ヌル

第ニ章 伯爵(4)


 その夜、ヌル伯爵の館は二重の喜びに沸いていた。 子爵から伯爵への昇格、そして伯爵夫人の奇跡の治癒

である。

 「こんなにうれしいことはない」

 喜ぶ伯爵の計らいで、使用人、同道してきた護衛たちにも、もてなしの料理がふるまわれた。

 「いやぁ、よかったよかった」

 「まったくだ、酒はうまいしねーちゃんはきれいだ」

 使用人用の食堂でうかれて酒を呑んでいる仲間たちを横目で見ながら、ドドットは静かに杯をあおる。

 (羽目を外しすぎだぞ)

 心の中で呟くにとどめたのは、座を白けさせたくない彼なりの配慮だが、ほかの護衛たちはお構いなしに騒いで

いる。

 「これであちらの方の持て成しがあれば」

 「言うことないんだが」

 「おい……」

 さすがにドドットがたしなめようとすると、彼らの給仕をしている若いメイドが酒を注ぎながら「私でよければ、今夜

お相手いたしましょうか?」とにっこりと笑って応じるではないか。

 「なに?お、おい本当かい」

 あっさり応じてくれるとは思っていなかった彼に、メイドは頷いて見せた。

 「片づけの後でなら。 それで宜しければ」

 それを見ていたほかの護衛たちは、顔を見合すと「お、おい俺も」と我先にメイドに迫りだした。

 「まぁ、一晩にそんなに何人もの殿方のお相手はむりですわ」

 と流されて、がっかりする護衛たちに、メイドはにっこり笑って後を続ける。

 「お姉さま方を呼んできますからお待ちください。」

 『おおー』

 歓声を上げる仲間たちのあまりに正直な態度に、ドドットはひとり憤懣やるかたない態度で杯をあおった。


 「貴方、そろそろ休まれますか?」

 「うむ」

 伯爵夫人となったマドレーヌは、夫と共に寝室に入った。 メイド頭のセリアは、もう一人のメイドと二人の着替え

を手伝い、服を丁寧に片づけると寝室の外に下がった。

 「お疲れでしたら……」

 「いや、心配は無用だ。 君こそ大丈夫なのか?」

 伯爵の問いに、夫人は黙って夜着をはだけてみせた。 うっすらとピンク色を帯びた白い肌から、匂い立つような

色気が立ち上る。

 「来て……」

 夫人の声に隠しきれない欲情が漂う。 伯爵は、半ば吸い込まれるように寝台の上の夫人に体を重ねていった。


 一方、ドドット以外の護衛達も寝室に引き上げようとしていた。 ドドットだけがちびちびと酒を舐め、動こうとしない。

 「物好きな奴だ。 お前まさかあっちの方か?」 

 ドドッに護衛の一人が尋ねた。 あの後、若いメイドが全員の相手に足りるだけのメイドを連れてきたのだが、

ドドットだけが断ったのだ。

 「つまらんことを言うなよ。 そんな気にならなかっただけだ」

 本音を言えばちょっと残念ではあったのだが、油断しきった仲間たちと同じに見られたくないという見栄が優先した

ドドットだった。

 「そうかい、じゃあおやすみ」

 ドドットを残し、護衛たちは従者用の寝室に引き上げた。 ドドットは、大きな机の上に灯ったロウソクの明かりを

ぼんやりと見ながら、ぐいっと杯をあおる。


 「ああ、貴方……ああっああ」

 伯爵の下で夫人は乱れ、悶えている。 つい先日まで下半身が動かなかったとは思えないほどの激しさだ。 いや

長いこと男の肌に触れて来なかった反動が来ているのかもしれない。 そう思い、伯爵は夫人にせがまれるままに

彼女を愛した。

 「ああ、もっと……」

 夫人の手足がしなやかに絡みつき、伯爵の体を夫人に縛り付けた。

 「マドレーヌ……」

 伯爵は夫人の胸に自分の胸を擦り付ける。 濃い胸毛が夫人の乳首を荒々しく撫で、夫人は伯爵の下で身をくね

らせた。

 ヌチュ……

 伯爵は胸に湿り気を覚える。 自分の胸のゾリゾリした感触が、心なしか滑らかになったようだ。

 ニュ……ルリ

 今度は下腹のが滑った。 夫人の体は汗でしっとりと濡れているかのようだ。

 「大丈夫かい。 汗をいているようだが」

 夫人は黙ったままほほ笑むと、いやいやをするように首を横に振って、伯爵の首に腕を絡める。 その腕もすっか

り濡れ、二の腕が伯爵の首をくすぐっている。

 「……」

 伯爵は、夫人に口づけすると自分自身で愛しい夫人の神秘の花弁をくすぐる。

 「ぁぁ……」

 切なげな声を上げ、夫人がぎゅっと伯爵を抱きしめた。 同時に夫人の神秘の奥から、情熱が熱い液体となって

溢れ出し、伯爵自身を熱く濡らした。

 「うっ?……」

 夫人のソレは、生き物のように伯爵自身を包み込んでいく。 同時に伯爵は、夫人への欲望が熱くたぎってくるの

を感じた。 夫人の中に入れたい、一つになりたい思いが湧き上がり、抑えようがなくなる。

 「マ、マドレーヌ……いくよ」

 声を絞り出すと、病み上がりの夫人の体を考えて堪えながら、自分自身を夫人の神秘に入れていった。

 「ぁぁぁ……」

 細い声で呻く夫人と裏腹に、彼女のソコは激しい欲情の生き物と化していた。 滑った花弁が伯爵自身に絡みつく

と、有無を言わさぬ勢いで引きずり込んでいく。 あっという間に半ばまでが夫人の中に埋まった伯爵自身に、激しく

蠢く襞と熱い滑りが襲いかかった。

 「うぅっ……」

 伯爵自身に熱い快感が襲いかかり、それが伯爵の体を満たした。 抗うこともできぬまま、彼は夫人の上で身を

震わせる。

 「貴方……ぁぁ感じる……」

 グチャグチャと淫猥な音が二人の間で響く。 伯爵氏自身と夫人の愛花が激しく愛し合っている……いや、夫人の

淫花が伯爵自身を捉え、それを貪っているのだ。 固くなっていた伯爵のソレが、夫人の胎内の貪るような愛撫の

前に、膨れ上がって硬直し、されるがままになっていた。

 「ぁぁ」

 「おぉ」

 伯爵と夫人は、主導権を自分たちの分身に奪われていた。 熱い快感が体にあふれかえり、身動きすることも、

考えることもできず、快感に呑みこまれた体を震わせることしかできない。

 ビチャビチャビチャ……

 獣が獲物を咀嚼するが如き音が夫人の胎内から漏れ聞こえ、静かな伯爵の寝室を満たしていた。

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