ヌル

第五章 ドドット(4)


 エミ、ドドット、ライム姉妹は、『モーソー竹アーマー』を運ぶスライムタンズ・サウザンドと共に、月を映し出す湖の岸辺を進む。

 「あれが『モーソー竹アーマー』か? 鎧には見えないが……」

 スライムタンズ・サウザンドが運んでいるのは、何十枚もの反り返った大きな板だった。 表面が青竹色で、どうも巨大な『竹』を輪切りにして、いくつもの

円弧に切り分けたものらしかった。

 「モーソー竹ってあれか? 海の向こうの土地にだけ生える、人が入れるほどでっかい竹で、船の材料に使うやつ」

 「そうよ、よく知ってるのね。 あれはそれがさらに大きく育ったモノを、切り分けたのよ。 元通りに組み合わせれば、馬車が丸ごと入る竹の輪ができるわ」

 「なんに使うんだ?」

 「それは見てのお楽しみ」


 月が天頂から外れかけた頃になって、一行は、館を包囲した『灌木』ズと合流した。 『灌木』ズがスライム娘達の姿に戻り、残りのスライムタンズ・サウザ

ンドが運んできた『モーソー竹アーマー』を何やら組み合わせ始めた。

 「スライム娘が千人もいるとさすがに壮観だな……数にモノを言わせれば何とかならないのか?」

 「時間があればね。 でも夜が明けきる前に、地下の浴場に突入するとなるとこの子たちじゃ無理なのよ」

 エミは答えると、スーチャンと話をしていたライム姉妹を呼んだ。 ライム、プロティーナ、アルテミス、スカーレットがこちらに駆けてくる。

 「さーて、いよいよクライマックス!」

 気合を入れたライムが、ぴょんとドドットの肩に飛び乗った。 ライムの身長は肘から指先までほどしかないので、マスコット人形を肩に乗せているように

見える。

 「ところで、おれは何をすればいいんだ?」

 肩の上でライムがこけた。

 「いままでなに見てたのよ!」

 「そうは言うがな。 なにしろ緑色した女の子……あれは、お前さんに似ていたが……その中からご老体が現れたのを見ただけだ。 『五人の力を一つに

集めて』なんて言ってけど、具体的な行動と役割を説明してもらえるか?」

 説明を求めるドドットに、エミが答える。

 「私も詳しいことは知らないけど、その子、ライムが貴方を包み込んで、いわば『鎧』になるらしいわ」

 「『鎧』か。 するとこの子が守りで、俺が攻撃なんだな」

 「本来はそうなんだけど、そのためにはこの子と動きを合わせる必要があって、それには練習が必要なの。 でもその時間はないわ」

 「なに? じゃどうする」

 「だから、体の動きはすべてライムちゃんに任せて」

 「……じゃ、俺の役割は?」

 『精気の供給源』

 ライムだけでなく、プロティーナ、アルテミス、スカーレットが声を揃えた。

 「……中身が俺である必然性ないじゃないか」

 「そんなことはないわ」

 「そうそう、頼りにしてるから」


 「裏口は鍵がかかってるわね」

 「多分、向こうには『ヌル』メイドさんたちが待ち構えているわ」

 「じゃ、ここからだな」

 ライムがドドットの頭の上に登り、仁王立ちになる。

 「それでは10年ぶりに……粘着!」

 「おわっ!?」

 ライムの姿が崩れ、緑色の液体な変わってドドットを包み込む。 緑色の人形の様になったドドットが、一瞬でスライム超少女『ライム・スター』へと変身……

 ”あ、待って。 昔は外が『ライム』で中は『須田』。 合わせて『ライム・スター』だった”

 ’おおそうか、じゃ今は『ライム・ドドット』だな’

 ”……もうちょっとかっこいい名前に改名しない?”

 ’やだ’


 新生『ライム・スター』改め『ライム・ドドット』は、一撃で裏口をけ破り、中へ飛び込んだ。

 「きゃあ、メイド長! 賊が侵入しました!」

 「慌てないで。 モップとホウキで叩きだしなさい」

 
 ”わ、意外と強い!”

