王子とスーチャン

Part1-04


 ”ヤドカリ族王子のお越し〜”

 輿に担がれ、『ヤドカリ族王子』が玄関から入ってくる。

 「へぇ」

 4匹のオオヤドカリが輿を担ぎ、その上に真珠色の大きな巻貝が乗っている。 ”しずしず”と表現したいが、担いでいる

のがオオヤドカリなので、”ゴソゴソ”と言う感じだ。

 (やっぱヤドカリか……)

 エミが心の中でそう思うと、担ぎ手のヤドカリたちの上にカニバブラーやシオマネキングといったショッカー怪人のイメージが

ポンポンと出現する。

 ’ワッ! デタ!!’

 スーチャンが驚き半分、喜び半分の歓声を上げた。

 「あれ? ひょっとして私のイメージがスーチャンにも見えてるの」

 ’ミエテル、ミエテル’

 「エミちゃんアンテナあるじゃない。 あれでスライムタンズやスーチャンと交信してるのよ……」

 固まっていたミスティが復活して、解説を入れた。

 「アンテナって……角の事?」

 ミスティが頷く

 「アンテナをしまっていても、近くなら交信できるの」

 「ふーん……面白いわね」

 興味を覚えたらしく、エミの瞳が輝きだした。 そこに、家老『カニレーザ』が咳払いを入れ、一同の注意を集める。

 「では、私どもの王子を紹介いたします。 ルウ殿下、お出ましください」

 「へ? ルウ?」

 真珠色の巻貝の入り口から、やや小さいヤドカリがコソコソと顔を出す。

 ’キャワイイー♪’

 スーチャンが歓声を上げると、ヤドカリはびっくりしたように鋏を持ち上げ、するりと引っ込んでしまった。

 「あらあら、引きこもりな内気な王子様だこと」

 引っ込んでしまったルウ王子にを引っ張り出そうと、家老『カニレーザ』が殻の入り口に顔を突っ込み、何か言っている。 

少しして、ようやくルウ王子が顔だけ覗かせた。

 (随分臆病な王子様よねぇ……)

 エミがそう思うと、ルウ王子の殻の上にイメージが現れた。 気弱な王子様とのイメージが定着したのか、金髪で線の細い

少年が立派な服を着ている。

 ’キャー♪ ショタダ、ショタ♪’

 スーチャンが黄色い歓声を上げると、イメージのルウ王子が家老『カニレーザ』の背後に隠れてしまった。

 「どこで覚えたの、ショタなんて」

 額を抑えつつエミが呟いた。


 ルウ王子を輿からおろすと、居間の両側に分かれる形でエミたち三人とヤドカリ一族の話し合いが始まった。

 「とりあえず、この『ルウ王子』様に女を教えればよい訳ね。 だったら、スーチャンじゃなくてもいいんじゃないの? ヤドカリ族

にも女の子はいるでしょうに」

 エミの疑問に、家老『カニレーザ』は首を縦に振った。

 ”王子のお相手をするとなれば、いくらでも志願者……いえ志願ヤドカリはおります。 問題は王子のほうでして”

 「わっかんないな〜」ミスティが首をかしげた。 

 「めんどくさいしー、えい実力行使!」

 ミスティは立ち上がり、いきなりルウ王子のイメージに抱き着いた……がすり抜けてしまう。

 「あれ駄目だ。 じゃ本体の方に」

 ミスティは、真珠色の巻貝から半身を覗かせているオオヤドカリに手を伸ばした。 ヤドカリは当然、貝の中に引っ込む。 

 「待てぇ」

 ミスティは頭から巻貝に突っ込んで……頭をぶつけた。 オオヤドカリとは言っても、巻貝の入り口に人が入れる訳がない。 

それではと腕を突っ込むが、奥まで届かない。

 「うぬー、こうなればこれを破壊して……あたっ」

 エミがミスティをどつき、引き戻した。

 「なるほど、当人……いえ当ヤドカリにその気がないと、行為ができないのですね」

 ”はい。 もちろん王子の城を破壊するなど言語道断”

 ミスティが、ふりあげようとした『なーりゃー棒』を慌てておろす。

 ”同じヤドカリ族でも、引きこもった王子を引きずり出すのは至難の業。 なれど、『スーチャン』様であれば”

 「なるほど」

 エミは大きくうなずき、スーチャンを見た。 スーチャンも大きく頷き、ミスティを見た。 ミスティも大きく頷き、隣を……見たが

誰もいなかった。

 「……いいもん」

 エミは、よくわからなイジケモードに入ったミスティを宥め、スーチャンに王子の相手をさせるよう言った。 スーチャンは

ミスティの使い魔なので、ミスティが命じないことはできないのだ。

 「なんでヤドカリのお願いを聞かないといけないの」 ややふて腐れてミスティが言った。

 「ミスティは電脳悪魔だもん」

 「頼みを聞かないと、毎晩押しかけてくるかも、ヤドカリの群れが。 ひょっとするとアパートまで……」

 「スーチャン、王子様のお勤め頑張って」

 ’スーチャン、ガンバッ!’

 
 さて、衆人(半分はヤドカリ)環視の中、スーチャンは気合を入れると、ルウ王子に抱き着く……と言うより掴みかかった。

 ”カリッ!?”

 ルウ王子は真珠色の巻貝の中にするりと引きこもり、スーチャンは巻貝に抱き着く形となった。

 ’マテェ〜’

 スーチャンの頭が巻貝の入り口にすっぽりはまり込んだ。

 ’ニガサナイゾ〜’

 半透明の緑色の少女の形が溶け崩れながら、巻貝の中にズルズルと入り込んでいく。

 ”カリッ!? カリーッ!”

 巻貝の中から、ルウ王子の悲鳴が上がり、貝ごと飛び上がった。


 「なんか……軟体動物が獲物を捕食しているみたい」 エミが呟いた。

 ”大丈夫でしょうか……”

 「貴方がやらせているんでしょうが! お?」

 巻貝の上には、ルウ王子がおびえてうずくまっているイメージが見えていた。 そこにスーチャンのイメージが現れ、王子を

押し倒した。

 「なして器用な」

 ”おおー、そこですじゃ!”

 「がんばれスーチャン!」

 盛り上がる一同。 が、スーチャンのイメージがピタリと動きを止め、皆を振り返った。

 ’コノ後、ドースンノ?’

 一同は、揃って後ろにひっくり返った。


 「ど、どうすんのって」

 「まーかせなさい」 ミスティが胸を張る。

 「まかせなさいって……なにしてるの」

 ミスティはごそごそと荷物を探っていたが、何やら薄い本を取り出して戻ってきた。

 「スーチャン、お姉ちゃんがご本を読むから、その通りにやりなさい」

 ’ハーイ’

 「本?」

 エミは、ミスティが持っている本のタイトルを見た。

 『スライム姉、弟の初めてを奪う(ジャンル ショタ、人外)18禁』

 「こーの間、魔女見習いの麻美ちゃんとロージンのサバトで買ってきたの」

 「ロージンのサバト……あー、同人誌の即売会ね」 

 (次回、やっと濡れ場に突入ってか?)

【<<】【>>】


【王子とスーチャン:目次】

【小説の部屋:トップ】