ヌル

エピローグ


 あ……ぁぁぁ

 女が上げる悲鳴は途中から悦楽の呻きへと変じていく。 砂地の上で身をよじる女の両足を、粘液を滴らせたヌル・メイドが押さえ、別の一人が女の秘所を

丹念に愛撫している。

 「す、すごい……溶けちゃいそう……」

 グチャグチャと卑猥な音を立てる秘所は、愛の滴を湧き立たせる泉と化している。

 「フフフフ……」

 女の股間を、異形のナメクジの様なヌル・レディの手が嫌らしく這いまわる。 そして巣穴に潜り込むように、ヌル・メイドの手、いや腕が女の秘所へと潜り

込んでいく。

 「あ……はぅ……はぁぁ……」

 女の下腹が柔らかく上下し、その動きに合わせて女がビクリ、ビクリとと身を震わせる。 

 「ひぃ……はぅ……」

 ビクンと体を震わせ、女は失神した、

 「フ……ウ……」

 女から少し離れたところに座っている、ヌル・メイドが自分の秘所を弄りながら悶えだした。 いや、メイドではない。 彼女こそ『ヌル伯爵夫人』の成れの

果てだった。

 「ク……ア……」

 彼女は、その秘所から一匹の大きなナメクジ、『ヌル・スラッグ』を産み落とした。 『ヌル・スラッグ』はゆっくりと、しかし確実に失神した女へと迫っていく……


 ア……アア……

 『ヌル・スラッグ』に取りつかれた女は、再び快楽の呻きを漏らしはじめた。 砂の上でゆっくりと身をよじり、人以外の物へと変貌していく。 その女を守る

様に、『ヌル・メイド』が二人、傍で様子を見ている。

 「外へ……でる時では?……」

 かってメイド長とよばれていた『ヌル・メイド』が、伯爵夫人へと声をかけた。

 「……」

 伯爵夫人は静かに立ち上がり、辺りを見回す。 鷺区のように細かい砂が敷き詰められた地面に、柱の様に枝葉のない木々が整然と生え、上を見上げ

れば、無数にのびた枝が絡み合って、真っ暗な天井を形作っている。

 「ここは……森のなかですか……」

 「はい……よく覚えていませんが……たぶん……」

 「私もです……長く眠っていたのは判りますが……昔の事は……ぼんやりとしか……」

 伯爵夫人は、ぐっしょりと粘液で濡れたそ男の服を拾い上げ、その下にあった金属製の『鍋』を大事そうに拾い上げる。 理由は判らないが、これは大事

なものだと判る。 命に代えても守らなればならないと。

 「……これはなんでしょう?」

 メイド長が地面を指さす。 そこには四角い石が置かれ、その表面には細かい文字が彫り込まれていた。 伯爵夫人は身を屈め、石に刻まれた文字を

読んだ。


 『伯爵夫人様へ。 俺はあんたの旦那にやとわれた、ドドットと言う名の護衛だ。 館にいた護衛の一人で、あんたとも顔を合わせたが、俺と会った時に、

あんたはもう『ヌル』になっていたから、俺の事を覚えていないかもしれないが。 これを読んでいるという事は、まだ『魔女』があんた達とあんた達が守って

いる『ヌル』を、人に戻せていないことになる。 ところで、あんた達の体は百年ほどで寿命が来る。 寿命が来ると、あんたたちは産める限りの『ヌル・スラ

ッグ』を産み、その後息絶えるそうだ。 さて、ここからが本題だ。 あんたたちの周りにある柱の様な樹は、滋養に富んだ樹液を蓄えていて、あんたたちが

そこで眠りにつく前は、千人ほどのスライムねーちゃん達がその樹液で命を繋いできたそうだ。 その樹液を吸いながら眠り続ければ、寿命はもっと伸ば

せるらしい。 寿命を延ばせれば、その間に『魔女』があんたたちを人に戻せる可能性が増えるだろう。 確実とは言えないが。 樹に取りついて樹液を舐め

ていれば、自然にあんたたちの体は『眠り』の状態になるはずだ。 俺は護衛として雇われたが、結局誰一人守ることはできなかったことを悔いている。 

だから、せめてあんたたちが人に戻れる手助けをしたいと思い、これを残した。 試してみてほしい』


 伯爵夫人は顔を上げ、不思議そうにメイド長と顔を見合わせる。

 「これは……『ここで待て、外には出るな』ということでしょうか?」

 「そうやも知れません。 『ドドット』なる者に覚えはありますか?」

 メイド長はゆっくりと首を横に振る。

 「自分の名前も思いだせません……」

 「そうですか……」

 伯爵夫人は、周りで眠っていた他のヌル・メイド達が目覚めるのをぼんやりと見ていた。 衝動のままに男を襲い、後からやってきた女を愛した。 やがて

女は自分たちと同じになるだろうという事が、漠然とわかる。 内なる衝動は、時がない、血を残すべきだとざわめき始めている。

 「……ドドットとやらの勧めを試してみましょう。 いずれにしても、ここは乾きすぎています……」

 「はい……」

 メイド長は、手近の樹に体を預け表面を舐めた。 乾いているように見えた樹皮に、蜜の様な液体がにじみ出てくる。 メイド長は、慎重にその液体を味

わってみる。

 「……どうです?」

 「はい、大変甘い味がします」

 そう答えたメイド長は、唇を樹皮にあてがい、そのまま動かないでいてみた。 すると、『蜜』は途切れることなくしみだしてきて、口の中へと流れてくる。 

しばらくそのままでいると、眠気を感じてきた。

 「どうやら、石の文に書かれていたことは本当の様です」

 メイド長が答えると、伯爵夫人は頷いた。

 「そうですか。 いま外に出ても、どうなるかわかりませんね。 ここはドドットさんの伝言を信じ、ここで待つことにいたしましょう」

 伯爵夫人たちは、女が自分たちと同じになるのを待ち、その後金属製の容器『鍋』を抱えて、樹に一人ずつ取りいた。

 「……」

 さしたる時間もなく、ヌル・メイド達は眠りに落ち、体を覆う粘液は乾いて幕の様になった。 やがて森の底に静寂が戻ってくる。

 「……」

 眠りに落ちる前、まどろみの中で伯爵夫人は自分の腹をそっと撫でた。

 「あなた……」

 自分でも呟いた言葉、その意味を思い出そうと努めたが、ついに思い出せぬままに伯爵夫人は深い眠りに落ちていった。

<ヌル 終 2018/2/18>

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