王子とスーチャン

Part4-02


 ナンナンダー!!

 外から咆哮が響き、Uボートが大きく揺れ、乗『組員ズ』と鶴船長は大きくよろけた。

 「うおっ!? 海底にぶつけたか? それとも潮流か? 美囲、水中聴音機と魚群探知機!」

 「なんか吠えているような……海底までは、まだ10mはあります」

 「椎、操舵はどうだ!」

 「舵、問題ありませんが……前に鯨にぶつけたときみたいな衝撃がありました」

 ドーン!!

 鈍い響きがして、再びUボートが揺れた。 と、今度は船体がきしみだした。

 「なんだかミシミシいってますぜ」

 「うーむ」

 鶴船長は顔を真っ赤にして考え込んだが。すぐに顔を上げた。

 「機関停止、浮上する」

 「船長さん、どうするの?」

 「トラブルの原因が判りません。 安全策をとっていったん浮上します」

 エミは、鶴船長の返事に頷いて見せ、背後のミスティを振り返った。

 「海蛇女『ナンナンダ』はどうしてるの?」

 「この船に巻きついちゃってるよー」

 ミスティの返事にエミは難しい顔をした。

 (海蛇女は何故この潜水艦に巻きついているのか……友好的な対応とは思えないわね)

 と、彼女の足を何かがつついた。 視線を向けると家老ヤドカリがいるではないか。

 「あ……貴方何をしてるの」 小声で叱るエミ。

 「すみまんじゃ。 大事なことをを言い忘れていました。 魔女は恐ろしく大きな海蛇女の妖魔を手氏にしているとか……」

 エミは床に突っ伏した。

 「最初に言いなさい、そー言うことは!」

 「すみませんのぅ、さっき外から聞こえてきた声で思い出しまして」

 「襲われてから思い出すな! で、そいつはどんな奴なの?」

 「大したことは知りませんが、昔は船を襲って船乗りをさらい、精気を搾り取ってしまうとか」

 「げ!!」

 「干物になったような船乗りの溺死体が見つかった時は、海蛇女に襲われた為だと人間が話していたのを聞きまして」

 「へー、エミちゃんみたい」

 「一緒にすなっ!……と言いたいけど……」

 エミとミスティ、大ヤドカリは発令所の前扉付近でこそこそ話していたが、その間にUボートは海面に顔を出していた。


 「浮上しました」

 「よし。 英、つづけ」

 鶴船長は器用に梯子を上り、セイルのハッチを開いた。 途端に生臭いにおいが流れ込んでくる。

 「おわっ、魚臭い」

 「やっぱり何かにぶつけたのか?」

 鶴船長が顔を出すと、すぐ上に何やら大きなものが見えた。

 「んー?……げっ!?」

 ナンナンダー!!

