パイパイパー

3.女神と少年(7)


 「その樽を運び込め! 急ぐんだ」

 「合図の狼煙が上がったんだ!」

 『氷蛇の谷』の入り口、そこに建てられた教会では、兵士や教会関係者が慌ただしく働き、教会の中に大きな樽をいくつも

運び込んでいた。 さらに、讃歌に使用される楽器も用意されている。 何も聞いていない兵士たちは、何が始まるのかをあれ

これと話していた。

 「おい、この樽の中身……酒じゃないのか?」

 「らしいな。 なんだって酒樽をこんなに教会に運び込むんだ?」

 「あれじゃないのか、邪な蛇神を酔いつぶして退治したとかいう話があるだろう」

 「なるほど」

 そうこうしているうちに用意は整ったらしく、『ル・トール讃歌卿』が幾人かの随行者を伴って教会に入った。 すると、ティ

書記官は教会の入り口に封をして、お祈りをする。

 「後は卿に任せろと言う事だが……」

 ティ書記官は呟くと、兵士たちに向き直った。

 「皆さん、ご苦労様でした。 我々は、ここから離れよとの事です」

 兵士たちがどよめいた。 ここでパイパイパーを迎え撃つのだと思っていたのだ。

 「待ってください! ここに、卿閣下達を残して行けと言われるのですか!?」 指揮を執っていた兵士長が、ティ書記官を

詰問する。

 「はい。 実は私も得心がいかないのですが……直に卿が『加護』の力を谷に向けて放つとか……その時は、人を近づけない

ようにとの事なのです」

 ティ書記官にの答えに皆が顔を見合わせた。 教会は、豊富な魔物の知識を所持しており、教会が派遣したブラザーが、領主の

兵や、傭兵に対して魔物討伐の道具や知恵を授ける事はある。 しかし、自らが先頭に立って魔物と対決するブラザーなど聞いた

ことがない。

 「そんな事が出来るのですか!? あのブラザーは!」

 「は、私も良くは知らないのですが……シスター・エミからはそう聞いています」

 言いながら、ティ書記官はエミから聞いた事を思い出していた。

 『およそ言葉にできぬ力』、『その力を目の当たりにし者、皆黙して語らず』、『軽々に使うべからず』……エミは『ル・トール

讃歌卿』と、その加護の力をそう評していた。

 (謎かけみたいで、具体的な事は離してくれなかったな。 もっとも、彼女自身も謎めいていたが。 とにかく準備ができたら

その場から離れろということだったが……) 

