パイパイパー

3.女神と少年(6)


 「物見が襲われているぞ! 狼煙は!?」

 「今上がるわ……上がった」

 エミが指さす方、森の中から一筋の煙が上がる。 ドドットはそれを見て安堵の息をついた。

 「よし、後はあのおっさん……いや、『ル・トール讃歌卿』殿まかせか」

 呟いた途端、ルトール卿の顔が脳裏に浮かぶ。 ドドットは大きな不安を覚えながらも、振り反ってエミに撤退を勧めた。

 「用は済んだ、俺は他の連中の加勢に行く……行ってきます。 シスターは、兵士長達と先に逃げろ……下さい」

 「私は大丈夫、それより貴方達こそ先に逃げなさい。 物見を襲っているスネーキィ以外にも来ていたわ」

 「何を言っている! パイパイパーの恐ろしさはあんたが一番よく知っているんだろぅ。 いいから逃げろ」

 ドドットは顔をしかめ、やや強い口調でエミに逃げるように念押しすると、物見の上っている木に向かった。

 
 物見の木の周りには、他の兵士たちが集まっていた。 木登りの上手いやつが、物見を助けるために登り始めていた。

 「急いで上がれ! 『石投げ革』を使える奴は、スネーキィを……」

 「新手だ!」

 森の茂みから、真っ白いウースィ女が飛び出してきた。 慌てる兵士を勢いで突き倒すと、二人の兵士を引きずって森の中に

消える。

 「追え!」

 半数の兵士が、ウースィ女を追いかけようとする。 すると今度は、白い皮膜羽を生やした女が三人空から降りてきた。 頭上

からの奇襲に慌てているうちに、さらに二人がさらわれる。 そこにドドットがやってきた。

 「ちっ、やけに慣れてるじゃねぇか! 慌てるな、こっちの方が多いはずだ! ニ、三人ずつで組んで、互いを守れ! 近づけ

させるな」

 ドトットは、兵士たちにアドバイスすると、自分は物見が上っている隣の木にのぼり始めた。

 (下から行けば、スネーキィに捕まる。 奴より上まで登って、鉤付き縄で飛び移り、上から奇襲だ)

 頭の中で作戦を組み立てつつ、ドドットは結構な速さで木を上っていく。 その時、背後で羽音がした。

 「ちっ、羽付か」

 片手刀を抜き放ちつつ、音だけを頼りに体を捩じながら刀を振るう。 固い音がして刃が何かに食い込んだ。

 「しまった!」

 背後にいたのは予想通り羽女の一人だったが、空手ではなく固い木の棒を手にしており、其れで刃を受け止めたのだ。 予想外

の衝撃に、ドトットは刀を取り落した。

 キヒィ!

 羽女は一声鳴くと、重そうな乳房をドドットに向ける。

 ビクビクビクッ!!

 乳房が激しく脈打ち、間欠的に白く生暖かい乳をドドットに浴びせかける。 自由の利かない木の上では避けるすべがない。

 「ぶわった! このう……うぐぅ」

 白い乳はネットリと体に粘りつく。 すると、体がずんと重くなり、自由に体が動かなくなってきた。

 キヒィ!

 羽女は、ドドットの抵抗が止まったのを見極めると、彼を木から引きはがしで何処かに飛んでいった。


 「シスター!危険です」

 兵士長がエミを連れに来たが、エミはドドットに言ったのと同じく、兵士長にも自分を残してここから去るように言った。

 「谷の出口に向かって進みなさい。 襲われたら、その場で守りを固めて待つのです。 じきに『ル・トール讃歌卿』の加護が

届きます」

 「『讃歌卿』の加護……ですか? あの、それはどのような」

 エミの顔が曇り、何とも言えない表情になる。

 「私の口からは申せません。 だいたい、あれを説明できるものが……この世にいるのかしら」

 「は?」

 「こほん、それはともかく、私はパイパイパーの事も、その下僕から身を守る術も心得ています。 ご心配なく」

 「ですが」

 「何人かの下僕が来ています。 私は『讃歌卿』の加護の効き目を、この目で確認し、その後合流します」

 「……」

 「『私に構わずともよい』との命を受けているはずです」

 兵士長はエミに礼を取ると、残った兵を集めてその場を去った。 それを見送ったエミは、踵を返すと森の中に姿を消した。


 ドスッ

 ドドットは、森の中の小さな草地に投げ落とされた。 羽女が、倒れたドドットに跨る。

 「おい、あんた。 あんたは村の誰かだったんじゃないのか? 思い出せ」

 「キヒヒヒッ ハズレッ」 羽女は甲高い声で笑った。 

 「何? 外れだと」

 ドドットは、いぶかしみつつ羽女を観察した。 改めてみてみると、皮膜状の白い羽が背中に生えている以外は普通の女だ、

裸の。 もっとも乳房が相当に大きく、ドドットはこれ程の巨乳の女を見たことがなかった。

 (うーむ、人間とは思えん大きさだ、あれでよく飛べる……む?)

 女の髪、肌は乳で染め上げたような乳白色で、ドドットが知る限りでは人の髪、肌の色にはない。 その顔をとじっと見ていると

何やら見覚えがあるような気がしてきた。

 「……まさか、シタール!?」

 「キヒィ……やっと気が付いた」

 シタールは、ドドットの腹の上に跨ったまま、顔を近づけてきた。 大きな乳房が、ドドットの胸に伸し掛かってくる。

 「薄情者。 仲間の顔も見忘れたの?」 シタールは楽しそうに言った。

 「随分でかく……あーいや、様子が変わったようだな。 まぁ、タ・カーク程じゃないが」

 シタールとしゃべりながら、ドドットは手足に力が入らないか試してみる。 鉛のように重く、ほとんど動かない。

 「タ・カークとも会ったんだ」

 「ああ……おい、ものは相談だが」

 「何?」

 「見逃してもらえねぇか、昔のよしみで」

 ……キヒッ、キヒィィィ!……

 シタールが甲高い声を上げた、笑ったらしい。

 (こりゃ……もう昔のシタールじゃねぇな)

 ドドットは、腹の中で苦いものを噛みしめた。 

 「キヒッ……余裕があるじゃないの……フフッ」

 シタールは、跨っている個所をゆっくりずらす。 熱く滑るものが腹の上をいざり、その先に有るモノに迫っていく。

 「シタール?」

 「判りあおうじゃないの、ねぇ……」

 シタールが妖しく笑う。 かってみたことのないその嗜虐的な笑みに、ドドットは拳を握りしめ、唇をかんだ。

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