パイパイパー

3.女神と少年(8)


 − アハッ♪ 邪魔しないで……

 − あっちにいって! もう一発くらいたいの!?……

 − ……

 
 「……」

 ドドットは目を開けた。 下生えの草が茂った地面が目に入り、自分がうつぶせである事を悟った。 手をついて体を起こす。

 クッ……

 力が入らず、手足が思うように動かない。 体が、まだパイパイパーの胸の中にいる様な気がする、そう思った。 

 パイパイパー〜♪ 風に乗って、パイパイパーの声が聞こえてくる。

 「あ……」

 体に何かが纏いつく感触があり、意識がすーっと遠のいていく。

 「あっちにいきたいの? ドドット」

 背後から、澄んだ女の声が降ってきた。 シスターエミの声だ。 ドドットは手に力をこめ、体をねじって仰向けの姿勢になった。

 「……シスター……エミ」

 シスター・エミが腕組みして立っていた。 いつものフード付のシスター服は着ておらず、黒く薄い布地の下着のようなもので

体を覆っている。 フードで隠していた顔は、いまは剥き出しだ。 なかなかの美人で、しかも色気があった、シスターにしては。 

そして、黒く長い髪の間から、2本の角が生えていた。

 「あんた、魔物だったのか」

 「……人だとは、一言も言っていないと思いますけど」

 シスター、いやシスターのふりをしていたエミと名乗った魔物は、無表情に言い放つと、手に持っていた箱を帯についた袋に

しまう。

 「俺達を謀ったのか……。 すると、あのル・トール卿も魔物か。 どうも怪しげだとは思ったが」

 ドドットは上半身だけを起こし、エミの動きを注視しながら言った。 シ・タールに下ばきをむしり取られて、下半身がむき出しに

なっているのが様にならないが。

 「訂正して。 まず、あなた方に言ったことはすべて事実よ。 私は正式なミトラ教のシスターです。 そして……認めたくないけど

ル・トール卿も正式なミトラ教の人間です」

 「何? 魔物がミトラ教のシスターだと? そんな話聞いたことがないぞ!」

 「ええ、宣伝していませんから」

 澄ました顔で応えるエミに、ドドットは何か言いかけた。 そこに、またバイパイパーの声が響いて来た。

 うぁ……

 また意識がすっと遠のく。 このままでは、シタール達と戦うことも、逃げることもできそうにない。

 「くそぅ……なんとかしないと」

 「全くね」

 冷たく言い放つエミの視線は、ドドットの男のシンボルに注がれていた。 体は自由にならないのに、其処だけは天を指して

そそり立っているのである。

 「……いや、これは……シタールに……いや、パイパイパーにだな」

 「それは判っています。 一度パイパイパーに欲情させられたら、普通の人間なら、立ちっぱなしになるわ」

 エミの言葉は、冬の雪山より冷たい響きを帯びていた。 その点については、確かに彼女は敬虔なミトラのシスターであった。

 「とにかく、其れを静めない限り、何れ貴方はパイパイパーの誘惑に逆らえなくなります」

 「のようだな……これを何とかしないと……」

 「切り落とすのが、一番簡単だけど?」 

 エミはそう言うと、どこからか短剣を取り出した。 ドドットは、顔から音を立てて血の気が引くのを感じていた。 もちろん、

その手段も選択肢の中にはあったのだが。

 「……いや、まぁ……できればそれは最後の手段ということで……あんた、あいつの事に詳しいんだろ? 他に手はないのか?」

 「……なくはないけどね。 貴方がそれを受け入れられるか……」

 そう言うと、エミはスルリと黒い衣を脱ぎ捨てた。 男を誘う為に作られたような見事な体が露わになり、ドドットの視線は

その体に引き付けられた。

 「切り落とすのが嫌なら。 後は『気』を抜く事。 早い話が一度、達すればいいのだけど……一度、パイパイパーの快楽を

覚えたそれが、素直にいってくれるかどうか……」

 「……そうか……それに、協力してくれるのか?」

 「魔物でかまわなければ」 エミは肩をすくめて見せた。


 「おい……」

 「何か不満でも?」

 「いや……むしろあんたの方に不満があるのでは?」

 エミは木に手をついて、尻をドドットに向けている。 誘っている様にも見えるが、『さっさっと済ませろ』と言わんばかりの態度に

