ヌル
プロローグ(2)
ヒュウ……
風の音に男は我に返った。 謎の女は、優雅な仕草で濡れた長い髪を背後にまとめ、こちらを見ている。
フ……
赤い唇に笑みを浮かべ、彼女は白い腕を彼に差し伸べる。
「お!? なんだお前は!!」
男は慌てて一歩飛び下がり、短剣を抜いた。 女は恐れる風もなく、首を傾けて何か考えている風だったが、
少しの間をおいて問いに答える。
「私?……私は……そう、私は『ヌル』」
「ヌ? 『ヌル』だと? なんだそれは、お前の名前か?」
女は曖昧に笑って首を縦に振り、そしてしばしの沈黙。
「ンフ……」
女は鼻息の様な笑い声を漏らし、一歩前に出た。 濡れた体から透明な滴が垂れ、地面にしみを作る。
「ま、待て」
男は片手を上げて女を制し、必死で考える。
(こいつが魔物か? うーむ、しかし……どうすりゃいいんだ?)
教会が理由も告げずに立ち入り禁止にした場所だから、金になる魔物が居るに違いないと決めつけてやって
来たが、いざ魔物(?)を前にしてみると、相手の正体も分からないし、価値がある物を持っていそうもない。
(人間相手なら、身ぐるみはいで売りゃ何がしかの金になるだろうが、こいつにはぐものもありゃしねぇ……と、
待てよあいつが出てきたアレかな?)
女は『殻』の様なものから出てきた。 ひょっとすると、そっちに値打ちがあるかもしれないと思いつき、男は
裸の女の脇を抜けて、彼女が入っていた『殻』を調べた。
「うわ、ベタベタじゃねぇか」
薄茶色の『殻』は、大きな『虫の蛹』のようだった。 珍しい物かも知れないが、価値があるようにはと見えない。
「なんだこりゃ」
がっかりした男は、『蛹』の向こうに鈍く光る物を見つけた。 『蛹』を回り込んで近づいてみると、何かが
埋まっていて、その一部が露出しているらしい。
「おおっ!」
これぞ目当てのモノに違いないと、渇ききった土をかき分け、埋まっていた物を掘り出す。
「これは……なんだ?」
料理に使う蓋つきの鍋に似ているが、掘り出したこれは金属製だ。
「鍋なら土を焼いて作るが……待てよ、金持ちは金属作った高い鍋を使うと聞いたことがあるぞ」
高い鍋を買う金があるなら、その金でうまいものを喰えばいいだろうに、金持ちのやることは判らない……など
と呟きながら、その『鍋』をくるくると回して調べる。 何かの容器らしいが、中に何が入っているか判らず、なにより
開き方が判らない。
「『鍋』だとしても、金属製ならけっこうな売れる……まてよ、中に何か入っているなら、そっちの方が金になる
はずだ」
中身を守るためにこんな高いモノを使うぐらいだから……と男は登場してら初めて頭を使ったセリフを口にした、
その時。
「ねぇ……」
耳元で熱い囁きが聞こえた。 振り向いた男の顔に、女が濡れた頬を摺り寄せてくる。
ヌルリ……
女の頬は、異様に滑っていた。
「お、おい……」
戸惑う男に、女は濡れた体を摺り寄せて来る……
「お……おおおっ」
男は裸で地面に横たわり、女が男の体に自分の体を重ねている。
ヌリュリ、ヌリュリ、ヌリュリ……
異様に滑る女の体が、男の体の上を這うように蠢いている。
女は呆れるほどに積極的だった。 男に抱きついて濡れた唇で男の唇を奪い、舌を絡めてきた。 その時に
なって、男は彼女の全身を濡らしているモノが『水』ではなく、油の様な粘り気のある液体であることに気がついた。
「ハァ……」
女はその粘る手を下穿きの中に差し入れ、男のモノをヌルヌルにして揉みほぐそうとする。 さすが驚いた男は、
女の腕をつかんでやめさせようとしたが、女の腕もヌルヌルしたモノに覆われていて、滑って掴むことができない。
じたばたともがいているうちに、女は男を裸にしてしまい、押し倒されてしまったというわけだ。
「ン……ネェ……」
誘うような、甘えるような声を上げ、女は男の顔に胸を押し付けて来る。
「むぱっ……ぱっ……ぱっ……ぱっ……」
変な声上げているのは男の方だ。 別に頭がおかしくなったわけではない。 ヌルヌルで覆われた女の乳房に、
『頭』を包み込まれて、息が苦しくなってきたのだ。
「ぱっ!……おれを殺す気か!」
「イヤン……」
女は肘で乳房を抑え、体を左右ら揺らしてすねたとも、謝罪とも取れるあいまいなゼスチャをしてみせる。 組み
敷かれた男からは、ユサユサと揺れる乳房に視界を遮られ、おんなの表情が全く見えない。
(魔物かと思ったが、頭が弱いただの女なのか?)
男は、魔物の中には女の姿をし男を惑わして精気や命、魂を奪い去るものがいる事は知っていた。 そういう
魔物は男を誘惑するための技を持ち、抗えないほど魅力的だという事も。 しかし、目の前の女は……
(まぁ、色白でそれなりに美人だが、人にしか見えねぇぞ……乳がやたらと大きいが。 体のヌルヌルは『蛹』の
中でついたんじゃねぇかぁ)
只のスキモノ女で、あの『蛹』に閉じ込められていたんだろう、と決めつけた男は、据え膳喰わぬ手はないなと
彼女の『お礼』を楽しむことに決めた。
「もちっと加減を……うぉう」
女か再び乳を顔に押し付けてきた。 今度は息ができるように加減しているが……
(や、柔らけえ……)
ヌルヌルとした白い乳房は、片手どころか両手にも余る大きさで、手でつかめばヌルヌルとした表面に指が潜って
いき、顔を谷間に埋めれば、深々とした谷間に吸い込まれていく様な気がする。
「んむむ……」
乳房の谷間を舌でかき分けるようにし、顔を振って隙間を作る。
「アン」
女が甘い声を上げて乳房を小刻みに振り、ヌメヌメとした白い塊が男の顔を捕まえたままフニャフニャと揺れる。
「わむ……」
二人が立っていれば、ヌルヌルの乳房は彼の肩に担がれていたろう。 今は彼の頭を挟み、地面の上に抑え
込んでいる。
(……まさかこのオッパイが魔物だとかいうオチじゃないだろうな)
男はそんなことをふと考えた。
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