パイパイパー

1.巡視達の災難(13)


 白い闇の中でタ・カークはもがいていた。 ゆるゆるとまとわりつき、ねっとりと生暖かい闇の中で。


あ…… ふぁ……


 (シタール……)

 なじみのある声が、一筋の光となって闇を裂く。 闇が白から黒へ転じ、体の感覚が戻ってくる。 


パイパイパー……


 (なんだ?……くっ)

 意識を無理やり引きずり上げ、渾身の力を込めて瞼を開く。 光がタ・カークを現実に引き戻した。


 ああ……

 いい……


 最初に目に入ったのは、村の女たちと戯れるシタールの痴態だった。 女たちは、全裸で互いの体を絡め、異形の

生き物の様に蠢いている。

 「あれは……ウースィ女」

 女たちの間から、ウースィ女の立派な体が見え隠れしている。

 「どういう事だ、これは」

 ”皆で楽しんでいるの”

 威厳のある女の声が背後から聞こえた。 タ・カークは素早く身をかがめつつ振り向き、腰の短剣を抜いた……つもり

だったが、手が空を切った。 

 「ちっ」

 タ・カークは自分が裸である事に気が付いて舌打し、声の主を目で探す。 そちらに人影はなく、白い柱が二本見える

だけだ。

 「柱……いや、足か。 すると……」

 視線を上げていくと、自分を見下ろす女と視線があう。

 (女の巨人……ここはやつの住処か?)

 タ・カークは腹に力を入れ、女巨人を睨み付けた。

 
 「礼儀を知らん奴だ。 初対面の相手を見下ろすとは」 タ・カークは呟いた。

 ”威勢がいいな。 では……”

 不意に女巨人の背が縮み始めた。 いや、足が地に潜っていく。 潜るというのは正しくないかもしれない。 巨人の足は、

床を通り抜けているのだから。

 「おおっ!?」

 地面に潜る魔物はいる。 しかし、巨人が地面に潜る、いや床を通り抜けるなど聞いた事がなかった。 しかし、タ・カークの

眼前にいる巨人は、それをやっている。

 ”これでよかろう”

 巨人は腹のあたりまで床に潜り込み、胸から上が床の上に出ているところで止まった。 彼女の顔は、まだかなり上のほう

にあるが、さっきよりは大分近くなった。 

 (うーむ、目の辺りなら素手でも……いや、あれが邪魔だな)

 彼と巨人女の間には、でっかい乳房の丘ができていた。 巨大な乳房は床の上に乗り、重そうにひしゃげている。

 (まてよ、ということは乳房は床を抜けられないのか?)

 ”さて、人間。 我に尋ねたいことがあるようだな”

 「ああ、いろいろとな。 お前は何だ?」

 ”私は神の眷属。 私の名はパイパイパー。 見知りおくがよい”

 「神だと? 魔物の手下を従えて、村人をさらう神様か?」 タ・カークは鼻で笑った。

 ”魔物の手下などいない、フフッ…… 時に、お前は私の言葉がわかる、なぜだと思う?”

 「?」

 ”お前が、わが乳を口にしたからだ”

 「……俺が? お前の?……」

 タ・カークは、パイパイパー神が何を言いたいのか判らなかった。 が、不吉なものを感じ、じりじりと後ずさりする。

 パイパイパー神(?)は赤い唇を笑みの形に歪めた。

 ”おいで……”


 「!」

 タ・カークの全身の血が騒ぎ、狂おしいほどの欲求が沸き起こる。 パイパイパー神のもとに駆け寄りたい、その思いが

体を支配する。

 「こ、この」

 渾身の力を込めて踏みとどまろる。 しかし、じりじりと体がパイパイパー神の元に引き寄せられる。 いや、実際には彼自身

が近づこうとしているのだ。

 ”フフ……なかなか大したものね。 可愛いわ”

 「うあっ」

 褒められた。 そう思った瞬間、体を歓喜の感情が貫いた。 気が遠くなりかけたのを堪える。 が、その間にパイパイパー神

との距離が縮まっていた。

 「ひっ!」

 目の前には、お供え物のように神々しい乳房が並んでいる。 パイパイパー神のサイズに見合った巨乳は、彼の背丈を

はるかに超えている。

 「よ、よせ」

 突き出した手が、白い神の果実に触れた。 

 「……?」

 手に何かがふれた感触がしない。 さては幻かと思った瞬間、手の先から甘ったるい波が伝わってきた。

 「な、なんだこれは?」

 手に触れているものから、優しく滑らかなうねりが伝わってくる。 それが、神の肌に触れた感触だと気が付いた時、タ・カーク

の意識はそのうねりに呑まれようとしていた。

 「うぁ!?」

 足が止まらない。 体が勝手に乳房の谷間を目指している。

 「……!」

 白い谷間に体がゆっくりと沈み込む。 数旬の後、あの優しく甘ったるいうねりが、彼を包み込む。

 「……た……だめだ」

 拒絶の言葉もむなしく、タ・カークの体はパイパイパー神の胸の谷間に消えた。 そして、神の乳房がゆったりとうねり始めた、

獲物を咀嚼するかのように。 

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