王子とスーチャン
Part4-03
精気を吸い尽くされ、干物同然になった乗『組員ズ』+鶴船長を横一列に並べ、ミスティは自分の目を指差した。
「はい皆さん、目玉がぐ〜る、ぐ〜る・・脳みそく〜る、く〜る・・〜♪」
意識朦朧、お花畑が見えていた鶴船長達は、ミスティの『ぐるぐるアイ』の力でたちまち操り人形になってしまう。
「よーし、いいか野郎ども!! これから魔女の城に殴り込みだぁ!!」
ウース……
張り切るミスティだが、精気を抜かれた上にミスティの術で操り人形にされた船員達は、よく言ってミイラかゾンビと言うありさま
だった。 が、ミスティは気にする風もない。
「いいかぁ! ミスティが船長、鶴おやじが副長」
「うーす……」 鶴船長、もとい鶴副長が陰気に頷く。
「んでエミちゃんが参謀……あれ?」
エミの姿が見えない。 きょろきょろと視線を動かして、ミスティはエミの姿を探し、ふと上を向いた。
「あ、いた」
エミは司令塔に通じる梯子を上がり、ハッチを開けて逃げ出そうとしていた。 ミスティはにこにこ笑いながら、エミの足を捕まえた。
「エーミちゃーん。 先に帰るなんてつれないじゃない♪ 一緒に海の底に行こうよ♪」
ミスティは、水死人の悪霊みたいな言葉を並べつつ、エミを引きずりおろした。
「離せ! 悪魔が船長でゾンビが乗組員の潜水艦なんて、そんな不吉の詰め合わせに同乗する気はない!」
「まぁまぁ、こうなったら一蓮托生、呉越同舟……」
”そうですわ、貴女がいなければどうにもなりません”
いつの間にか、ヤシガニ、ヤドカリ達も発令所に集まって、エミを連れ戻す。 ヤシガニ達にしてみれば、ゾンビもどきと悪魔の
動かす潜水艦で、唯一頼りにできそうなのがエミなのだから、其れに逃げられては一大事だ。
「わーった、判ったわよ……」
エミはしぶしぶ残ることを了承する。
「よーし、喘息前進!」
ゼー……ゼー……
「違ーう! 全速前進」
「ぜんそーく、前進、ヨウソロー」
ゴゴゴゴ……ゴンゴンゴンゴン……
シュッシュッシュッシュッシュッ……
ディーゼルエンジンが規則正しい振動を刻み、スクリューが水を砕く。 ミスティの指揮の元、Uボートは勇ましく進み始めた。
嗚呼、ヤドカリ王子の運命や如何に!
「よーし、沈めー」
ブクブクブクブク……
「ちゃうちゃう、潜舵出せ、動力潜航開始」
「潜舵出しまーす。 下げかーじ二十、潜航開始。 動力をモータに切り替え」
舳先の両側に小ぶりな潜舵が突出し、船の推進力を下向きの力に変える。 Uボートは舳先から突っ込む様にして、海中に
姿を消した。
ウンウンウンウンウン……
シュッシュッシュッシュッシュッ……
Uボートの中は、スクリュー音が反響して結構やかましい。 負けじとミスティが声を張り上げる。
「前進、全速、それいけ、やれいけ♪」
「前しーん。 ヨウソロ」
「トリム15、水深4……6……8……」
「それいけ、やれいけ♪」
囃し立てるミスティをエミが押しのけた。
「待って、速度を落として」
「なーに言ってるのエミちゃん。 急がないとヤドカリさんが危ないじゃない♪」
「動力潜航なのよ! 速度を上げすぎると……」
エミが言い終わる前に、鈍い衝撃があってUボートが突き上げられ、全員が床に転がった。
「わー、ナンナンダー!?」
「違う! 海底にぶつかったのよ!」
Uボートは崖のすぐそばを進んでいる。 この辺りは20mも潜れば海底に到達する。
「なーんだ、かまわないからガンガン進んで!」
「やめな……」
ドーン!
再び鈍い音がして、Uボートが海底にぶつかる。 すると速度が落ち、Uボートは数mほど浮き上がる。 そして再び海底に……
ドーン! ドーン! にぎやかな潜水艦であった。
さてオニヒトデの魔女の根城、近海の元観光施設。 大海蛇女のナンナンダは、海底にうずくまって食後の一休み中だった。
フンフンフン……
鼻歌など歌っている。 そこに、破壊的な音が響いてきた。
ドーン…… ドーン
ナンナンダは頭を上げ、不審げに音のする方を見る。
ドーン! ドーン!!
ナンナンダは顔をしかめると、勢いよく泳ぎだした。
一方Uボートでは、エミが耳を押さえて怒鳴っている。
「いーかげんにしなさい! 底に穴が開くわよ」
「えーい♪ 大丈夫、大丈夫」
「なにが大丈夫よ!!」
「いぇーい……お?」
ナンナンダー……
「あ、あいつが気が付いたのね。 どうするの……」
言っているうちに、ナンナンダーはUボートのすぐ近くまでやってきた。 Uボートの前で止まると、じっとそれを見つめ……
ヤッカマシィー!! キンジョ メーワクダッ!!
「すいませんどーも、どーも」
エミは、見えないナンナンダ相手に謝ると、ミスティに向き直る。
「怒っている様よ」
「ふふん♪ 望むところよ」
ミスティは、ぐいっとふんぞり返る。
「それ、全速前進! ウナギ女を芋刺しにしちゃえ」
「ぜーんそく、ぜんしーん」
浮き上がりかけていたUボートが、突如前進を始め、ナンナンダに突っかかる。 Uボートの水中速度はさほど早くないが、鉄の
船が突っ込んできたので、ナンナンダは驚いてよけた。
ウヌ!
怒りをあらわにすると、ナンナンダはUボートからいったん離れ、今度は凄い勢いで戻ってきた。 ナンナンダの方が、体当たり
するつもりらしい。
「魚群探知機に反応。 でっーけのがえらい勢いで突っ込んできます」
「ちょっとミスティ、どうするの?」
「まーかせなさい、スライムタンズ!」 ミスティは伝声管に叫んだ。
ピ?
前部の魚雷発射管室で待機していたスライムタンズは、ミスティの声に反応した。
『スライムタンズは、三人ずつ組になって魚雷発射管に入って』
ピー!?
『水中に打ち出すから、そしたらコンブか何かに化けて、ナンナンダに巻きついて動きを止めてね♪』
ピー! ピー! ソージューキ!?
『それやめて』 今度はエミの声がする。
『仕方ないわね。 いい?発射管に入ったら、丸太に化けて。 そして発射の勢いに乗ってナンナンダに接近。 近くに行ったら
コンブになって巻きつく。 いい?』
ピー……
スライムタンズは、しぶしぶと言う感じで、三人一組で発射管に入った。 どこからか、ブロンディとボンバーが現れ、発射管を
閉じていく。
ナンナンダー!
ナンナンダが近づいてきた。
「総員、対ショック、対閃光防御!」
「ンなもの必要ありません」
そういっている間に、Uボートとナンナンダはどんどん距離を詰めていく。 ミスティは、透視でナンナンダの姿を捕え、発射の
タイミングを計っている。
ナンナンダー!!
「発射ぁ!」
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