルウ王子をかどわかしたこと、既に
明白である。 直ちに返せばよし、返さぬとあらば、ヤシの樹液で磨き上げし我が鋏の錆にしてくれようぞ”
’わわっ? ヤシガニの姫が殴りこんできたのか!’
’出会え!出会え!!’
何処にいたのかクモヒトデや、オニヒトデは言うに及ばず、イトマキヒトデやアカヒトデ等種々のヒトデがぞろぞろ、いやウジャ
ウジャと出てきた。
”おのれヒトデ共め!! ヤシガニ・シークレットサービス!! 出会え!!”
黒姫が命じると、何処からともなく、やたらに明るい調子のBGMが流れ始めた。
パーパパ〜♪ パーパパ〜♪ パパパパ、パパパパ〜♪
続いてハッチの中から、体を丸めたヤシガニ達がコロコロと転がり出てくる。
ヤシッ、ガニッ、ヤシッ、ガニッ、
珍妙な号令をかけながら、一列に行進してくるヤシガニ達。
’かかれ!’
”突撃!!”
ヤシガニとヒトデの壮絶な死闘が開始された。
’デター♪’
「よいしょっと♪」
ヤシガニ達の出てきた隣の水雷発射管扉が開き、スーチャン、ミスティの順で飛び出して来る。
’ウッワー’
「ありゃ、キモッ♪」
広間はヒトデで埋め尽くされており、その中でヤシガニ達が奮闘していた。 ヤシガニの方が圧倒的に強いのだが、ヒトデの
数が多すぎて苦戦している。 エミと相談しようとミスティが振り返ったが、エミが出てこない。
「あれ? エーミちゃーん」
ミスティが呼ぶと、発射管の中からエミの声がした。
『……つかえた。 引っ張って』
「プッ。 やーね、太ったのかなぁ〜♪ どこがつかえたのぉ〜♪」 わざとらしく笑いながら、ミスティが尋ねた。
『胸』
端的なエミの回答に、ミスティは不機嫌な顔になると手を発射管の中に突っ込んでエミの手を掴んだ。
「うりゃぁ!!」
思いっきり引っ張ると、無機質な金属の筒からグラマラスな女体をレオタードに押し込めたエミが飛び出してきた。 勢い余って、
そのまま床に転がる。
「痛いじゃないの!」
「知らないもーん」
「全く……うっわー!」
立ち上がったエミは、ヒトデの群れを見て声を上げた。
「こりゃ凄いというか……うう気色悪い」
ヤシガニ達の手助けに出てきたものの、ヒトデの群れを見てやる気が失せてしまった。 このヒトデの群れをどうしたものかと
考えをめぐらす。
「ねぇねぇ、ヤドカリさん達の時みたいにイメージを出して姿を変えれば?」
ハウスの中で、ヤドカリ家老が『カニレーザ』に見え、ルウ王子が美少年に見えた様に、エミがイメージを作って投影しろと言う
ことらしい。
「見た目だけでも何とかしようよ。 これ、気色悪すぎ〜」
’キショッ! キモッ!’
スーチャンも同意見の様だ。 エミは考え込む。
「あれ? あれは最初にヤドカリ家老さんがイメージを送ってくれたから……」
「でも家老さんのイメージは、もともとエミちゃんの記憶にあった物なんでしょ? なら、エミちゃんの頭の中のイメージを投影
していたんじゃない」
エミは、ミスティの言い分に理があると思った。
「判った、やってみる……」
エミは目の前の光景を、頭の中で別なイメージに変換する。 そして、ハウスの時の感覚を思い出し、息を整えてイメージを
周りに『投影』しようとした。 すると、ヒトデたちが何やら別の物に見え始めた。
「おお、成功したぁ♪」
’ヤッタ、ヤッタ……アリッ?’
ヒトデの中で奮闘してるヤシガニ達が、黒服のシークレットサービスと、袴鉢巻に薙刀を手にした黒姫に変わる。 そして、
ヒトデたちは……何やら恐ろしげなクリーチャに変わり始めたではないか。
「げげっ!」
「エーミちゃん!?」
慌ててイメージを修正しようとするが、目の前での恐ろしげな姿がフィードバックされ、クリーチャーはどんどん恐ろしげになって
いく。
ギェェェェ!!
クリーチャが吠えた。
”おのれ! 中にも怪物を飼っていたか! 恐るべき魔女”
「いえ……これは……」
”この手で成敗してくれる!”
薙刀を振りかざし、クリーチャに立ち向かう黒姫。 どうやら、クリーチャの姿に闘争心がかきたてられたらしい。
「ありゃ? あの子はかえってやる気が出たの?」
「いいんじゃない、どーせ見た目が変わっただけだし♪ 結果オーライ♪」
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