パイパイパー

3.女神と少年(4)


 巨大な女神の乳を祭壇にし、ルウとパイパイパーは時間を忘れて愛の儀式を執り行っていた。

 「足を……」

 「ええ……」

 ルウの足とパイパイパーの足が交差し、互いの神秘を一つにする。 

 はぁ……

 うふぅ……

 深い喜びの喘ぎを漏らす二人。 そして、さらなる深みをめざし、白い女体が妖しく蠢く。 そう、もはやそこにルウの姿はなく、

二人のパイパイパーが互いを慰めていた。 


 オオ……

 アア……

 巨大な女神の乳を見上げ、喜びの声を上げるのはかって村人だった女達。 女神の喜びを分け与えらえ、二人の女神の

エクスタシーに酔いしれている。 しかし、その姿はもう人とは呼べぬものになりつつあった。

 ゴァァ!

 太い喜びの声を上げるのはウースィ女。 太い丸太のような腕と逞しい胸、そしてそれがなければ支えられぬほどの大きな乳房。

 彼女は、逞しい樵を胸の間に捕まえ、その太いモノを体の奥深くに迎え入れ、精を絞りとっている。

 シャー!!

 半人半蛇のスネーキィが、若い農夫に下半身を巻きつかせた。 彼女は興奮のあまり、鱗を激しく震わせていた。 農夫は

未知の感覚に襲われ、一瞬のうち陥落した。 意味の分からない言葉を呟きつつ、白い胸に顔を埋め、自分からスネーキィの

女に自分自身を押し当てた。 スネーキィの魔性は農夫を咥えこみ、溢れ出す精を啜り上げる。

 キヒィィィ!

 羽を生やした若い娘が宙を舞い、呆然としている男の一人に襲いかかった。 そのまま地面に押し倒し、腰を落とす。 男は

自分自身が、溶けた熱い沼に呑み込まれるのを感じた。 襲いかかる快感の前に理性は消し飛び、求めるまま、求められる

ままに若い娘と交わり、己の精を娘に捧げる。

 ああああ……ィィィィィ……

 狂ったように喜びの声を上げ変貌していく女達の下で、男たちは狂喜しながら精を吸い尽くされていく。 彼らはさながら、

ルウがパイパイパーとなる為の生贄だった。


 「ふむ……今日は晴れそうだな」

 ドドットは天幕の下から外に出て、明るくなっていく空を見上げた。 ここは『氷蛇の谷』の中央、やや村よりの辺り。 村人達を

移動させる時は、ここまで来た時には日が暮れていたが、彼一人ならまだ十分明るいうちに村にたどり着くだろう。 もっとも、

彼はこれ以上先に進むつもりはない。

 (相手が神を詐称するほどの魔物とは言え、これだけ離れて斥候もないもんだ)

 ドドットは自嘲気味に考えた。 


 『ブラザー・ゴー・ル・トール讃歌卿』が『氷蛇の谷』の出口に着くと、彼らはパイパイパー撃退の準備を始めた。 といっても、

楽器やら何やらを準備させ、連日、歌……というか発声練習をしているだけなのだが。

 一方、彼らと共にやってきたシスター・エミは、ティ書記官、教会、領主の兵の兵士長を集めると、パイパイパーを監視する

ための斥候を出す事を提案した。

 「但し、パイパイパーに近づくのは危険です。 最低でも徒歩で1日分の距離をおく必要があります」

 「そんな遠くにいては斥候にならない。 それにパイパイパーは地下に潜んでいるのだ。 危険を冒しても村に入るべきだ」 

兵士長はそう反論した。

 「パイパイパーは、いずれ地上に出て、人の大勢いる地域に向かうでしょう。 危険を冒してまで、村に入る必要はありません。」

 「しかし、地上に出たパイパイパーを見逃したらどうする」

 「あの村からの出口は『氷蛇の谷』以外に道はありません。 そこに網を張っていれば確実にパイパイパーの動きが掴めます」

 「仮に、パイパイパーの動きが判ったとして、その後は?」

 「……後は……ル・トール卿の出番です」

 ややためらいが感じられたが、エミはそう言い切った。 そして斥候隊が組織され、パイパイパーに関わりが深いドドットが

それに参加することになったのだ。


 (しかし、パイパイパーの事を知っているらしいとは言え、シスターが斥候隊に参加するとは……)

 ドトットは大きく伸びをすると、天幕の方を向いた。

 「おい、物見の当番は誰だ?」 ドドットは、一緒に来た兵士に尋ねた。

 「ハーリーだ。 もう、持ち場に着いた。 あの高い木だ」

 兵士が指さす方を見ると、木の上に人影が見えた。 ドドットが手をかざしてそちらを見ていると、天幕からでてきたエミが、筒の

ようなものを差し出した。

 「シスター・エミ? なんですか、これは」

 「遠くを見る為の道具です。 『遠望筒』と呼ばれています」

 ドトットは筒を手に取った。 筒は両側に丸みを帯びた透明な板が入っていた。 ドドットは、筒を2、3回した後、両手で端を

持つと引っ張った。 スルスルと筒が伸びる。

 「あら、ご存知でしたか?」

 「船乗りが使うところを見た事があったのを思い出しました」

 ドドットは、『遠望筒』で物見をの兵士を見た。 若い兵士が、緊張した面持ちで『遠望筒』を村に向けているのが視界に飛び

込んできた。

 「おおっ、これは凄い」

 ドトットは『遠望筒』をエミに返した。

 「ところでシスター、何故あなたが斥候隊に参加されたのですか」 ドドットは尋ねた。

 「私がパイパイパーの事をよく知っているからです」

 「それは……」

 どういう意味かと続けかけたドドットの言葉を、鋭い音が遮った。 物見が急を知らせる呼び笛を鳴らしたのだ。

 「なに!?」

 「長音1……2……短音1! 敵襲!」

 兵士が声を上げ、天幕から斥候に来ている兵士が飛び出してくる。

 「……いる」

 エミの声にドドットが振り返ると、彼女は『遠望筒』を差出し、村の方を指差した。 ドドットはそれを目に当て、エミの指さす方を

見る。

 「鳥?」

 はるか遠く、村の辺りに白い鳥のようなものが舞っている。 が、鳥にしては大きいような気がする。

 「あれは? いったい……」

 「パイパイパーに堕とされた人のなれの果てです」 エミが告げた。

 「え?」

 ドドットは、もう一度『遠望筒』を目に当てた。 はるか遠くを舞っているのは、翼のある人のように見える。

 「あれが……人?」

 「だったものです」

 エミは感情の感じられない平板な声で言い放った。

【<<】【>>】


【パイパイパー:目次】

【小説の部屋:トップ】