ヌル

第四章 プロフェッサー(11)


 プロフェッサーの腕の中ぐったりとしていた女が悶え始めた。 ピクピクと体を震わせつつ、口から苦痛とも愉悦とも取れる呻きを漏らす。

 「ああ……ァァァァ」

 呻きながら、女は粘液で覆われた体をくねらせた。 そうして二人は、ヌチャヌチャと音を立てながら体を擦れ合わせた。

 「アアッ!……ああっ?……ヒィ」

 「クフッ……ココガいいの……ココ?……ここも……」

 プロフェッサーの手が悶える女の体を這い回る。 いや、手だけではなかった。 プロフェッサーの腕、足、そして柔らかな乳房までが、形を変えながら女の

体に吸い付き、それぞれがナメクジのの様に女の体を這いまわる。

 「じゃあ……下の方から……」

 プロフェッサーの両足が女の足に巻き付いた。 そして、プロフェッサーの足が女の足を締めるようにゆっくりと動き、そしてプロフェッサーの両足に走る青い

筋が、不気味に明滅を始める。

 「ほーら……足が気持ちよーくなって……きたでしょう?」

 「あ?……アァ……ほんと………あしが……溶けちゃいそう」

 女はうっとりとした様子でプロフェッサーの両足の愛撫に身を任せ、甘い喘ぎを口から漏らす。

 「あァ……あれ?……」

 うっとりとプロフェッサーの愛撫に身を任せていた女が、急に目を開いて自分の足を見ると、慌てた様子で足を動かそうとする。 が、思い通りに動かない

ようだ。

 「……足が……くっついてる!?」

 「フフッ……」

 プロフッサーは冷たく微笑むと、彼女の耳元に口を近づけて囁く。

 「そうよ……あんまり気持ちがいいから……溶けてくっついちゃったのよ……」

 「な……なにを言って……ひいっ!?」

 ズリュュュ……ズリュュ……

 女の足に巻き付いたプロフェサーの両足の動きが激しくなった。 不気味に光りながら、女の足へ巻き付くようにヌルヌルと這いまわる。

 「あぅ……あゥゥ……」

 「もっと……よくしてあげる……ほーら……」

 「た……助けて……あし……足が……溶けちゃ……アア……溶ケチャウ……」

 拒絶の言葉は次第に甘い響きをおび、いつしか女はくっついてしまった両足を、自分からプロフェッサーの足に擦り付けていた。

 「アン……もっと……ねぇ……モットぉ……」

 「いいわよ……もっと……感じなさい……体も心も……蕩けるぐらいに」

 そう呟きながら、プロフェッサーは両足で女の愛撫を続けていた。 一つにくっついた女の足は蛇のように長く伸び、先の方が床の上でビタビタと跳ね

まわっている。

 「あは……アハッ……」

 「さぁ……もっと……」

 プロフェッサーの愛撫が、女の腰から胸にかけてに移り。 女はビクリと体を震わせた。

 「このへんも……しっかりと変えてあげるわ……」

 今度はプロエッサーの腕、そして胸が別の生き物のように女の体を這いまわり、不気味に青く光る。

 「ひぃ……ヒィ……」

 「くふ……気持ちいいでしょぅ?……余計なことは……なにも考えなくていいのよ……快感に身を委ねていればそれでいいのよ……」

 プロフェッサーは女の耳にささやきながら、彼女の体を隅々まで愛撫する。 プロフェッサーの体に撫でられるたびに、女の体は微妙に形を変え、さらに

皮膚の質感が、そして色が、変わっていく。

 「あん……いい……体か……蕩けそう……」

 しかし、女の顔には、恍惚の表情だけが浮かんでいた。 顔の辺りへとプロフェッサーの手が這いずってくれば、甘えるようにそれを咥えて舐める。 その

指を舐める舌が伸び、先が割れて蛇の舌の様に変わっていく。 

 「もう少し……もうじき……」


 『もうじき……貴方は生まれ変わるのよ……』

 「……あの魔女。 彼女を何に変える気だ」

 ドドットが固い口調で尋ねた。

