パイパイパー

1.巡視達の災難(2)


 「巡視、ご苦労さまです。 村長のゴー・ツックと申します」

 「ブラザー・クストです。 ミトラの兄弟に会え、うれしく思います」

 一行を出迎えたのは、ゴー・ツック村長とミトラ教会のブラザーだった。 

 「初めまして、書記官のティと申します」

 一通りの自己紹介と身分の確認が続く。 少し離れた所で護衛のドドットが横を向いて何か言い、シタールに

たしなめられていた。 


 「……すると、森を駆け抜ける『白い影』を目撃したと?」

 一行は、村の集会所に入り、『ウースィ女』を目撃した樵と話をしていた。 樵の言によれば、目撃する前の晩に

森から木の折れる音が響いてきたので、翌朝そこに行き、途中で『白い影』を見たというのだ。

 「ですが、なぜその『白い影』が『ウースィ女』だと判りましたか?」

 「行ってみりゃ判る」

 ぶっきらぼうな口調で樵は言い放つ。 ティ書記官は首を傾げ、護衛たちは顔を見合わせた。

 「村長?」

 「そうですな……とにかく行ってみませんかな。 見た方が早いでしょう」

 ティ書記官は村長の物言いが気になったが、どうやら行ってみるしかないと判断し、村長、ブラザー、樵、そして護衛と

連れ立って、森に向かった。

 
 森は村はずれから始まり、山に向かうなだらかな斜面を覆っていた。 村からの道は、森の手前で二つに分かれ、

一方が森の奥に通じ、もう一方は森を避ける様に曲がっていた。

 「あちらの道は?」

 「森を回って行き、この先で川縁にでますな。 その先は川縁に沿う形で上流と下流に分かれていますな」

 「ははぁ、木運びの道ですか」

 森で木を切り出した後、遠くに運ぶ場合は川を利用する。 この道は、川まで木を運ぶのに使われているらしかった。

 「では参りましょう」

 一行は、森へ続く道を進む。 しばらく歩くと、それが目飛び込んできた。

 「こいつは……」

 護衛のタ・カークが言葉を呑み込んだ。 道に近い森の中で、木が何本も倒れている。 もちろん枯れた木が倒れる

ことは珍しい事ではない。 しかし、目の前で倒れている木は折れ口が白く、生きていた証がある。 それがまとまって

いるのだ。

 「何がやったんでしょうか……」

 ティ書記官もかたい顔で首をひねっている。

 「わっしらにも見当がつかんのです、こっちの方は」

 「こっち?」 

 ティ書記官は聞き返した。 まだ、何か見せるものがあるのだろうか。 が、樵は何も言わず、ずんずんと歩き出す。 

一行は顔を見合わせ、樵の後を追った。

 「……おや」

 不意に森が途切れ、原っぱに出た。 原っぱのにはで茶色い山肌が、厳しい傾斜を見せていて、そこには草も木も

生えていない。 色からすると岩ではなく、土の急斜面のようだ。

 「ほう、粘土ですね。 土器が作れそうだ」

 「おお、よくお分かりで。 ここは土器を焼くための土を取る場所なのです」

 村長が説明している間に、樵はずんずんと茶色い地面に向かって真っすぐに、いや右に行ったり、左に行ったり

している。

 「どうした?」

 「よくわからんが、あちこち穴があいてるんだ。 気いつけや」

 樵の後を追う様に進むと、確かに野原のあちこちに穴が開いたり、凹凸ができている。 草が押し付けられたように

倒れているところもある。

 「この辺りの地面は、随分柔らかいな」

 「そのようですね……あれは?」

 ティ書記官は、樵が何か指さしているのに気が付いた。 彼は、山肌の一角を指さしている。

 「これは……?」

 「なにですか、これは」

 山肌の一部がへこんでいた、人の形に。


 「うーむ身の丈は俺たちの1.5倍はありそうだな」

 「みろよ、頭の両脇のへこみ。 あれは角だぞ」

 樵が彼らに見せたのは、粘土質の山肌に刻まれた『ウースィ女』の雌型だった。 柔らかい粘土に『ウースィ女』の

特徴がもれなく刻まれている。

 「ううむ、みろあの胸のへこみ。 『ウースィ女』として、かなりの大きさだぞ」

 「うむ? まて、するとあの穴ぼこは乳首の跡か? 何という大きさだ」

 『ウースィ女』の雌型を元に、護衛とティ書記官が跡を残した『ウースィ女』について討議していた。 少し離れた所で、

女性の護衛シタールが、もう一人の女戦士ジーマと話をしている。

 「真面目な口ぶりだけど、胸や乳首の大きさを推測してどうなるってのよ」

 「全く、男ってのは……」


 「なるほど、この雌型から『白い影』は『ウースィ女』だと」

 「そうだ」 むっつりと樵は応えた。

 「ふーむ……しかし、この『ウースィ女』一人で、森の中をあれほど荒らせるものなのか」

 半ば独り言のティ書記官の呟きに、タ・カークが応える

 「無理でしょうな。 何日もかけたならともかく一晩じゃ。 第一、森を荒らす理由はなんです?」

 「全くです。 『ウースィ女』がここに跡を残した理由も判りませんが」

 シタールが、半ば投げやりに応じる。

 「理由なんか、無いんじゃない? 例えば、何かを追いかけてここまで来たけど、躓いたか何かで、勢い余って粘土に

ぶつかったとか」

 それを聞いてドドットが大声で笑った。

 「そいつはまた、何ともドジな『ウースィ女』だ。 こけて、崖に突っ込んだのかぁ?」

 それを聞いたティ書記官がはっとする。

 「シタールさん! 済みませんがこの斜面を登ってみてもらえます」

 「は?」

 「途中まででいいんです、そして上から……」

 ティ書記官は、シタールに何やら耳打ちする。 シタールは頷いて、機敏な動作で粘土の急斜面を登っていった。

 「なんだ?」

 「いま判ります」

 シタールは人の背丈の10倍ほど登り、そこで後ろを見た。

 「!」

 シタールさぁぁぁぁん、どうですかぁぁぁぁぁ

 下からティ書記官が大声で呼ばわっている。

 「あ、あんたの言う通りだよぉぉぉ。 森の荒れた所は足跡だぁぁぁぁ そしてぇぇぇぇぇ」

 シタールは下を見ながら叫ぶ。 柔らかい原っぱに刻まれた凸凹は、上から見たら人の形をしていた、身長が人間の

10倍ほどの。

 「あんたら、巨人女の雌型の中に立っているんだよぉぉぉ」

 ……巨人女ぁぁぁぁ?

 「後ろをみてみぃなぁぁぁぁぁ。 でっかい、おっぱいの窪みがぁぁぁみえるぅぅぅぅ」

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