パイパイパー

3.女神と少年(5)


 「あれが村の女達!?」

 ドドットは『遠望筒』を覗き込んだまま呻いた。

 「ええ。 パイパイパーの力で魔物に変わったのです」

 エミは手を額にかざし、ドドットと同じ方角を見ている。 と、エミのフードが揺れた。

 「こちらに来る?」

 「……の様だな。 かなり速い」

 「いけない! 合図の狼煙を!」

 エミは踵を返すと、天幕の辺りに居る兵士に声をかけた。

 「狼煙を!」

 兵士たちが頷いた。 すでに彼らは狼煙の用意を始めていた。

 「急がないと……あ!?」

 パイパイパー〜♪

 あの、不思議な声が辺りに響き渡る。


 ホォー……パイパイパ〜♪

 巨大パイパイパーの胸の上、そこに並んだ二人のパイパイパーが澄んだ声を上げていた。 微妙に音色が違う声は、途中で

絡み合い、谷で反響し、美しくも不思議な音に変じて谷を下っていく。

 (……僕の喉から……こんな音が出るなんて……)

 ルウだったパイパイパーは、自分の声に感嘆しながら、想いを声にのせる。 

 (……怖がらないで……感じるままに……望みのままに……)

 その声を耳にしたものにはルウの、いやパイパイパーの『想い』が心の中に湧き上がってくる。

 (……あの白い霧……乳だけじゃなかったのか……)

 例えパイパイパーの乳を口にしていなくとも、知らずに聞いていれば、止めどもなく湧き上がる『想い』に心を占領され、ついには

自分自身を見失ってパイパイパーの想いに支配される。

 (……うふっ……うふふ……)

 何だか楽しくなってきた。 ルウは想いを強め、声に集中する。

 (……怖がらないで……感じるままに……望みのままに……)


 「……なんだろう……前よりずっときれいな声だ……」

 ドドットは『遠望筒』をおろし、耳を澄ませる。 『パイパイパー〜♪』と言う音が耳から滑り込み、頭の中に満ちてくるようだ。

 「……」

 パチン!

 頬を叩かれて、ドドットは我に返った。 正面にエミが立っている。

 「しっかりして」

 言いながら、彼女が白いものを手渡す。 ロウの塊らしい。

 「耳に詰めて。 何もしないよりはまし」

 ドドットは無言でロウを受け取り、耳に詰める。 声は小さくなったが、微かに聞こえてくる。

 「急いだ方がいいな。 おい!……ありゃ、お互い話が通じんか」

 耳栓のせいで、エミや兵士たちの声が聞こえない。 エミに叩かれて我に返った兵士たちは、耳栓をして狼煙を用意している。 

しかし、手の動きがのろのろしており、中には手を止めてしまう者もいる。

 「やれやれ」

 仕方なくドドットとエミは、動きが悪い兵士たちを叩いたり、つねったりして狼煙の用意を急がせる。


 「……はー……」

 物見に上がっている若い兵士がため息をついた。 彼もパイパイパーの声の影響を受けていたが、エミもドドットもそこまで気が

回っていない。

 (……なんか飛んできた……)

 彼が最初に見つけた『翼のある人』が、かなり近づいてきた。 数は三人、その一人が一人ずつ、下に『人』をぶら下げていた。 

低く降りてきた『翼のある人』が、ぶら下げていた『人』を地面に降ろす。

 (長いな……上は人間で下は蛇……スネーキィか?、後は……)

 パイパイパー〜♪

 物見には彼女達の接近が見えていた。 しかしパイパイパーの声が頭の中を満たし、彼の思考力を奪っていた。

 シャー!

 地面に降りたスネーキィが、物見が上っていた木の下にやって来た。 素早い動きで木に巻きつき、彼のいる所に登ってくる。

 「……」

 物見はスネーキィと間近で対峙する。 顔は人間の女だが、瞳は細長い形に変わり、口元から牙と長い舌が覗いている。

 「……」

 牙に体が反応した。 のろのろと手を動かし、短剣を抜く。

 シャー…… 

 スネーキィは物見の足元まできてから、彼の短剣に気が付いた。 一瞬たじろいだが、すぐに妖しく笑うと、豊かな胸を見せ

つけるようにし、自分で胸をもみ始めた。

 「……あ?」

 蠱惑的な白い果実が形を変え、彼を誘う。 二つの果実の間に、吸い込まれていくような気がする。

 (……望むままに……)

 いつの間にか彼は下履きを緩め、彼自身を握りしめていた。 それは、固くしこったそれは、熱く汗ばんでいる。

 シャー……

 スネーキィは、胸をもみし抱きながら、彼の所まで登ってきた。 そして、彼自身に胸を近づけていく。

 「……ひゅぅ……」

 ふわふわした果実の間に、彼自身がゆっくり呑み込まれていく。 すべすべした肌が、彼自身を包み込み、優しい愛撫でそれを

慰める。

 「……あ……」

 堪える事も出来ずに、彼自身が熱を放った。 ヒクヒク蠢く彼自身がを取り巻く白い果実が、喜んでいるかのように震える。

 シャー……

 スネーキィは木に登るように、呆然とする物見の足から巻きつき、彼を自分の下半身のとぐろに収めてしまう。

 「……あぁ……」

 スネーキィの下半身の内側は、不思議なぐらい柔らかでしっとりと濡れていた。 これで木に巻きついて怪我をしないのだろうか

と頭の片隅で考える。

 シャー……

 「……あ、ぁぁ……」

 スネーキィのとぐろが、彼を包み込んだままグネグネと蠢く。 柔らかい襞が、器用に彼から衣服を剥ぎ取ると、とぐろの下の

方から吐き出していく。

 「……」

 濡れた肌が全身を愛撫し、甘美な快楽の世界に彼を誘う。 パイパイパーの声が、彼から躊躇い奪い取り、彼は自らスネーキィの

とぐろを愛撫し、体を震わせた。

 シャ、シャー!

 彼は、人の形をした男根となった。 女と交わり、快楽に震え、精を放つだけの存在に。 すぐに絶頂が押し寄せ、かれを内からは

じけさせる。

 「……いぐ……くぅ……」

 身を震わせ、彼は二回目の絶頂に没入した。 激しい快感に、精のすべてが解き放たれる。 

 「……ぐ……ぐ……くぅ……」

 絶頂の後、体がずしんと重くなる。 精を放った体は、空っぽになってしまったかのようだ。 気だるい空虚感に浸っていた物見

の頭が、とぐろから押し出された。 目の前にスネーキィの乳房がある。

 シャー……

 半開きの口に、白い乳房が粘りつき、乳首から甘い乳がトロトロと流れ出してきた。

 ンクッ、ンクッ、ンクッ、

 物見は抵抗することもできず、甘い乳を受け止めた。 放った精の空隙を、甘い乳が埋めていく。

 「……あぁ……」

 乳と共に、パイパイパーの意思が彼の中に流れ込んできた。 パイパイパーの声が、彼の頭の中で意味を持ち始める。

 ”おいで……おいで……激しく燃えて燃え尽きるも……甘い快楽に浸って……欲望ののままに変わるも……すきにするが良い

……”

 「……は……い……」

 うっとりと呟く彼に、スネーキィは愛しげに絡みついた。

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