ヌル

第四章 プロフェッサー(5)


 『あ……あぁぁぁ』

 スクリーンの中で男の体が小さく震え、少し遅れてプロフェッサーの体も震える。 達したらしいとドドットは思った。

 「以外に普通だな……」

 「ここまではね」

 ドドットの呟きにエミが応え、彼はそちらを見やりエミの表情が固いのに気が付いた。

 「これであの男は終わり……」

 「なに?」

 エミは応えず、ドドットはスクリーンに視線を戻す。


 「あん……ああん……いっぱい……」

 プロフェッサーは幸せそうな顔で腰を震わせていた。 男の方も余韻を味わっているのか、表情が緩んでいる。

 「へ……なかなかいいじゃないか……」

 強がってみせる男に、プロフェッサーが艶然と微笑んで見せる。

 「ふふ……そうでしょう?……そういうふうに……体を作ったのだから……」

 「え?」

 キョトンとする男。 彼だけではなく、他の三人も床に這いつくばったまま、ハトが豆鉄砲を食らったような顔をしている。

 「作っただと?」

 「ええ……私は元は人間だったのよ、貴方たちと同じね……」

 「そ、そうなのか?」

 プロフェッサーは頷きながら、男の頭を胸に抱え込んだ。 滑った乳房が、柔らかく形を変えて男の包んでいく。

 「私はね、魔女の力を受け継いだの、おばあ様から……」

 ヌルリ……

 男の頬にべったりと乳房がくっつく。

 「魔女だぁ……悪魔の力で変身したとでも……」

 「いいえそうじゃないの……そうじゃないのよ」

 プロフェッサーが腰をうねらせ、はずみで男の腰がプロフェッサーの柔らかい下半身にめり込んだ。

 「うお……中が」

 「中が?……ふふっ……言って」

 「柔らかくて……あったかくて……ああ……溶けていくみてぇだ……」

 「貴方と私は一つになった、そう言ったでしょ……こうやって……どんなふうにも……気持ちよくしてあげられる……」

 男の顔がさらに緩み、呆けたような表情になった。 子供の様にプロフェッサーの乳房に顔をうずめ、粘つく感触を楽しんでいるようだ。

 「ああっ……あああっ……」

 「うふ……じゃそろそろいいかな……ああっ」

 小さく息を吐いたプロフェッサーの乳首から、黒っぽい液体がしみ出してきた。 その液体は、黒い筋となって乳房を流れ、男の顔を汚す。

 「あ……あ?」

 「舐めてごらんなさい……甘いわよ……」

 プロフエッサーの言葉に、男は乳房を汚す黒い筋に舌を這わせた。

 「おお……おお……」

 男は呻くような声をあげると、取りつかれた様にプロフェッサーの乳首を咥え、舐り始めた。

 「ああー……」

 プロフェッサーは甘い声を上げてよがり、男の体へ四肢を絡みつかせる。 興奮のためか、白い肌走る濃紺の青い筋が鮮やかなコバルトブルーへと変じた。

 「ううっ……ううう……」

 品のない音を立て、男は夢中でプロフェッサーの乳を吸っている。 やせ気味の男のからだに、ありえない柔らかさで男に絡みつくプロフェッサーの肢体。 

まるで男の体が彼女の中に沈んでいくかのようだった。


 「……なんか変だぞ。 あいつの体……」

 「でしょうね」


 「おい!」

 仲間とプロフェッサーの痴態を見せつけられていた一人が、悲鳴のような声を上げた。

 「お前!どうしちまったんだ!?」

 「……あ?」

 プロフェッサーと絡み合っていた男が顔を上げ、その顔に仲間たちが戦慄する。 目は落ちくぼみ、顔は骸骨に皮を張り付けたよう。 中の肉だけがこそぎ

落とされたようだ。

 「お前、自分がどうなっているのか、わかっているのか!?」

 「……?」

 怒鳴りつけられた男は、わけがわからないと言った表情で仲間を見、そしてプロフェッサーを見た。

 「あいつ、何を言ってるんだ?」

 「ふふ……貴方の変わりようが恐ろしいのよ……」

 「変わりよう?……あ……」

 プロフェッサーは、顔だけでなく全身が骸骨の様にやせ衰えた男を、愛しけに抱きしめた。 柔らかい肉に骨ばった体が埋もれる。

 「さっきのおっぱい……おいしかった?」

 「あ……ああ」

 「あれはね……貴方を内からとろとろに蕩けさせてしまうの……」

 「蕩ける……うう……」

 うわ言のようにつぶやく男の腰へ、プロフェッサーの白い腰が粘りつき、骨ばった腰を覆い隠す。 柔らかく蠢く尻の向こうで、男の腰がどうなっているのか、

はたから見ている者たちには想像すらできなかった。

 「とろとろに蕩けて……気持ちのいい白い粘液になってしまうの……ね……」

 プロフェッサーの体が柔らかく動き、男の口から悦楽の呻きが漏れた。

 「ふぁぁぁ……」

 「……ふふ……ふふふふふ」

 そして、プロフェッサーの濡れた唇が、男の耳元で恐ろしい言葉を囁く。

 「そうなって、しまいたいでしょう?」

 「ああっ?……ああ……ああ……」

 男はドロンと曇った目でプロフェッサーを見つめ、かくかくと人形の様に首を縦に振った。


 『……!!!!』

 スクリーンの中で、床に這いつくばっている三人が意味不明の叫びをあげた。 それを見ているドドットも、びっしょりと汗をかいている。

 「あの女が人間だった……魔女? 魔女の力で変わっちまったってのか? どんな恐ろしい力なんだ、それは!?」

 ドトットの言葉に、エミは恐ろしいほどの無表情で応える。

 「魔女の力が恐ろしい力と言うのは否定しないわ。 けど、あなたの言葉はまるで的外れね」

 「どういう意味だ?」

 「恐ろしいのは魔女の力じゃなくてあの女の心よ。 彼女は最初から計画して、全てを理解したうえで『ヌル』になった……いえ、違うはね。 『ヌル』を設計

して、自分から『ヌル』になったのよ」

 「な、なんだと?」

 ドドットはエミの言葉が理解できが、立ち尽くす。 エミは繰り返した。

 「男を蕩かして、食い尽くす『ヌル』。 それを設計し、自分から『ヌル』になったのよ彼女は。 魔女の力は、ただそれを可能にする力だっただけに過ぎない

……」

 エミは、スクリーンに目を戻した。

 「ほんとうに恐ろしいのは、それを実行した彼女の心よ……」

 ドドットはただ立ち尽くし、エミとスクリーンを交互に見やることしかできなかった。

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