パイパイパー

1.巡視達の災難(8)


 あ、あぁぁぁぁ……

 カリアの口から喘ぎ声が紡ぎだされ、闇の中に消えていく。 普通、人はかような場所では闇に潜む獣や

魔物を恐れ、息を殺す。 しかしカリアは、恐怖を忘れたかの様に身もだえ、日に焼けた肌を白く染めていく。

 チュク、チュク……

 皺の間を滑る指に女の蜜が絡みつき、隠微な物音を立てる。 カリアの指は滑らかに動いて、隠れた欲望を

あますことなく引出している。

 ”もっと……良くなるがいい”

 天井から糸の様に細い乳が滴り落ち、カリアの下腹部を白く染めた。

 あっ……

 やたらに粘っこいそれは、カリアの臍の下で粘っこい塊を作っていたが、やがてまとまって流れ始めた、カリアの

女自身めがけて。

 ……

 カリアは動きを止め、待った…… それが、彼女自身に流れてくるのを。

 あ……

 柔らかく粘っこいそれは、優しい温もりでカリアの女性自身を包み込んだ。 白い粘体が緩やかに波打ち、その下で

カリアのものが震えているのが判る。 いや、それとも……

 「あっ……もっと……もっと」

 カリアが誘うように腰を揺らすと、その粘体は彼女が望むように動き、彼女自身に粘りつき、そして中に入っていく。

 「ぁ……」

 ひくひくと腰が震える。 彼女の中に入ってくる粘体が、甘い、とても甘い悦楽を与えてくれている。 他の一切が消え

失せ、その暖かな悦楽だけが全てとなる。 床に横たわり、ただ快楽の中に浸り切ったカリアの耳に、『声』が忍び込む。

 ”私のしもべになるがよい……そして……”

 「は……い……あっ」

 カリアの心に『声』が浸み込んでいく。 そして彼女は『声』の忠実なしもべとなった。


 「どういうことだ!」

 村長が怒声を上げ、見張りを担当していた村人が首をすくめる。 いや、村長だけではない。 何人もの農夫が怒りの

表情を見せて詰め寄っている。 無理もない。 朝になってみれば、村の女が行方不明になっていたのだ、それも五人も。

 「お前らどこを見張っていたんだ!」

 「み、見張っていたさ。 そう、村の中や境界を交代で見回りってたんだ、一晩中!」

 見張りも言い返し、険悪な空気が辺りに流れる。

 「落ち着いてください」

 ティ書記官が間に入ったが、彼を見る村人たちの目もきびしい。 見張りの指揮をとっていたのは彼の護衛たちなの

だから。

「落ち着け? ほう、この状況でどう落ち着けというのかね」

 「ここで怒鳴りあっていても意味がありません。 まず、行方知れずになった方たちの捜索を行うべきかと」

 「捜索だと? 正気かね、五人の人間が行方知れずになり、森にはウースィ女やら巨人やらがうろついていると

いうのに」

 「では、この村から逃げ出しますか?」

 村長は言葉に詰まった。

 「まず、状況を掴むのが先決です。 男は樵、猟師の方たちとともにかたまって森を捜索してください。 女子供は

村の中を捜索します」

 「村の中?」

 「昨夜は見張りがたっていました。 五人もの女性を村の外に連れ出すのは困難です。 ひょっとすると、村の中に

いるかもしれません」

 「まて、女達が自分から隠れているというのか?」

 「そうではありません。 考えられる場所をすべて探すべきかと」

 「ふむ、しかし……村の中に居ればすぐ判りそうなものだが」

 「普段人が入らない場所を探すのです。 集会所の屋根裏、床下、それに……」

 「井戸はどうだ」 猟師の一人が声を上げた。

 「ええ、そう言う場所を探してください」

 村人達は、ティ書記官の提案に従い捜索を始めた。 その間にティ書記官と村長、それに村の主だった者たちが

善後策を相談する。

 「どうすべきか……」

 「村から離れちゃどうだ。 魔物が近くに住みついたとなりゃそれが一番だ」

 「ドドット、気楽に言うな。 村の人たちが生きる術の全てはここにある。 持ち運べるものじゃない」

 「だが、魔物に襲われりゃそれまでだ」

 皆から意見は出るが、いい知恵はでなかった。

 そうしているうちに、村の中を捜索していた村の女性がやってきた。

 「井戸の中に?」

 「んだ」

 女が見せたのは、革製のサンダルだった。 

 「水に浸かってそれほどではないな。 行方知れずの誰かのモノか?」

 「たぶん」

 「井戸の中は?」

 「……」

 女が首を振った。 調べていないと言うことだろう。

 「ドドットさん」

 ティ書記官が、ドドットを見た。 調べてきて欲しいということだ。

 「いや。 シタール、タ・カーク」

 「うん全員で行こう。 先にだれかやって井戸に近づかないように伝えてくれ」

 護衛たちは近くの納屋に入って、ロープや大工用具を用意した。

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