 「あの形だと、ウミヘビ女ね。 ほら、港町の航路の途中に住み着いていた」

 「なに? まさかあいつが、アレになったのか!?」

 「その先祖でしょうね」

 「……なぜだ! なぜあの魔女はあんなことをする!?」

 エミはドドットを見返した。 愁いを帯びた切れ長のまなざしは、ぞっとするほど蠱惑的だ。

 「食料問題を解決する為よ」

 「何? まさか……」

 「違う違う」

 エミが手をぱたぱたと振る。

 「何を想像したか判るけど違うわよ。 あの魔女は女達を、狼女、鳥女、ウミヘビ女みたいな獣人に変えたのよ、森ややま、そして海で生きていけるようにね」

 「……は?」

 「今、この世界は『薪』が足りなくなって、町や村が立ちいかなくなっているのよ。 でも町や村から出て、山や海で直に獲物をとる生活をすれば、最低でも

飢え死にすることはないわ」

 「ま、まてよ。 それなら漁師や狩人になれば済む話ではないのか?」

 「そう簡単にはいかないの。 貴方、護衛の仕事を辞めて明日からすぐに漁師になれと言われて、はいそうですかと転職できる? 漁を教えてくれる人は

いなくても」

 「あー……まぁ簡単にはいかないが……死に物狂いでやれば……」

 「でも簡単じゃない、そうでしょ? この世界の人たちはね、いろいろとすごい道具を作って生活を楽にしてきたの。 明日から道具なしの生活で食って

行けと言われても、はいそうですかとは行かないのよ」

 「……そりゃ苦労はあるだろうが、しかしだなぁ」

 「仮に、道具なしの生活に移れたとしても、あまりに大勢の人間がいて、全員を喰わせることができないのは判っているの。 だからこの先に待っている

のは……」

 「……のは?」

 「地獄よ」

 エミの言葉に感情は籠っていなかったが、ドトットはエミの表情の奥に苦悩の色を見た。

 (あんたは……それを見てきたのか……)

 ドドットは、その言葉を口にできなかった。

 
 「あ……アァァァ……」

 歓喜の叫びをあげて、女が身をくねらせる。 その肌は黒と白のなめし皮のようなものに変わり、腰から下の足は一つくくっついて長く伸びて、床の上で

激しくのたうっている。 エミの見立て通り、彼女はウミヘビ女へと変貌を遂げていた。

 「ハゥハゥ……ア……アツイ……」

 「今のあなたに、ここは暑すぎるはね」

 プロフェッサーは優雅な身のこなしで立ち上がると、壁のスイッチを操作した。 床に四角い大きな穴が開く。

 「この下は実験用の海水プールよ。 そこから海に出られるわ」

 プロフェッサーの言葉が終わらないうちに、ウミヘビ女と化した女はプールに身を投じた。 しばらく下で水音が聞こえていたが、やがて音が聞こえなくなる。

 「行ったわね……頑張って生き延びなさい」

 呟いたプロフェッサーは、よろけて倒れそうになり、近くのデスクに手をつき体を支えた。

 「……どうやら、私はここまでみたいね……」

 プロフェッサーは、デスクの上にあったインターコムのスイッチを入れる。


 『ミズ・エミ、見ていたんでしょう? 私はこれからドクター・クロスの処に行くわ。 最後の……『悪事』を働くためにね』

 「……私に『来い』と?」

 『ええ。 最後の仕事をしてもらうわ』 

 「了解」

 エミは、インターコムのスイッチを切ると、ドドットと廊下に出た。

 「ドクター・クロス? 誰だ、それは?」

 「貴方に言っても判らないでしょうけど……一口に言えば『悪の女幹部の手に落ちた、正義の超能力者』かしら?」

 「はぁ?」

 「名前は十文字。 正義のヒーロー『ザ・ライム・スター』の相棒だった男よ」

 ドドットは首をゆっくりと横に振った。

 「どーいう奴だ、それは」  

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