王子とスーチャン

Part1-02


 回転衝角付のUボートと言う奇妙な船は、いったん港に入った後、港の沖に出て停泊した。

 「映画の撮影用ねぇ……」

 「どこぞの金持ちが趣味で作ったらしいけど。 へー、サソリの剥製なんて初めて見たわ」

 港では、映画関係者の記者会見が続いていたが、エミと川上、谷の三名はUボート見物を終えるとその場を離れ、近くの

土産物屋を冷かしていた。

 「この後はどうする?」

 「どこか、地酒の飲める店に入りましょう」

 「いいねぇ」

 男二人に女一人の三人連れは、沈みかけた夕日みながら飲み屋を探し始めた。


 「ちと飲みすぎたかな」

 エミは川上、谷両氏と痛飲した後、二人と別れて自分の宿に帰ってきた。

 「モーテル『プチ・ゴージャス』……あーここ、ここ」

 エミが泊まっていたのは、いわゆるモーテルで、ガレージ付のハウスが個別に建てられていた。 エミは、その中の一つに

近づく。

 ザワザワザワ……

 ハウスの傍に小さなヤシの木が植わっていたが、それが風もないのに揺れている。

 「ご苦労さん」

 エミはヤシの木に声をかけると、ハウスの扉を開いた。

 『変身!ブイスリャー!!』

 『おのれ、仮面ラーイダV3!』 

 「何を見ているのよ、ミスティ、スーちゃん」

 ハウスの中は二部屋に分かれ、居間のソファにピンク色の小悪魔と緑色のスライム娘が陣取り、TVのヒーローに声援を

送っていた。

 「あら、どうしたのそれ」

 エミは、ミスティが絆創膏や包帯まみれなのに気がついた。

 「はっはっはっ、よくぞ聞いてくれました」 ミスティは、ぱっと日の丸扇子を開いた。「聞くも涙の物語、話せば長くなりますが」

 「簡潔に」

 「ヤシガニにやられました」

 「……」

 
 「ヤシガニってそんなに凶暴だったかなー」

 スーチャン、ミスティの話を聞いてエミは呟いた。

 キョーボゥ! キョーボゥ!

 スーチャンが両手を広げて力説する。

 「それは災難だったわね……」

 酔いが回ってきたのか、エミは舟をこぎ始めていた。 

 『行くぞ!ドクトルG』

 (ドクトルG……正体はカニの怪人だったわね……えーと)

 全然関係ない事を考えつつ、エミは微睡とうつつをさまよい始めた……


 トントントン…… トントントン……

 「……何?」

 何か物をたたくような音で目が覚めた。 居間の中を見ると、ミスティとスーチャンはソファにもたれて眠っていた。

 トントントン…… トントントン……

 「誰かドアをノックしてるの?」

 エミは頭を振って立ち上がり、ハウスのドアを開ける。

 「?」

 誰もいない、と思ったら足を軽く叩かれた。 視線を下に向ける。

 「……?」

 何か足元にある。 目を凝らすと、二抱えもあるような巨大なサザエの殻だ。 と、それが動いた。

 「あら?……げっ!?」

 サザエの殻から、エビのようなものが覗いている。 それは犬小屋ほどもある巨大なヤドカリだった。

 「……ヤ、ヤドカリのお化け!? 」

 エミは尻餅をつき、そのままいざって後ずさりする。 

 ”あいや、しばらく”

 「?……ヤドカリが……しゃべった?」

 ”私、ただのヤドカリではございません”

 巨大ヤドカリは、そう言いながらハウスの中に入ってくる。 明かりの下で見ると、すごい迫力だ

 ”私は、ヤドカリ一族の家老にございます”

 「ヤドカリ一族? 何、それ?」

 エミは聞き返した。

 ”ご説明の前に、話がしやすいように、イメージを送りましょう”

 オオヤドカリがそう言うと、彼のサザエの殻の上に、何やら白い靄が見えてきた。 それは、人の形のようにも見えた。

 (これがイメージ? なんだか、幽霊みたいね)

 そう思うと、靄はいっそう人の形に見えてくる。

 (そう言えば幽霊は、脳の中で作られたイメージだと言う説があったわね。 だから記憶の中にある人の姿に見えるのだと)

 靄は誠実そうな老人に見えてきた。 『家老』という言葉に、イメージが引きずられているらしい。

 (ふむ、ヤドカリの送ってる『イメージ』を、私が脳の中で人の姿に置き換えている訳か。 これは面白いはね)

 エミは、興味津々で『イメージ』を見つめる。


 『来い、カニレーザ!』 背後のTVでヒーローが叫んだ。


 (そうそう、ドクトルGはカニレーザだったわね……カニが盾とバトルアックス持っているやつ)

 途端にオオヤドカリのイメージがデストロン怪人の『カニレーザ』になった。 盾とバトルアックスを構えて、こちらを威圧

している。

 「でっ!?」

 慌ててイメージを修正しようとするが、目の前に出現した『カニレーザ』が脳裏に焼き付いて離れない。 何とか『イメージ』を

修正しようとし努力したが、失敗した。

 
 ”では、ご説明を……”

 「は、はぁ」

 結局エミは、正座する『カニレーザ(のイメージ)』から話を聞く羽目になった。

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