王子とスーチャン

Part4-04


 「発射ぁ!」

 Uボートの艦首に装備された4門の水雷発射管から、無数の気泡に包まれた丸太(スライムタンズ)が次々と打ち出された。

 ゴゴゴゴーン!!

 「あれ? 何の音、エーミちゃーん?」

 返答がない。 ミスティが振り返ると、エミが頭を押さえて蹲っている。

 「どったの?」

 脳天気をハイビジョン3Dで描いたようなミスティの質問に、エミがものすごい形相で立ち上がった。

 「引き付けすぎだぁ!!」


 Uボートがスライムタンズを打ち出したとき、ナンナンダーとの距離は僅か1m。 狙いもつけずに飛び出したスライムタンズは、

全員が丸太に化けたままの姿でナンナンダにーに頭突きをかます結果となった。

 アタタタタ!

 本物の水雷と違い推進器を持たないスライムタンズは、発射管の射出装置の勢いだけで海中に飛び出したが、その勢いが

十分残っているうちにナンナンダンーにぶつかった為、ナンナンダーは大ダメージを受けた、そしてスライムタンズも。

  
 「痛たたたっ……」

 エミは頭を押さえる。 彼女の使い魔であるスライムタンズがダメージを受けたからと言って、彼女が同じダメージを受ける

わけではない、はずなのだが全員が一度に同じダメージを受けたためか、エミにもその痛みが伝わってきたらしい。

 「奴は!? スライムタンズはどうなったの?」

 「海面に向かって移動中、水平方向には移動していないようです……」 抑揚のない声で、レシーバを付けた美囲が応えた。 

「他にも幾つか、同じように海面に向かって移動中」

 「みんな失神しているみたいね……」 エミは頭を押さえて言った。

 「ありゃー……まぁ目的は達したと」 平然と呟くミスティに、エミは怒りを込めた視線を投げつける。

 「では、敵の本拠に殴り込みだぁ!」

 『おー』

 
 Uボートは大きく螺旋を描きながら『オニヒトデの魔女の根城』の深度まで潜っていく。

 「深度30、目標深度です」

 「速度落として、現在深度を維持。 舵そのまま、方位90ので回ったら舵を戻して直進」

 エミはUボートが『オニヒトデの魔女の根城』に向かうように指示を出す。

 「エーミちゃーん。 船長はア・タ・シ」

 「あー判った、判った。 ほら次の指示だして」

 「こほん……次、何するの?」

 エミは、つんのめりそうになるのを、手すりを握りしめて耐えた。

 「『オニヒトデの魔女の根城』に突入する準備をするのよ!」

 「あー、そかそか。 よーし、艦首ドリル作動準備!」

 「回転衝角! と、どうやって動かすの?」

 エミの質問に、鶴元船長が振り返り、焦点の合わない目で二人を見ながら応えた。

 「回転衝角を動かすには、起動用の蓄電器に電荷を貯め、高電圧でスタータを動かす」

 「手間かかるのね」

 「回りだせば強力なトルクが出るモータを使っているが、その分動き出す時にパワーが必要なんだ」

 「んじゃ、とにかく充電開始!」

 ミスティの命令、と言うより掛け声で、充電が開始された。

 「蓄電器へ高圧充電注……充電90%、起動可能。 起動します」

 「まて!」 ミスティは手を上げると、命令を修正する。 「起動には確実を期す必要がある。 充電120%で起動せよ!」

 「こら、ちょっと待ちなさい、定格値というのが……」

 エミが、命令を再修正しようとするのを無視し、ミスティは充電を続けさせる。

 「充電100、105、110、115……120%」

 「ドリル起動!!」

 鈍い音がして、船内が真っ暗になる。

 「ブレーカーが落ちました」

 「だから定格を守れっていてるのよ!」

 「ごめんなさーい」


 ドタバタの後、ブレーカが上げられて回転衝角が回りだした。

 グングングングン……

 エンジン音とは別に、力強い振動音が船首から伝わってくる。

 「そのまま前進! 敵の根城に乗りこむ」

 Uボートは『オニヒトデの魔女の根城』めがけて直進し、鋼鉄の錐を鉄板につき立てた。 鉄が擦れ合うすさまじい騒音が船内

を満たした。

 「やかましい!」

 「船首が、海底施設の壁に食い込んでる!」

 「押し切れー!」

 破壊音が一際大きくなった、と思うと急に静かになった。

 「何?」

 「衝角が壁を貫通して、船首がめり込んだのよ。 これ以上の前進は無理だけど……どうする?」

 「中に突入!」

 「どーやって!」

 「エミちゃん! 参謀!」

 びしっとエミを指差すミスティに、エミは顔をひきつらせた。

 「無茶苦茶言わないで……鶴副長さん。 この状態で外に出られる?」

 「水中ではハッチは開かない」

 「船首は『根城にめり込んでいるはず、どっか点検用のハッチとかから出られない? 

 鶴元船長はしばし黙った後、伝声管に話しかけた。

 「発射管室。 状況を知らせよ」

 『こちら発射管室。 浸水はない』 ブロンディの声がした。

 「発射管横のガラス管を確認。 水は見えるか?」

 『水が溜まって……いや、水がなくなった』

 「では、船首の先には水はない……女なら発射管を通って出られるだろう」

 「よーし! では挺身隊、発射管室に集合」


 5分後、ミスティ、エミは発射管室でスーチャン、黒姫達と顔を合わせていた。 エミが近くに来たので、ヤシガニ、ヤドカリ達の

イメージが現れ、発射管室がいっぱいになっている。

 ”どうするのですか?”

 「ここを通って『オニヒトデの魔女の根城』に入るの。 この先は敵地よ」

 ”つまり、ルウ王子はそこにいると”

 エミが頷いた。

 ”ではやるべきことは一つ。 皆の者、参るぞ!”

 ヤシガニの黒姫は、勇ましい袴姿のイメージのまま、発射管に飛び込んだ。 ヤシガニ・シークレットサービスの黒服たちが

慌てて後に続く。

 ’すーちゃん、突撃!’

 緑色の少女も、勢いよく発射管に飛び込み、ミスティ、エミがそれに続く。

 ”では、我らも”

 カニレーザのイメージを出したヤドカリ家老が、発射管に入ろうとした。

 ゴッツン

 鈍い音がして、体が入らない。

 ”やや、これはしまった。 殻がつかえる”

 人間用のハッチでもやっと通れる大きな殻だ、せまい発射管を通れるわけがない。

 ”むむむ……仕方がない。 皆様、殿下を宜しく”

 『あきらめるのが早すぎるわよ!』

 発射管の中からエミの声が響いてきた。

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