パイパイパー

1.巡視達の災難(12)


 タ・カークは、村人の案内役と猟師二人を伴い、川筋沿いの道を上っていた。

 「これだけで大丈夫か」 猟師の一人が不安げな声をだす。

 「ウースィ女相手で、追い払うだけならな。 巨人女が出て来たときは逃げる」

 「逃げる?」 案内役の村人が振り返った。 「みんなを助けてくれるんじゃないのか? 俺の女房も連れていかれたんだ」

 「ああ、判るよ。 だが、アンタらの安全も守らなければならないんだ」

 タ・カークは、村人の肩に手を置く。

 「逃げるのは最後の手段だ。 たが、そういう事もあるんだ」

 村人は不安と期待が混じった表情でタ・カークを見返す。 一方、猟師たちのほうは平然としている。

 「対処できない相手が出てきたら、とっとと逃げ出す」「当然だな」


 昼近くになって、彼らはようやく川筋の取水口にたどり着いた。 この取水口が、村まで通じているはずなのだ。

 「川の中じゃないのか」

 土手に開いた取水口の前は、乾いた河原が広がっている。

 「雨季の、それも一日かそこらだけここに水が入るだ。 んでねぇと、井戸から水が噴き出してくるだ」

 タ・カークは頷いて、地面を調べる。

 「中は土、昨日今日誰かが出入りすれば土で汚れるはずだが……その形跡はない」

 「するとこの中か?」 猟師の一人が呟くように言った。

 「そうだな」

 タ・カークは、カンテラを取り出して火を入れて中を照らす。 取水口は人の背丈ほどもあり、注意すれば立ったまま進めそうだ。

 「この先は?」

 「村の井戸まで、ゆるゆる下っていくだが、中ほどで狭くなってるだ」

 「一本道なのか」

 「道じゃねぇが、その通りだ」

 タ・カークはもう一度頷いた。

 「アンタは、ここで待っていてくれ。 アンタらは……」 タ・カークは猟師二人を見る 「俺の後に続いてくれ」

 「ああ」

 「判った」

 村人を残し、タ・カークは猟師二人を連れて中に入った。


 「風があるな」

 「うむ」

 微風と呼ぶ程度だか、空気が動いている。

 「ウースィ女なら、なんとか潜り込めそうだが……」

 「いや、無理だろう」

 「じゃ、この中にいるのはなんなんだ?」

 「……」

 会話が途切れ、三人は黙々と進んでいく。


 ……カー……

 不意に誰かの声が聞こえた。

 「おい!」

 「今のは……前からだ!」

 三人は歩みを早やめた。 と、前方に影が浮かび上がった。

 「!」

 すかさずダガーを抜いて構えるタ・カーク。

 「タ・カークなの?」

 聞きなれた声が、彼の名を呼んだ。

 「シタール!?」

 カンテラをかざすと、暗がりの中にシタールの顔が浮かび上がった。

 「おお、女の護衛さんだ」 猟師が安堵の声を出した。 「無事だったか、よかった」

 「シタール無事か……おい、裸じゃないか」

 近寄ってきたシタールは、一糸まとわぬ姿だった。

 「タ・カーク?」 シタールは小首を傾げ、僅かに笑った。 「どうしたの」

 タ・カークは、目を凝らして同僚の体を見つめている。

 「そんなに見ないでよ」

 恥じらうように、身をよじるシタール。

 「傷はどうした」

 「?」

 「肩の傷はどうした? 腕にあった爪痕は? 足にあった噛み傷は?……第一」

 タ・カークの視線の時で、シタールの見事な胸が揺れた。

 「お前、そんな胸じゃ皮鎧が着れんだろう」

 シタールが妖しく笑い、その胸を手で隠そうとする。 いや、手で胸を支えた。 

 「!」

 タ・カークがしゃがむのと、乳首から、白いものが彼の顔めがけて迸るのが同時だった。

 「むわぁぁぁ」

 迸りは、背後の猟師の顔を捉えた。 

 「ぼわぁ、どれねぇ」

 猟師の顔に、白い粘ったものが張り付いた。 剥がそうとするがとれない。 しばらくもがいてから、猟師は昏倒した。

 「うひぁ」

 もう一人の猟師は、仲間が倒れたのを見ると、脱兎のごとく逃げ出した。 あっという間に姿が見えなくなる。


 「シタール!」

 タ・カークは仲間の名を呼んだ、シタールは妖しい笑みを浮かべたままタカークに抱き着き、その胸に彼を抱え込む。

 「むわっぶ」

 柔らかい乳房が、彼の顔を包み込み、視界を遮った。 続いて、頬にあたる乳首から暖かいものが迸りる感触。 そして

乳臭い温もりが顔面を覆う。

 「むをぁぅぅ……」

 意識が白い闇の中に沈んでいく。

 「いい夢を見て」

 シタールの声を最後に、タ・カークの意識は途絶えた。

【<<】【>>】


【パイパイパー:目次】

【小説の部屋:トップ】