ヌル
第四章 プロフェッサー(13)
「ドクター・クロス……貴方の協力がなければ……ここまで来れなかった。 感謝しているのよ……」
プロフェッサーは呟きながら、老人の顔を乳房で挟み、こねるように揉む。 むっちりとした白い果実の間で、年老いた男の顔が見え隠れしている。
「あの、ドクターってのも魔女……じゃない魔おとこ……なんか変だな」 とドドットが傍らのエミに尋ねた。
「そっちの方じゃないわ」 エミが答える 「どちらかと言うと『超能力』……まぁ、似たようなものかしら」
「ふん? さっき言ってた『かいせき』とか『かいせつ』とか言うことか? それで、あのじいさんは何をやっていたんだ?」
「詳しく話すと長くなるわ。 そうね……あの女の魔女の能力を補填していた、と言えばいいのかしら……」
「補填?」
「さっき見たでしょう? あの女が、侵入者の女の子をウミヘビ女に変えたのを」
「ああ」
「あれは簡単な事じゃないのよ。 決まった術式で青い筋……『呪紋』と呼んでいるけど……その『呪紋』を体に刻んで、魔力を流してやる必要があるの」
「そうなのか? その『呪紋』とやらが間違っているとどうなるんだ?」
「間違っていれば、『呪紋』を刻まれた者は、みるも無残な姿に変わり、たいていはそのまま死ぬわ」
「それはまた随分と……ひどい話だ」
「そして、あの女は正しい『呪紋』を知らなかったの」
ドドットは瞬きし、エミの言葉を頭の中で繰り返す。 そして、ドクターと絡まっているプロフェッサーへ視線を投げかけた。
「まてよ、じゃあ……『ウミヘビ女』は? たまたま成功したと?」
エミはドドットを見て、答えた。
「最初、あの女がこの研究所の責任者になった時、彼女は正しい『呪紋』を知らなかった。 だからあの女は正しい『呪紋』を探す研究をから始めるしか
なかった。 『ウミヘビ女』化の『呪紋』は、その研究の成果よ」
「研究? なんだそりゃ」
「人体実験……志願者に『呪紋』を描いて、試行錯誤を繰り返したの」
ドドットはエミの言葉を理解しようとした。 そして、自分にわかる言葉に置き換えてみた。
「つまり……どう描けばいいか知らないから、いろいろ描いてどうなるた、試してみた……のか?」
エミが頷いた。
「試された奴は……どうなった?」
エミが首を横に振り、ドドットは恐ろしいものを見るような目で、プロフェッサーを見た。 そして、ようやく悟った。 エミがプロフェッサーを見るときの冷たい
視線の意味を。
「じょ、冗談じゃない!」
「そう、冗談じゃなかった。 それでもね、どうなるか分かっていても、志願者は絶えることがなかった……それほど絶望的な状況だったのよ」
「よくもまぁ……お上のお許しが出たもんだな」
「許しなんか出るもんですか。 わずかな希望にすがる人たちを犠牲にするような研究よ。 極秘扱いだったわ。 それでもそんな非道な事が漏れない
訳がなかった。 研究が始まって半年もしないうちに、研究を妨害しようとさっきみたいに武装した連中や、自称『正義の味方』が、あちこちで事件を起こす
ようになった。 そんな時よ、ドクター・クロスが研究所を襲撃して逮捕されたのは」
エミが長々としゃべっている間に、ドクターは、しゃべることがなくなったのか、すっかり押し黙ってしまっていた。
「ドクター……」
熱い吐息をドクターの顔に吐きかけながら、しなやかな下半身をドクターの枯れ切った腰と足に巻き付ける。 ヌメヌメした二股のナメクジの様な下半身の
感触に、とうに終わったはずの男根が墓場からよみがえる死人のように、ビクッ、ビクッと脈打ちながら、鎌首をもたげ始めていた。
「ドクターの力は、手に触れた生き物のスペックを読み取ること……」
「さっぱりわからんのだが?」
「さっき、プロフェッサーに触った時、いろいろしゃべっていたでしょう? 彼はあんな風に、触った相手がどんな生き物で、何ができるか。何が弱点か、読み
取ってしゃべってしまうのよ」