 すさまじい咆哮と共に、鶴船長と英が折り重なって落ちてくる。

 「船長!?」

 「ば、化け物が上に居るぞ!? 真っ青に顔をした大女だ! おい、あんたあれが魔女か?……あれどこ行った」 

 いつの間にかエミとミスティが発令所から消えている。 鶴船長がキョロキョロと辺りを見回していると、上から黒い蛇の

ようなものが大量に落ちてきて、床に転がっている鶴船長と英に巻きついた。

 「うわぁ!?」

 「これは……奴の髪の毛か!?」

 フッフッフッ……ナンナンダ……ナンナンダー!…… 

 「ひぇぇぇ」

 ナンナンダの髪は、海草のようにヌルヌルしており、それが蛇のように蠢いて、服の中にヌルヌルと入り込んでくる。

 「き、気色悪、ひぇぇ、そんなとこ、だめー!」

 「うぉのれ、あわ、や、やめ、そ」

 ヌルヌルネバネバの髪の毛は二人の服の中で蠢き、敏感なところを探しだして巻きついたり、締め上げたりしている。

 「し、なんか痺れてきた……」

 「し、痺れ毒か……あへ……」

 二人の抵抗が弱まって来ると、髪の毛は二人を外に引っ張りだし始めた。 船長と英の危機に、乗『組員ズ』は勇敢に髪の

毛に掴みかかり……反対に絡め取られた。

 「このこの、離せ」

 「こら、パンツの中に……ぎぇぇ、ヌルヌルした冷たいのが入ってくる!」

 「へ、へそを擽るな……ち、力が抜ける……」

 哀れ、果敢に戦った鶴船長と乗『組員ズ』は、海蛇女『ナンナンダ』の髪の毛に捕まり、船外に引きずり出された。

 「……ひっ!?」

 気が付くと、鶴船長は『ナンナンダ』の大きな口に咥えられていた。

 「ぎぇぇ! おれはおいしくないぞ!」

 ゴケンソンヲ……フッフッフッ……

 ナンナンダの舌は、二股に分かれた冷たい蛇の舌。 それが、ナンナンダのヌルヌルの涎まみれになった鶴船長の体に

巻きつき、ニュルニュルと這いまわる。

 「ひぇ……ぎ……ひぃ!?」

 グッフッフッ……

 ナンナンダの涎の力なのか、鶴船長はやたらに肌が敏感になっているのに気が付いた。 そこをヌルヌルの蛇が這いまわ

る感触に、得体のしれない感覚が全身を襲う。

 「熱くて冷たくて、気色悪くて……悪くて……え……ひぃっっ!?」

 突然、嫌悪感が快感に転じた。 たちまち絶頂に達して精を……漏らさないまま硬直する。

 「ひぃ……ひぃ……ひひひひひぃ……」

 ケッケッケッ……一気ニ気持チヨークナッタロウ……デモ気持ヨスギテ、イケナイダロウ

 『ナンナンダ』の涎の力なのか、鶴船長は快楽の肉塊と化していた。 体が硬直するし、大事なところが燃えているかのよう

に熱い。 しかし、余りに異様な快感の為、行くこともできず、頭に血が上りっぱなし。 安全弁の壊れたボイラーのような状態だ。

 ケッケッケッ……ジュル……

 『ナンナンダ』は、残忍に笑うと鶴船長の体を軽く吸った。 その刺激で鶴船長の男性自身が、ようやく自分の役割を思い出す。

 ド……ドムドムドムドム……

 「にひっ……ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ……」

 男性自身が、盛大に快楽の証を吐き出す。 同時に、体中の精気が男性自身から吐き出され、『ナンナンダ』に吸われていく。

 「ぃぃぃ……いっ」

 一声あげて、鶴船長は白目をむいた。 その後も『ナンナンダ』は、鶴船長の体をペロペロと舐めていたが、もう精気が出て

こないとみるや、ミイラのようにげっそりとやつれた鶴船長をペッと吐き出した。

 「……」

 哀れな船長は、偶然Uボートのハッチにはまり、そのまま発令所まで落ちて行った。

 アレ?……オー、オモシロイ

 『ナンナンダ』は手を打って喜んでいる。 鶴船長の体がうまく穴に入ったのが面白かったようだ。


 「あ、船長さんの搾りかすが落ちてきた」

 「うっわー、容赦ないわね」

 発令所にはエミとミスティが居た。 二人は、ハッチが開くと同時に発令所から前の方に逃げ、隠れていたのだ。

 「成仏してね」

 エミはそう言うと、鶴船長に手を合わせた。 その時、エミは彼の体が動いていることに気が付いた。

 「あら生きてる」

 「ホントだ。 吸い尽くされたんじゃないの?」

 エミは額に手を当てて考え込む。

 「そう言えば、家老さんは『溺死体』って言っていたわね。 精気を吸い尽くされて死んだんじゃなくて、身動きできなくなって

海に放り出されたから『溺死』したんだわ」

 「へー。 ま、ミスティはどうでもいいけど」

 二人が言っている間に、搾りかすになった乗『組員ズ』が一人ずつ落ちてくる。

 「なんか……律儀に返してくれるのね」

 「キャッチ・アンド・リリースって言うんの? こーいうの」

 ミスティはそう言いながら、船長の端にしゃがみ込んだ。 すると、船長がプルプル震えながら手を上げる。 ミスティはなんと

なくその手を握った。

 「ふ、船を……頼む」

 パタリと鶴船長が気を失い、ミスティとエミは顔を見合わせた。

 「……えー! ミスティが船長ぅー♪」

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