ヌル

第五章 ドドット(7)


 「むー……」

 ドトットとスカーレットの痴態を見せつけられたライムが、プゥッとほっぺたを膨らませた。 嫉妬している訳ではなさそうだが、あまり面白くないようだ。

 「ライム、膨れてる場合じゃない。 扉を壊さないと」

 スカーレットの言葉に、しぶしぶといった感じで立ち上がる。


 −現実世界−

 「よーし、行くわよスカーレット姉!」

 「扉じゃなくて閂を切れよ。 分厚い鉄の扉を半端に壊したら、かえって開けにくくなる」

 「わかってる!」

 『ライム・ドドット』は、スカーレットが変化した太刀を、扉と壁の隙間めがけて振り下ろす。 狙いは扉と壁の間に見える閂だ。

 スカッ

 気合の抜けた音がして、太刀は振り下ろされた勢いのまま床に食い込んだ。

 (……なんだぁ? 空振りかぁ)

 『ライム・ドドット』の中で、ドドットが呟いた。

 「いいえ」

 ライムが言うと同時に、扉が手前に開き始める。

 「スライム・ソードの切れ味が良すぎて、手ごたえが感じられなかったのよ」

 (うそだろう……鉄の閂が手ごたえ無しに切れたのか……)

 ゴン

 開きかけた扉が唐突に止まり、逆に閉まり始めた。

 「あれ? 閉まっちゃう」

 (引っ張ってみろよ)

 『ライム・ドドット』は、スライム・ソードを赤いグラブ(スカーレットが変身したグラブ)に収納し、扉のハンドルに手をかけて力いっぱい引っ張った。 しかし

扉は閉まり続け、閂を切る前の位置に戻ってしまった。

 「なんか向こうから引っ張ってるみたい」

 (扉の向こうからか? 扉に耳を当てて音を聞いてみろよ)

 ドドットの言葉に頷いて、『ライム・ドドット』は鉄の扉に耳を当てた。 すると、扉の向こうの声が聞こえてきた。

 ”よいしょ、よいしょ”

 ”開けちゃだめよ! 乱暴者のスライム娘が入ってくるから”

 「なんですって!」

 (どうもヌル・メイドが総出で扉を引っ張ってるらしいな。 さっきヌル・メイド達をたちを吹っ飛ばした技で、扉を引っ張れないのか?)

 「あれは……スピードは上げて一人ずつ投げ飛ばしたり体当たりで吹っ飛ばしたのよ。 力が強くなるわけじゃないわ」

 (じゃあ閂と反対側の蝶番を切ればどうだ?)

