ヌル

第五章 ドドット(12)


 「ぐぐぐ……」

 息も絶えだえのドドット。 その眼前には、白銀の見事な乳房が重々しく揺れている。

 「重々しい?」 

 いや……美しい乳房がたわわに実った果実の様に揺れている。 しかし、ドドットにはそれを鑑賞している余裕はなかった。 今や、彼の体はアルテミスの

圧倒的な重……女体の圧力に押しつぶされる寸前だった。

 「このままでは……」

 「ドドット! 耐えろ」 スカーレットが励ます。

 「力を出して」 プロティーナが声援を送る。

 「ドドットさん。 ここは『仮装現実』の中よ」 ライムが言った。

 「だ、だったらどうだと言うんだ?」

 「現実の体は、アルテミス姉さんが転じたボードの上に乗っているの。 いま感じているのは、偽の感覚なのよ!」

 「そ、そうなのか?」

 アルテミスの下で、声を絞り出すドドット。 そんな彼を、心配そうにスカーレット、ライム、プロティーナが見ている。

 「ライム。 偽の感覚でも『痛い』とか『苦しい』とか感じるのなら、本物の感覚と変わらないだろう」

 「でも、本物の体にダメージはないわ。 要はドドットさんの心の持ち方次第のはずよ」

 「そうなのか?」

 「『ジョーカー』さん(シスター・エミの偽名)が言っていたもの」

 ライムとスカーレットが話している間も、ドドットの体はアルテミスの下でミシミシと悲鳴を上げていた。

 「こ、このままだと『腹下死』という事になるのか?……いや、ライムの言う通りなら死ぬことはないのか……」

 苦しい息を吐きつつも、ドドットはアルテミスに『下りてくれ』とは言わなかった。

 「一度俺が下になると言っちまったものな……一回ぐらいはいかないと、男のメンツが立たん」

 もっとも『いく』前に『逝く』かもしれんなと考えつつ、ドドットは体に力を込めた。

 「俺の気の持ちようだと言うのなら……ぬぉぉぉぉぉぉ……ぉぉぉぉぉおっ!」

 ガクッ!