 ティ書記官は、あの不思議な雰囲気のシスターを思い出しながら、兵士たちと共に教会を離れた。


 「さぁ……」

 シタールの秘所がドドット自身に重なった。 生暖かい肉の谷が、彼自身を咥え込む。

 「ううっ?」

 シタールは、ドドットの腰に自分の腰を重ね、ゆっくりと前後に動かしているだけだ。 それの動きだけで、ドドット自身はシタール

の中に呑み込まれていく、ゆっくりと。

 「あぁ………感じる」

 シタールは目を閉じて、自分の中でドドットを感じている、いや、味わっているように見えた。 それはドトット自身も同じだった。

 「こ、これはお前なのか……あぁ……」

 シタールの中は生暖かく、異様にドロリととした感じであった。 何かがうねってドドットに吸い付き、撫でさする。 それだけで、

ドドット自身は硬直し、さらに奥へと誘われていく。

 「おいで……奥に……もっと奥に……」

 熱っぽい口調で誘うシタール。 その言葉自体が耳に粘りついて、頭の中に染み込んでくる。 他の音は聞こえなくなり、シタール

の声がすべてになる。

 ズ……ヌリッ

 「ぐっ!?」

 モノ先端が、シタールの奥深くに届いた。 そこはさらに暖かく、ネットリとした何かで満たされていた。

 「あ……あぁ……」

 ネットリとしたモノが、彼のモノを伝ってきた。 それは、シタールの秘所から溢れ出し、ドドットを包み込みはじため。

 「ドドット……貴方はパイパイパー様の愛で包まれているのよ。 判るでしょう」

 それは、外に出ると今度はフワフワと感触に変わり、シタールの言うとおりドドットを包み込んでいくようだ。 腰が、腹が、胸が

……暖かいものに包まれていく。

 「むむっ……むっ?」

 ドドットは、自分の胸に視線を向けた。 しかし、そこには逞しい自分の胸と、そこに吸い付くシタールの豊かな胸しかない。 

だが、目に見えない何かは、確かに彼を包み込んでいくのだ。

 「こ、これはなんだ?」

 「いったでしょう。 これはパイパイパー様の愛……ほら」

 シタールが腰をうねらせた。 見えない何かが、その動きに合わせて波打つ。 

 「……」

 ずっと包まれていたい、そう思うような優しい温もりと感触、そして甘酸っぱい香り。

 「これは……乳?」

 不意に思い当たる。 これは乳の香りだと、自分は目に見えないパイパイパーの胸に包まれようとしているのだと。

 「正解よ……」 シタールが微笑んだ。

 「判る? 魂が包まれていくのよ、パイパイパーの胸に。 もうじき貴方も……」

 「な、なに……」

 「パイパイパー様の声が判るようになるのも、魂が包まれるのも同じこと。 そうなれば、何も考えられなくなる。 私たちみたい

に……」

 シタールが再び笑った。 その笑顔が、どことなく作り物めいて見えたのは気のせいではないはずだ。

 「シ、シタール」

 フワフワとした感触は、首の所まできている。 その時ドドットは気が付いた。 首から下は、シタールと触れ合っている場所以外

何も感じていない。 シタール以外、存在していないかのように。

 「素敵よ、パイパイパー様の愛に包まれるのは。 嫌なこと、辛いこと、痛いこと、皆感じなくなるもの」

 「なんだと……」

 「ほら」

 フワフワしたものが顔を覆った。 世界が真っ白に変わる。

 
 ……見てドドット

 ドドットは『見た』。 

 少年たちが、白い乳の池に身を浸している。

 軽く閉じた目が時折震え、薄く開いた口から、愉悦の息が漏れる。

 ……あぁ

 甘酸っぱい疼きが、時折下半身を痺れさせ。 その都度、体の線が優しい曲線を帯びていく。

 変わっていくのだ、彼らは、パイパイパーの下僕に。

 ドドットは、彼らの喜びを感じた。

 ……ほら

 女たちがいる。

 暖かな乳の滴りを浴び、互いの体を慰めあう。

 禁忌であるはずの女どうしの戯れに、躊躇する様子はない。 

 女体の神秘を、たわわな果実を、互いに愛し、磨きあう。

 変わる、変わる、変わっていく。 女たちは変わっていく。 白く、美しく、そして淫らに。

 日々の糧を得るため、辛い労働に耐えてきた肉体は、神の許しの下、解き放たれていく。

 ……そこにも

 男たちかがいる。

 美しい神の下僕たちにかしづかれ、一生味わうはずのなかった快楽の中に、男たちは要る。

 溶ける、溶ける、溶けていく。 男たちは溶けていく。

 あるものはも肉のすべてを女たちに捧げ、魂を神に委ねてこの世を去り。 あるものは、女に変わりて神に仕える事を選ぶ。

 辛い生から解放され、その報酬を快楽の形で受け取り、新しい神に全てをささげる。

 ドドットは見た、パイパイパー神が人に何をしたのかを。 そして自分の末路を。


 ……ねぇ、ドドット。 選んで

 シタールの声、それともシタールを通じてパイパイパー神が彼に囁きかけたのだろうか。 気が付けば、目の前にシタールの

乳房。 

 (これを吸えば……おれもパイパイパーのもの……)

 ぼんやりと想いながら、シタールの乳房に唇で触れた……その時!

 「○×▼□!!」

 紫色の火花が視界を埋め尽くし、体を痺れにも似た苦痛が走り抜けた。 意識が飛ぶ寸前、ドドットは黒い羽を見たような

気がした。

【<<】【>>】


【パイパイパー:目次】

【小説の部屋:トップ】