 ’モップやホウキを馬鹿にするなよ。 心得のある奴が使えば、立派な武器になる’

 ”仕方ない……力を貸して”

 'おう、息を合わせるんだな'

 ”違う、こうするのっ!”

 ’な、なんだぁ!?’

 だしぬけにドドットの見ている景色が変わった。 館もメイド達も消え失せ、視界は緑一色に染まっている。 そして、視界だけではなく、さっきまで聞こえ

ていたメイド達の声も、ホウキやモップが床や壁を打つ音も、聞こえなくなってしまった。

 「これはいったい……」

 「わたしの、ライム流の『仮装現実』よ」

 振り向けば、ライムがそこに立っていた。 ただし、身長がドドットと同じぐらいになっている。

 「いきなり育ったな。 これが『仮装現実』だと?」

 「そうよ。 現実では『ライム・ドドット』はまだメイド達と格闘中よ」

 「それなら、こんなことをしてる場合じゃ……おいこら! 俺は裸じゃないか!!」

 慌てるドドットを、ライムが押し倒した。

 「パワーアップのために編み出した必殺技なの。 一気に精気を頂くわね」

 「こら、まて!」

 制するドドットを無視し、ライムがドドットに体を絡みつかせてきた。

 「ああ、もう。 仕方がない」

 観念したドドットは、ライムをそっと抱きしめる。

 「ムードがないけど。 ゆっくりしてる暇はないわ」

 そう言うと、ライムはぎゅっとドドットに抱き付き、足を絡めてくる。 緑一色のスライム娘のライムだったが、思ったより体に張りがあった。

 「うむ」

 ドドットはライムに動きを合わせ、むっちりとした太腿の間に自分のモノを滑りこませようとした。 だが、弾力に富むライムの太腿の間で、ドドットのモノが

つぶされそうになる。

 「ぐおっ。 ちっとは加減しろ!」

 「情けない。 それでも戦う男!?」

 むっとしたドドットは、下腹に力を籠めた。 たぎる男のパワーがモノに集中し、反り返ったソードの如きファイナル・フォームに姿を変える。

 「いくぞ!」

 「きてっ!」

 ズズズッと音を立て、ライムの太腿の間を滑ったドドットのソードが、ライムの胎内へと突き入れられた。 

 「あうっ!」

 ライムがのけ反ると同時に、容赦のない圧力がドドットのソードを締め上げる。

 「ううっ……くそうっ……!」

 渾身の力を込めて、ドドットはライムを突く、突く!突く!!

 「ああ、あああっ!、あああっ!!」

 容赦の無い圧力が、突然熱く滑る粘りへと変わった。 彼を力強く抱きしめている少女の腕も溶けて粘り、獲物を捕らえる食虫植物の触手の様だ。

 「おい!?」

 「来て! お願い! でないと……」

 危機を直感したドドットは勝負に出た。 狙い定めたソードで、ライムの奥深くを抉る。

 「ああっ!」

 ライムの奥深く、熱く粘る蜜のツボにソードが突き刺さった。 快感に激しく震えるツボから熱い蜜が噴出して、ソードを付け根まで濡らす。 それは、男の

精を精気に変える、魔性の蜜だった。

 「うぁぁぁ」

 ドドットの全身が快感に震え、次の瞬間ソードが精気をライムに放つ。 

 「は……ぁぁぁぁぁぁ」

 ドドットの精気を受け止めたライムの体が、ライム・グリーンに輝いた。

 
 「必殺・ライム・タイフーン!!」

 『ライム・ドドット』の体が消えた。 緑の影と化した少女戦士が、床を、壁を、天井を、縦横無尽に飛び回る。

 「きゃぁ!」

 「あいたぁ!」

 モップや、ホウキが折れて宙を飛び、メイド達が床を転がる。

 「た、退散!」

 メイド長の合図で、ヌル・メイド達はあたふたと逃げ出し、後にはクール・ダウンのために立たずむ少女戦士だけが残った。

 「……ふぅぅぅぅぅ。 決まった」

 静かに息を吐く『ライム・ドドット』。 その中で息も絶え絶えのドドットが呟く。

 ’き、決められた……’

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