 「かえって開けにくくなるだけだろう……となると」

 「はーい、プロティーナちゃんの出番でーす」

 とことこっと近づいてきたピンク色の幼女スライム娘が、よいしょっと声をかけて『ライム・ドドット』の肩につかまった。

 「パワード!」「フォームゥ!」

 プロティーナがピンク色のブレスト・アーマーに形を変え『ライム・ドドット』の胸と二の腕に装着された。

 
 −仮装現実−

 「やっほー!来たよドドットお兄ちゃん!」

 「待て待て待て!」

 素っ裸のドドットの前にピンク色のスライム幼女が現れ、彼に抱きつこうとする。 ドドットは慌ててプロティーナの肩を掴んで、距離をとる。

 「『来たよ』じゃない! どーするつもりだ、お前は!」

 「だからぁ。 お姉ちゃんたちと同じだって。 プロティーナも精気がないと力が発揮できないのぉ」

 さぁやろう、と言わんばかりに抱き着いてくるプロティーナ。 しかし、ライムですらドドットの守備範囲ギリギリの年齢で(見かけだけではあるが)、幼女姿の

プロティーナは守備範囲外どころの騒ぎではない。 しかもピンク色のプロティーナは、見た目がスライム娘たちの中でもっとも人間の娘に近い。

 「むー、こんなかわいい女の子が裸で迫っているのに拒むなんて、男として恥ずかしくないの?」

 「馬っ鹿野郎! お前に欲情したら人として失格だろうが!」

 怒鳴りつけるドドットに、プロティーナはふくれっ面で腕を組んでいるが、つるっべたの胸に溝が見えるだけの女性の神秘。 これに欲情する様な男だったら

教会の護衛なんて仕事はしていないだろう。

 「まぁ、それが正常な反応よね」

 「同意する」

 ライムとスカーレットが、さもありなんと言わんばかりの態度でドドットの言葉に賛同する。

 「とは言っても、ここはプロティーナの力が必要なのよね」

 「いや、他にも方法があるだろう? スライムタンズを呼んできて、人海……いやスライム海戦術に出るとか。 そうだ、隙間から中に入る手はどうだ?」

 ドドットの提案に、ライムとスカーレットが首を横に振る。

 「スライムタンズの娘達って、一人一人はあんまり強くないのわ……人数を集めても一度に引っ張れるのは4、5人が限度。 扉の前が狭いでしょ?」

 「待て、丈夫なロープか鎖をかけて皆で引っ張れば……館の倉庫にないか?」

 「いや、倉庫には使えるようなものはないな」

 ドドットは館の警備計画を立てるとき館にある資材も確認している。

 「時間があれば、何か考えつくかも……」

 「時間がない」

 スカーレットが無情に言い放った。

 「ここは、心を鬼にしてプロティーナを抱くしかないな」

 「『鬼』の意味が違うぞ。 どちらかと言うと『鬼畜』だ」

 苦い顔をしたドドットがプロティーナを見た。 プロティーナは胸を張ってにっこりと笑う。

 「……人目がないのがせめてもの救いか……」

 ドドットは巨大なため息を吐いた。


 「んじゃ、手早くすませるか……とは言えどうすりゃいいんだ?」

 プロティーナの身長はドドットの半分ほどしかない。 立ったままではキスもできないが、寝技に持ち込んでも身長差が災いして接触箇所が限定される。

 「えーい、こうなりゃやけくそだ!」

 ドドットはプロティーナの前にしゃがみ込み、そっとキスする。

 「ん−」

 プロティーナは軽く目を閉じ、ドドットのキスを受け止める。 大人相手だったらディープキスへと進むところなのだが、プロティーナ相手だとわが子を慈し

む父親になったようでどうにもやりにくい。

 (まだ胸の方がましか?)

 ましかどうかという問題ではないのかもしれないが、ドドットはプロティーナの顎から首筋へとついばむようなキスを続け、胸元へと降りてきた。

 (……うう、心が痛む……)

 ひどい罪悪感にさいなまれつつ、プロティーナのわずかな膨らみをそーっと舐めて愛でる。

 「うん……」

 プロティーナが微かな吐息を漏らし、同時に彼女の胸がビクリと震えた。

 「お?」

 ドドットは首をかしげた。 彼女の胸がわずかに膨らんだような気がしたのだ

 「気のせいか?」

 「気のせいではないぞ」 スカーレットがドドットの背中を見ながら言った。

 「プロティーナはな、気分が乗ってくると体形が幼女から若い娘へ、そして大人の女の体へと変わっていくのだ」

 「え……えー!?」

 「それも、気持ちよくなってきたところほど、はやく大人の体になっていくの」

 「だから、プロティーナがどんな女になるかで、抱いた奴の好みが判るのだ」

 「はぁ?」

 ドドットは改めてプロティーナの体を見直した。 確かに、胸の辺りははっきりわかるほどに膨らんできている……しかし、他の処はほとんど変わっていない。

 「バランスよく愛してやらんと、ちゃんとした大人の女にならないぞ」

 「そうそう、胸ばっかり愛してると、ロリ巨乳になっちゃうから」

 「げげっ! 先に言ってくれよ、そういうことは」

 ドドットは慌てて胸から口を離す。 そして今度はプロティーナの体を観察しながら、全身をくまなく愛撫していく。

 (最初から大人の女になってくれればいいのに、随分と面倒な話だ……)

 ドドットは心の中で嘆息した
 
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