ヌル

第一章 伯爵夫人(3)


 翌朝、メイドたちは日も明けきらぬうちに起床した。 これから身支度を整えて掃除、食事の用意と忙しい一日が待っている。

 「ミリ、朝よ」
 エリナはメイド服に袖を通しながら同室の少女に声をかけた。 続いて部屋履きに足を通しかけ、いぶかしげにミリを見る。

ミリの朝は騒がしく、いつもは『寒い』『眠い』を連発しながら服を着替えるのが常なのだが、今朝に限っては妙に静かに淡々と

服を着替えている。

 「ミリ?」

エリナに声をかけられ、ミリはそちらを向く。

 「なに……」

 「いえ、なにか元気がないみたいだから」

 「ん……」

ミリは少し黙った後、微かに笑って応えた。

 「大丈夫……少し慣れていないだけだから」

 「そう?」

 相槌を打ったエリナは、足を床につけて部屋履きの具合を確かめ、腰かけていたベッドから立ち上がる。

 「私は調理番だから先に行くね」

 エリナは言い残して廊下に出て、急ぎ足で厨房に向かいながら首を傾げる。

 「慣れていない……何に?」
 後で聞いてみようとエリナは思ったが、忙しい一日が終わるころにはすっかり忘れ、疲れた体をベッドに放り込むのだった。


 …

 ……

 う……

 …

 ……

 あっ……

 夜中を過ぎるころ、エリナは妙な声で目を覚ました。 

 う……

 目を閉じた耳を澄ますと、ミリのベッドから声がしている。 小さな声でミリに話しかける。

 「……ミリ? 具合でも悪いの?」

 ……

 ミリの声が止まった。

 「……大丈夫?」

 ……大丈夫

 声の調子はしっかりしていたのでエリナは安堵する。 と、木のきしむ音がしてミリが起き上がったようだ。 寝返りを打ち

ながらエリナは聞いた。

 「……一人でいける?」

 ……

 ミリの返事はなかった。 と、突然自分の上に重いものが乗ってきた。

 「きゃっ!?」

 目を開けると、黒い影が自分の上に覆いかぶさっている。

 「ミリ? なにしてるのよ」

 驚きながらもエリナは声を抑えていた。 メイドたちの部屋の壁は薄く、騒げば皆が起きてしまう。 

 ……

 エリナの抗議に対して、ミリは無言のままで動こうとしない。 エリナは力づくで少女の体をどけようとする。 そのとき、薄い

毛布の上でミリとは違うものが動いたような気がした。

 「やだ何かいる。 ミリ、やめなさい」

 再び抗議は無視され、ミリはエリナの上から動こうとしない。 エリナはかっとなり、ミリを突き飛ばそうと力を込める。 その

とき、毛布の裾から何かが滑り込んできて、彼女の足に巻き付いた。

 「!?……」

 何が起こったのか、エリナには判らなかった。 突然体が動かなくなったのだ。 そのとき、窓から青白い月の光が差し込んで

きてミリの顔を照らし出す。 青白い月光に照らしだされたミリは、少女とは思えないほど妖しく微笑んでいた。

 「エリナ……」

 艶っぽい口調でエリナの名を呼んだミリは、体を起こしてエリナの毛布をはぎ取る。 

 (……!)

 もしエリナの体が自由であれば、今度こそ遠慮ない悲鳴を上げていただろう。 エリナの上に載ったミリ、その女性自身から

艶やかに光る一本の『紐』が生え、それがエリナの足に巻き付いている。 そしてその『紐』はヒクヒクと脈打っていたのだ。

 (ミリ! 何それ! どうしたの!)

 心の中で叫べも、エリナの思いは言葉にならない。

 「ミリ……大丈夫よ……すぐに貴方も……あ……あぁ」

 ミリの表情が、『微笑み』から『陶然とした女の笑み』へと変わる。 同時に、彼女の秘所から伸びた『紐』がビクンビクンと

のたうち始めた。

 「あ……いい……」

 ミリの下腹、へその下あたりが柔らかく蠢く。 内側で何かが動いていて、それをミリは感じているのだろう。 蠢きは次第に

下に移り、ついに秘所のすぐ上まで降りきた。

 「ああっ……」

 (!?)

 ズルリという感じで、ミリの胎内から柔らかそうな何かが顔をのぞかせる。 ナメクジの大きいやつにも見えるが、エリナは

こんな大きなナメクジは見たことがなかった。 そのナメクジは、『紐』を伝うようにしてエリナのからだ取りつこうとしている。

 (やめてー!)

 彼女の心の声もむなしく、『ナメクジ』がエリナに触れた。 滑った感触が気色悪い……と思ったのは一瞬だった。

 (やめ……)

 エリナの心の声が止まる。 『ナメクジ』触れられた途端に、エリナはものを考えることができなくなり、ただ寝ているだけの

人形の様になってしまったのだ。

 「……」

 エリナがおとなしくなった途端、『紐』はエリナの足から離れてミリの胎内に戻った。 ミリ自身もエリナの体から離れると、

自分のベッドに座りおとなしくエリナを見ている。

 (……)

 人形のようになったエリナの足の上を、『ナメクジ』は意外な速さで這い進み、ついに彼女の秘所に触れた。

 「あっ……」

 エリナが声を漏らす。まるで人形に生命が宿ったかのような変化だった。

 「あ……ああ……」

 エリナの秘所に張り付いた『ナメクジ』が、ビクリビクリと不気味に脈打つ。 その動きに合わせるかのように、エリナが甘い

声を漏らす。

 「……」

 エリナの様子を見ていたミリは、すっと立ち上がると、静かに夜着を脱ぎ始めた。

 メイドたちの部屋を照らし出す青白い月の光、それがゆっくりと陰っていった。

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