 「え?」

 『ええーっ!?』

 いきなりアルテミスの体が跳ね上がり、ドドットの上でリズミカルに前後し始めた。

 「ああっ、いきなり……ああっ、こんな……」

 銀色の尻の下で、赤銅色に輝くドドットのモノがアルテミスの中に出入りしている。 

 「うおっ……な、なかは……」

 白銀の彫像に見えるアルテミスの中は、意外なくらい柔らかく、暖かかった。 外見とのギャップにドドットは一瞬戸惑ったが、すぐにアルテミスへの愛の

『攻撃』を再開する。

 「でやっ、どおだ、このっ!」

 「ああ、そんなに激しく……ああっあああっ……」

 あっけにとられていたライム達だったが、はっと気が付くと、身をかがめて激しく動く二人の間を覗き込んだ。

 「……凄っ。 何この腹筋」

 「8つに割れてる……」

 「これはあれだな。 『自分はこのぐらいおも……いや女は支えられると思い込んで』その力でアルテミス姉を腹筋だけで持ち上げたんだな」

 三人は、半ば呆れて顔を見合わせて呟いた。

 「凄い筋力……」

 「男の力だ……」

 「凄い精神力……」

 ガンガンと責められるアルテミスが、深々と喘ぐ。

 「ああ……これが愛の力なのですね……」

 ドドットがこっそりと呟く。

 「ただの力技だと思うがな……」


 --現実世界−

 「凄いスピード……『ヌル・メイドズ』の力を過小評価してたかしら」

 望遠鏡を覗いたまま、シスター・エミは呟いた。

 「おっ、ライム・ドドットが加速した。 ドドットが頑張っているようね」

 「大丈夫でしょうか」

 エミの傍に座り込んでいる黒いフードを被った女が、心配そうにつぶやいた。

 「貴方の姉妹を信じなさい、アクエリア」

 エミの背後の黒い塊が、黒フードの女に言った。

 「大丈夫でしょう。 今は下り坂で加速しているけど、湖のほとりは平坦よ。 追い付かれることはないでしょう。 それよりアクエリア。 詰めは貴方にかかっ

ているわ、お願いね」

 「ええ」

 アクエリアと呼ばれた黒フードの女を、スライムタンズ・サウザンドの数人が持ち上げ、そのまま背後の森の中へと運んで行った。

 「うまくいきますか?」

 黒い塊がエミに尋ねた。

 「森の中央の木の根元まで誘い込めれば大丈夫よ」

 エミは立ち上がって、膝についた土を払う。

 「水を操るアクエリアの力があれば、『ヌル・メイドズ』と伯爵夫人の周りを乾燥させることが出来るわ。 そうなればあの人たちは、粘液を硬化させて冬眠

状態に入る。 後は森の木が乾燥状態を維持してくれるわ」

 「強力な吸水力で周りの水分を吸収し続ける『ドレーン・ツリー』……それも、あの災厄の時に作られた植物ですか」

 黒い塊の前面に、ふくよかな女体が現れた。 黒一色の女体の背中は背後の黒い塊と繋がっていて、一つの生き物のように見えた。

 「おかしな話ですね。 災厄の中で生み出された脅威『ヌル』を、同じ時に同じ技術で作られたモノで封じるとは……」

 エミは、黒い女性を振り返る。

 「結果としてそうなっただけよ。 もともとこの森の木は、地盤が脆弱な土地を改良する目的で作られたの。 文明が失われていく中で、機械で行っていた

作業を生物で代用するためにね」

 「しかし、結局はその目的で使われることはなかった……」

 「使うはずの文明が崩壊してしまったから」

 さらりと言ったエミは、望遠鏡を取り上げた。

 「今は感傷に浸ってもしょうがないでしょう。 騒ぎを収めるために、やれることをやるだけよ」

 「私たち自身を守るために……ですか」

 「ええ」

  
 --仮装現実−

 「この、この、このっ!!」

 「ああっ、ああっ、ああーっ!!」 

 アルテミスを支える為に力を振り絞るドドットは、結果として激しくアルテミスを責め立てることになってしまった。 ライム、スカーレット、プロティーナに力を

与えたため、ガス欠寸前のドドットだったが、それゆえ果てることなくアルテミスへの責めを長引かせることが出来た。

 「とは言え……ううっ……」

 「ああっ……なにか?」

 「いや……」

 アルテミスの体はやや冷たく、体の中の暖かさとギャップが大きい。 それゆえドドットのモノは、温度差のある女体の感触に翻弄されることになった。 

結果としてドドットは自分のモノがうまく制御できなくなってきた。

 「この……うう……いきそう……」

 「ああ……お願い……もっと……もっとぉぉぉ……」

 「あ……」

 ドドットの体を熱い快感が貫き、銀色の女体に深々と突き立ったモノが激しく脈打った。 そしてアルテミスは、赤銅色のモノから迸る熱い愛に身を震わせる。

 「ああ……熱い……たまりません……」

 「ううっ……ううっ……うううっ!?」

 絶頂に達し、脱力して重なる二人の体……が、しかし

 「ううっ!!」

 力の抜けたドドットの体に、ズッシリとアルテミスの体が圧し掛かってくる。

 「ううっ!!(つ、つぶれる)」

 「ああ、ドドット様。 アルテミスはこんな思いをしたのは初めてです」

 「ううっ!!うううう!!(そ、それはよかったですね。 で、すみませんがどいてもらえますか?)」

 「はしたないとお思いでしょうが……」

 「ううっ!!ううう!!(いえい、そんなことは。 で、すみませんがどいてもらえますか?)」

 「今一度のお情けを……」

 「ううっ!!うううううう!!(そ、そそんな。 流石に重みが……)」

 「……今、『重い』とおっしゃいましたか?」

 「うううっ!!(い、いえ! そんなことは!)」


 「ありゃ絶対判ってるな」

 「うん判ってやってると思う」

 「アルテミス姉様だものね」


  ザ・ライム・ドドットが、『森』に到着するには、さらに湖を半周する必要があった。

  「ううー!!(勘弁してくれー!!)」

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