パイパイパー

1.巡視達の災難(6)


 ティ書記官ら一向は村の中心に戻ると、ゴー村長と共に教会に入り、今後の方針を話し合った。

 「パイパー村の住人は、畑仕事、ウースィ飼い、ババ飼いで生計を立てている者がこの辺りに居を構えております。 

村人の八割ほどですな」

 「残り二割は?」

 「樵、木運び、筏衆がおります。 森の木を切り出し、下流の町に流して売っていますな。 もっとも、一部の樵以外は町の

材木商いお抱えの者で、二巡り前(約二年)前に移り住んできた者達ですな」

 都市や町で大掛かりな工事が行われるとき、石工や樵を近在の村に住まわせ、資材を調達する事がある。 この村でも

それが行われているようだ。

 「使える木も豊富だし、川の水かさも十分。 理想的ですね」

 「はい、お陰で随分と村にもお金が入ってきました」

 村長は笑顔で応じたが、ティ書記官は何やら思案顔だ。

 (ふむ、すると町の職人が森の中に住み着いて二巡りか……)

 ちらりと視線をブラザー・クストに投げかける。

 「ブラザー・クスト、この村では森か川に対しての禁忌はなかったのですか?」

 ミトラ教会は、土着の魔物や魔獣について詳細な情報を持っているが、同様に土着の言い伝えや風習も集め、整理している。

過去、その土地にいた魔物に対する情報が含まれている事があるからだ。

 「強い禁忌はありません。 森に獣が出るとか、死人を葬るな等の風習はありますが……」

 「さよう。 採りすぎるな、地の恵み、水の恵みに感謝の心を持てと、子供らには言い聞かせますがな」

 「ふーむ」

 ティ書記官は唸った。 彼は、新参者である町の者が、何か禁忌を破ったとかなにかしたのかと疑ったのだ。 しかし、禁忌が

伝わっていないのであれば、破りようもない。  その時、村人が一人教会に駆け込んできた。

 「樵のパイクが!?」

 「ああ、町衆(町から来た樵達)が獣道で見つけんだが……いやもう、見るも無残な姿に」 

 「遺体はどうした?」

 「町の連中が触るなっててんで、そのままだ。 『雨も降ってないのにずぶ濡れなのはおかしい』とか言って……」

 「それで正解だ、タ・カークさん行きましょう」

 「はい。 シタール、一緒に来い。 ドドットは残れ」

 「待て、夜が近い」 ドドットは唸るように言った。

 「む……おい、その樵が見つかった場所は近いのか? 森の中で夜になったらまずいぞ」

 「あー……今からだと、途中で日が暮れるな」

 「町衆は? 見張りを残したのか?」

 「いや、皆一緒に村に来ただ。 死人に見張りを残しても仕方ないって」

 「……薄情なようだが、それが正しいな。 書記官殿、遺体検分の必要はありますが、正体不明の魔物が森に潜んでいる

やも知れませぬ。 如何いたしましょう」

 ティ書記官は一瞬考え、すぐに結論を出す。

 「遺体検分は明日行います。 村長、今夜は村の守りを固めた方が宜しいかと」

 「守りを固める?」

 「ええ。 若い人何人かを不寝番にして、朝まで見張りをさせましょう」

 「なるほど……では森に住んでいる者達はどうしましょうか」

 「彼らの住居は? 固まっているのですか?」

 「町衆は筏場(木を筏に組む作業場)に住んでいますが……」

 「町衆の一人が、そっちに走りましただ。 向こうはそれで警戒するだっしょ」

 「となると、昔から森に住んでいる樵や、野宿している猟師達ですな。 誰かを走らせるても、夜までには着かんでしょうな」

 村長の表情が険しい。

 「何か、非常時の合図はないのですか? 川が氾濫しそうだとか」

 「いえ、ここの川は氾濫した事がないので…… おおそうだ、ウースィの角笛があったろう」

 「村長、ありゃ伝えることがある時『皆集まれ』の合図だよ? おまけに今は夕暮れ時だぁ、ありゃ朝吹くもんだ」

 「だから良いのだ。 いつもと違うことが起これば、警戒する者もいるだろう」

 「なるほど、そりゃ道理だ」

 村長は、知らせに来た村人に角笛を鳴らす事と、皆を集めるよう言い含めて走らせた。

 「村長。 では今夜の見張りを」

 「ええ。 まず、村人に説明しないいといけませんが」


 まもなくパイパー村の物見やぐらから、角笛の音色が夕暮れの空に響き渡った。


 パイパイパー……

 パイパイパー……


 「なんか不気味な音だな」 ドドットが不景気な顔で呟いた

 「ああ」 タ・カークは頷く (何かを呼んでいるようだ)

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