パイパイパー

2.女神の洗礼(6)


 シャーリィとルウは真っ直ぐな洞窟に入った。 どこかから光がさしているが、微かに靄がかかっており、見通しはほとんど

きかない。

 「どこへ行くの?」

 「今度は若い人たちのところ」

 不意に洞窟の天井や壁が見えなくなった。 広い所に出たようだ。少し進むと靄が薄れ、先の見通しがきくようになった。

 「あれは……泉?」

 そこは、村の広場ほどの空間になっていて、中央に60歩程で渡れる泉があり、そこだけに靄がかかっていた。

 「あれは……お湯? お乳の泉?」

 ルウの呟きにシャーリィが頷き、泉を指さした。 シャーリィの示す方向を見ると、靄の中で何かが動いている。 

 クシュン……

 ルウはくしゃみをした、少し冷たい風が吹いてきたのだ。 シャーリィが彼を傍に招く。 シャーリィの傍によると、寒さを感じ

なくなった。

 「ありがとう」

 ルウがシャーリィを見た、その時楽しそうな声が聞こえてきた。


 キャハッ♪ キャハハハッ♪

 泉の中では、数人の裸の娘が戯れていた。 楽しそうに水を掛け合ったり、潜ったりして遊んでいる。 何人かはルウも

見知った顔だが、知らない娘もいる。 そして、見知らぬ娘たちは一様に肌が白い。

 「アハッ♪」

 村の娘の一人を白い娘が背後から抱きしめた。 振り向いた彼女の唇を白い娘が奪う。

 ンハッ……

 彼女は嫌がるそぶりも見せず、唇を奪い返した。 二人は折り重なって泉に沈み、また浮いて来る。 他の娘たちも同じように

戯れている。


 「なにしてんだよ。 パシィ」

 若い男の声が響いた。 いつの間にか、泉の畔に5人の村の若者が来ていた。 もっとも泉に近いところに立っている

若者リンが、村娘の一人に戸惑いと、怒りの眼差しを向けている。 ルウは、彼と彼女が家族になる約束を交わしていた、

と覚えていた。

 「リーンー……? こっちにおいでよ……」

 パシィは、楽しそうに手招きをする。

 「ばかっ! お前がこっちにくるんだ!」

 リンは怒鳴りつけると、泉に入って行く。

 「うわっ? なんだいこれは」

 彼は、泉を満たしているものが水でないことに気が付いた。 生暖かく、妙に足に絡みつくようだ。

 「どーしたのー……」

 パシィがからかう様に言い、周りの娘たちが囃し立てる。 頭に血が上ったリンは、ザブザブと音を立てて泉に入っていき、

パシィの手を掴む。

 『それっ!』

 号令とともに、泉の中の娘たちがリンに抱きつき、服を脱がし始めた。

 「やめろ! そんなことをしてる場合か!」

 怒鳴りつけるが多勢に無勢、リンは裸に向かれてしまった。 娘たちは、リンの服を持ったまま泉の中央に泳いで逃げていく。

 「こら、返せ! 上がってこい!」

 『嫌、寒いもの』

 パシィ以下、娘たちはクスクス笑って拒絶する。 リンは舌打ちすると、踵を返して泉から出ようとした。

 「……」

 冷たい風が体を撫で、服の無い濡れた肌の毛を逆立てさせた。 リンは思わずしゃがみこみ、泉に体を沈めた。

 「ち、畜生」

 暖かい泉の水が冷たい風を遮り、逆立った毛が静まる。

 「ふぅ……あいつら……」

 忌々しげに呟き、離れたところに行ってしまった娘たちを睨んだ。 一方で、他の四人は、泉のほとりでどうしたものかと

ひそひそと話し合っていた。

 
 フフ……キャハハッ……

 リンは娘たちの戯れを眺めつつ、パシィを捕まえる方法を考えていた。

 「……」

 生暖かい泉の水が彼の肌を優しく包み、さざ波が彼を愛撫する。 そして香しい霞が彼の尾行を満たす。 柔らかな心地よさに

パシィに感じた怒りすら、消え失せていくようだ。


 ”リーンー……”


 遠くからパシィが゜呼びかけてきた。

 「ああ、なんだ」

 わざとぶっきらぼうに答える。 そうしないと怒りが持続できない様な気がした。


 ”いい気分でしょう……”


 「んー……まぁな……」


 ”貴方も、仲間になりなさいよ……”


 「仲間?……なんかしらんが……お断りだ……」


 ”そーうー? でも大丈夫よ……”

 
 「そうか?……」


 ”この泉に浸っていれば気が変わるわ…… この泉はパイパイパー様のお乳だもの……”

 
 「なにぃ!?……」

 リンはぎょっとして、立ち上がろうとする。 しかし立ち上がる前に驚きの感情が見る見る消え失せていく。

 「……」

 しばし所在無げに佇んだ後、リンは再びしゃがみこんで泉に身を浸す。

 「はぁ……」

 生暖かい乳に包まれると……いや、乳に『抱かれる』と心が落ち着き、何も、考えたくなくなってくる。


 ”ほーら……気が変わったでしょう……”


 「あぁ……なんだか……」


 ”ふふ……さぁ……おいで……一緒に気持ちいいこと……しましょうよ……”


 パシィ達の招きにリンは逆らうことできなかった。 いや、逆らうつもりもなかった。 彼はゆっくりと泉の中央に向かう。

 『おい、リン! やめろ!』

 畔の4人慌ててリンを呼ぶが、彼の耳に彼らの声は届いていないようだった。

【<<】【>>】


【パイパイパー:目次】

【小説の部屋:トップ】