「……おれ達みたいな商売してりゃ、役に立つかもな。 初見の魔物がいても、どういう奴だかパッとわかると言うのは……まぁ、触れるところまで、無事に
近づけたらの話だが」
「そうね……でもプロフェッサーは、別の使い道を思いついたのよ」
「はん?」
「『呪紋』を卵に刻んで、ドクターに触らせるの」
「……すると?」
「ドクターは、その『呪紋』が生物に与える影響を読み取りることができたのよ。 判る? いままでは『呪紋』を刻み込んで、被験者がどう変わるか、経過を
観察してやっと『呪紋』の効果が判明していた。 それが、『呪紋』の効果をすぐに解析できる、能力者が現れたのよ」
「ドクター様々だな」
「ええ、あの女は狂喜したわ。 そして強引に彼の身柄を引き取り、『研究』に協力させた」
「……」
ドドットは、プロフェッサーとドクターに視線を戻した。 白い魔性の裸身の下に、老人の体が見え隠れしている。 プロフェッサーが『ヌル』であるなら、
この後にドクターに待ち受ける運命は……
「くっ」
ドドットは足を一歩踏み出し、エミが彼の手を掴んだ。
「待って。 どうする気?」
「ドクターとやらが魔女の一味だと思っていたが、今の話が本当なら、あいつは虜囚の辱めを受け、いまあの女に喰われようとしていることになる。 おれは
いい加減な男だが、 流石に見逃せん」
エミがほほ笑んだ。
「貴方のそういうところは好きよ。 でも今は、プロフェッサーの好きにさせてあげて」
ドドットが、怒りと驚きの混じった表情でエミを見る。
「あの女が、あの老人を手にかけるのを黙ってみていろというのか」
「ドクターはもう長くない、というより無理やり生かされている状態なの。 いま、プロフェッサーを引きはがしてもすぐに息絶えてしまうわ」
「し、しかしだなぁ」
「『ヌル』に捕まりかけたあなたならわかるでしょう。 苦しんで死ぬのと、『ヌル』に抱かれて果てるのと、どちらか良いか」
ドドットは乱暴にエミの手を振り払ったが、そこから動こうとせず、顔をしかめてプロフェッサーとドクターを見る。
「……看取るぐらいしか……できないのか」
「うぁぁ……」
息も絶え絶えのドクターがあげる声は、快楽の喘ぎか断末魔の呻きか判断に迷うものであった。 プロフェッサーは、無理に彼を欲情させようとせずに、
優しくなでるような愛撫を繰り返し、彼を少しずつ高みへと誘っている。
「……好きよドクター……」
囁きながら、長い舌を彼への耳へと差し込む。 さながら、彼女の言葉を詰め込んで、栓をしているかの様に見えた。
「いくら感謝しても……しきれない」
水気を失った肌へヌメヌメと濡れた肌が吸い付き、這いずる。 生気を失っていた体に、わずかだが血の気が戻ってきている。
「……でも、あなたの力……まだまだ必要なの……」
粘りつくプロフェッサーの腰が、ドクターの腹の上で前後し、愛液をトロトロと垂れ流す秘所が、次第にドクターの男性自身に近づいていく。 それは、
軟体動物が獲物を咥えこもうとしているかの様にも見えた。
「だから……私と一緒に……未来へ……」
ベチャリ……
プロフェッサーの秘所が、中途半端に立ち上がったドクター自身にぶつかり、そこで止まった。
「……」
彼女の秘所から、トロトロと生暖かい愛の滴が溢れ出し、ドクター自身を濡らしていく。 斜めに傾いていたソレが、じれったくなるような動きで立ち上がり、
反対の、秘所の方に倒れこんだ。
「フフ……フフフフフ……」
笑い声を漏らしたのはプロフェッサーの口か、それとも秘所か。 あふれる愛液の糸を左右にひきながらパックリと口を開ける秘所に、ドクター自身が倒れ
こむ。 そしてそれを抱きとめるように。陰唇がドクター自身に巻き付いていった。
「ぁぁぁぁ……」
ドクターの口から漏れ聞こえる声。 それは紛れもなく快楽の喘ぎだった。
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