しか見えない。

 「不満がないとでも?」

 図星だったようだ。

 「パイパイパーに欲情されたから、手近の『女』で静めたい……いくら魔物とは言え、それで私が大喜びで協力すると思う?」

 「いや……」

 さらに言いつのろうとするドドットから視線を外すと、エミは尻から生えた尻尾で自分の秘所を示した。 そう、エミには角以外に、

翼と尻尾が生えていたのだ。 ちなみに、パイパイパーの僕となった女達と違い、彼女の羽と尻尾は黒一色だった。

 「……」

 ドドットは無言でなんとか立ち上がると、背後からエミの尻に手をかける。 そして立ったままの自分自身で、彼女の秘所を

探った。 柔らかな割れ目に微かな滑りを感じる。

 「……いくぞ」

 ゆっくりと腰を前後する。 わずかな滑りけが、彼をエミの中に招き入れた。

 (冷たいな……)

 エミの中は、しっとりと濡れていたが、シタール達と比べるとかなり冷たかった。 ある意味、彼を拒んでいるようにも感じられる

冷たさだった。

 (えい、ままよ)

 ドドットは、少しずつ深くなるように腰を動かす。 ドドットを拒むかと思われたエミの中は、意外にスムースに彼を迎え入れた。 

突く、戻る、突く、戻る、その動きに合わせるかのように、エミの中は滑らかにうねる。

 (……)

 ドドットは、自分自身に冷たい痺れのようなものを感じた。 肉の茎に絡み付く肉襞が、それから熱を奪っていく。 決して不快

ではないその感触が、パイパイパーの興奮から彼を覚ましてくれようとしている。

 「あんた……ひっょとして」

 「何か?」

 エミの口調は相変わらず冷たい。 ドドットは、ふとエミの背に目をやる。 黒い革のような翼は、ゆっくり閉じたり開いたりし、

尻尾も同じリズムでゆらゆらと揺れている。 ドドットは、そっと手を伸ばして尻尾を捕まえると、其れを口に含んだ。

 「……」

 エミは振り返ってドドットを見たが、一瞥をくれただけで視線を戻した。 ドドットは、口に咥えたエミの尻尾を、舌で愛撫してみた。

 ピクリ……

 尻尾の付け根が震え、さらにエミの中が僅かに震えた。

 (よし)

 ドドットはひそかに頷くと、腰の動きに合わせて、尻尾を口で優しく愛撫し始めた。

 ン……

 エミが微かに喘いだ。 さっきまでドドットの動きに合わせていた肉襞が、やや動きを変えてきた。 優しく摩るだけだったような

動きに、リズムが出てきた。 強く、弱く、強く、また弱く。 その動きが次第にはっきりしてくる。

 ゾクリ……

 背筋に、冷たいものが走る。 冷たい快感とでもいうのか。 心地よいのだが、彼自身が次第に冷たくなって行くような。 それに

対するかのように、体の芯は熱くなっていく、火が燃えるように。

 むっ……ふんっ……

 気合を込めて、腰を突き入れる。 すると、エミの中が彼の肉襞に縋り付いて……熱を奪っていく。

 ゾクゾクゾク……

 背筋が震えた。 エミの肉襞に擦られる毎に、冷たい快感が背筋を上ってくる。 絶頂にも似たその快感が、一突きごとにドドット

を酔わせ、そして誘うのだ

 もっと奥に、もっと熱くなって……冷やしてあげる、熱を吸い尽くしてあげる…… エミの肉襞が囁き、ドドットを誘う。

 (こ、これは!?)

 ドドットは気が付いた。 これは魔物の快感、それも精を吸い尽くすタイプの魔物の。 しかし、もう遅い。 腰が止まらない、彼

自身に纏いつくエミの肉襞の囁きが彼を支配している。


 (……何!?)

 スルリと彼自身がエミの魔性から解き放たれ、尻もちをつくドドット。 その前で、エミは優雅に立ち上がり、先ほどまでとは比べ

物にならない妖しい気配を身に纏わせながら振り向いた。 

 「……」

 妖しく輝く金色の瞳が彼を射抜く。 さっきまで無表情だった顔には、獲物を前にした『魔性の女』の歓喜の表情が浮かんでいる。

 「……悪い人」

 黒い翼を大きく広げ、ゆっくりと彼に歩み寄るエミ。 ドドットは、エミはさして害のない魔物と勝手に思い込んでいたが、どうやら

思い違いの様だった。 彼は心の片隅で思った。

 (まずい、興奮して本性を現したのか!? これは……切り落とした方が良かったかな?)

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